2026年1月4日、Waiveの日本武道館公演は、
たくさんの観客がみつめるなか、燦々たる光に満ちた美しい光景を残した。
この連載では、まさにそこにたどり着くまでの歩みを追いかけて来たわけだが、
最終回となり、改めてこれまで杉本善徳が語ってきたことを振り返ってみたい。
おそらく彼の人生にとって極めて大きな節目を迎えたこれから、
ギタリストなのか、ヴォーカリストなのか、コンポーザーなのか、
はたまたもっと異なる何かなのか、
どんな手段でもって、どんな物語を綴っていくのか、楽しみに待っていよう。
一番自分を疑うのは自分。誰よりも自分を信じられるのも自分

●最終回なので、日本武道館までの歩みを振り返ってみたいと思うんですが、連載の最初はどういったゾーン(層)の観客をねらうかという話を繰り返ししていました。当初は、Waiveを全く知らないホワイトゾーンが候補に挙がっていたわけですが、結果として、ヴィジュアル系が好き、でもWaiveのことはそこまでよく知らない、グレーゾーンみたいなお客さんを獲得した結果があの武道館だったかと思うんですが、その辺りはいかがですか。
「僕もそうだと思う。グレーゾーンというか、オフホワイトゾーンっていうか(笑)、そういう人たちを獲得したなと思いますね」
●そのゾーンは、最初はあまり考えていなかったんですか。
「ホワイトゾーン説はメジャーデビューが前提だったから、デビューがなくなって、田澤君たちがほかの活動でホワイトゾーンを連れてくるとか、僕が自分のファンを取り戻すとかを考えたんですね。『CROSS ROAD Fest.』みたいなイベントをやれば、『SWEET TRANCE』でWaiveを観たことがある、っていうレベルの層に何千人とアピールできるというのは、最初から思っていたことです。そういう層の人たちに今のWaiveを見せれば、獲得できるだろうなって」
●ものすごく仮の話ですけど、もしデビューできていてホワイトゾーンにアピールできていたら、全然違うストーリーの結末の日本武道館があったと思います?
「あったと思う。2023年にデビューできて、フェスに出るとか、 2年間違うフィールドで動けていれば、それはあったと思う。たとえばですけど、ここのファン層には刺さるでしょうとイメージしてるバンドはいるから。いま、Waiveの物語を書き切ったと思ってるけど、なんかモヤモヤしてる感じがどうしてもあるのは、やり残したことがあるからだよなって正直思っているんですね」
●そこで勝負してみたいと。
「したかったし、僕は未だにそっちでの勝負にも勝てると思ってるし。もし勝てないとしても、結果を見てない限り、どうしてもわかんないなってなるから」
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●確かに。負けたら負けたで結論が出ますもんね。
「漫画家が打ち切りを告げられて、『CROSS ROAD Fest.』でこれくらいファンが増えて、武道館に6000人ぐらいのファンが集まりましたっていうストーリーで、完!、杉本先生の次の作品もご期待ください、で終わってもいいんだけど、まだネタがあるんですよ。それは、またWaiveをやるとか、そういう話とは全く別のものだけど。やっぱりWaiveは一人でやってることじゃないから、そこがバンドだよなぁって思うんですよ。そういうのも含めて、バンドの物語は難しい。ただ、哲学みたいな話になっちゃうけど、自分を信じる手前のこととして、一番自分を疑ってるのは自分であるべきだと思うし、誰よりも自分を信じられるのも自分だと思ってる。自分を疑うタイミングと自分を信じるタイミングの使い分けみたいなのが、人生の目的を叶えるためのキーワードだと思うんです。できないんじゃないのかなと思うときに、できないって言い切るぐらい、自分のやり方を疑うべきだと思う。Waiveの武道館までで言うと、お客さんが入らないっていろんなところで言ってたのは、それを打破する自分をつくらないと本当にそうなるから、自分を疑えよって自分自身に言っている時期なんです。そういうことを言わなくなってるときは、お客さんが入ると信じてるとき。これをコントロールすることが絶対に大事なことだと思うんです」
●それは意図的にスイッチを入れるような感じのものなんですか。
「自分を信じ切るみたいなことは、自然にはならない。周りから影響を受けて、やっぱり人間だからブレるし、揺らぐ。でもブレたときに、ブレに振り切ることができると、振り子の原理的に、信じるに振り切れるときが来るような気がする。過去の自分の発言に引っ張られて選択してる奴は、本当にやりたいことができなくなっちゃう可能性があると思う。だから、去年の俺はこう言ってたけど、ごめん、あれ間違ってましたって言える力を持つことは絶対に必要なんです。僕らで言うと、「アルティメットミラクルジャンプ」じゃなくて「燦」なんだって貫いたこととかがそう。再結成から解散までの間でできた曲をこれじゃないって言うのは、めちゃくちゃプレッシャーとストレスがある。でも、いま俺たちを変えるのはこの曲だって言って新しいものに全振りできたから、それは力だと思ってる。それをやってきたつもりだし、この先の人生でもそうやっていくべきだと思ってるから、メジャーデビューの話もしかり、ホワイトゾーンに訴えかけたら? っていうのもしかり、やれたらこういう結果を得たはずだと思ってるところがあるんです。どんな局面でも最終的に自分は自分のプロジェクトを成功させると信じてるから」
チケットを手売りすることで、ファンが杉本善徳に手渡した自信

●そうなると、武道館にあれだけの人が来たことに関してはどう見ているんですか。着券率がどうなるか、っていうのはあったと思うんですが。
「着券率はよかったんですよ。僕が予想していたよりもさらに4%多かった」
●もともと高くなると見ていたんですね。
「僕はそう思ってた。それこそ自分を信じてたかもしれないですね。僕が一番自分で手売りをしたから感じていた部分があるだろうし」
●実際に売ったという肌感として。
「うんうん。誰かに会いたいだけが理由で手売りに来る人って、わかるじゃないですか。一枚ずつの購入を何往復もする人はほぼ見かけなかったし、これは信じていいかもとはかなり思ってた。だから、これぐらいは来るかなっていう予想はありました。それはもちろん、一人で複数枚買ったチケットをさばけなかった人の気持ちを否定することではないですよ。武道館のあの景色に対して、僕だけが感じられる醍醐味はありました」
●不安とか疑問が消えて、安心とか喜びとかではなく、醍醐味。
「醍醐味でしょう。僕も当然あらゆることに対して不安はありますけど、これについて疑問はないんですよ。信じられてるから。一人ひとりの顔を見て、チケットの受け渡しだけでなくお金の受け取りまでやって、そういう事実が意味をつくっていくはずだと思ってたし、それを積み重ねたから。ファンから自信につなげてもらったんです。これまで接点のなかったような、Waiveを初めて観たばかりの人とかと三秒だけの会話でも直接の接点を持てたのは、自分だけの特権だし、かなり貴重な体験ですよね。だから、ステージ上から見た景色を、僕が一番愛しいものとして見られたんじゃないかな。誰のファンとか何がキッカケかなんて関係なくて、単純に自分がチケットを売った人たちやもん」

●そうなると、お客さんがあれだけ来ていたという事実は、自分がやってきたことの結果だっていうふうに実感しているわけですか。直結しているというか。
「もちろんつながってる部分はあるんですけど、直結ではないかな。数字は結果論でしかないから。最初から言ってたみたいに、別に百人しか集まらなくてもよかったところはあるから。MC でも話しましたけど、このプロジェクトの過程で見たい景色は見れた気がしてるんですね。だから、武道館のステージから見た景色は別のものになってる。得たかったものはとっくに得てしまっていたから。ファンクラブが発足したときのファンミーティングで、ファンクラブ先行でチケットを買った人たちが、たくさんの人が武道館に入っている光景を見て、これは私たちみんなで一緒につくった光景なんだって感じられたらいいよねっていう話をしたんです。その人たちにそういう景色を見てほしかった。それを一番わかりやすくするのが集客だし、あの日の景色だから、物語の上では必要なものだったけど、僕にとっては物語のオチをいいものにするためのものでしかなくて。書きたかった部分はとっくに書き終わってたんです。だから、なんかね、直結とはちょっと違う気がするんだよな」
●なるほど。
「それでも強欲なところがあるから、デビューを経てたどりついた武道館の景色も見たいよな、みたいな気持ちがどうしても芽生えてしまう。この物語の中では、やり切った感があるから直結すべきなんだろうけど、どうしても想像上の別のストーリーみたいなものがあるし、それはたぶん永遠にある。この物語に納得がいってしまうから、直結したものだと言いたくないんでしょうね。それは人生そのものに対してもそう」
●逆に言うと、納得がいかないから生き続けられるみたいなことなんですか。
「そんな気もする。La’cryma Christiの渋谷公会堂を観た後に、TAKAさんとLINEで少しやりとりして、今後もバンドをするのか聞かれて、どうなんでしょう、何がしたいのかわからない気もするし、何だってしたい気もするんでって伝えたら、そのときにやりたいことをやったらいいと思うよって言われたんです。そのとおりだと自分でも思うんですけど、やりたいことを全部やるほど人生には時間がなくて」
●そうですよね。
「そういうことも込みで、人生ってそういうもんだとは思うんです。MCでも言ったけど、どんな成功者でも、その人が生きたいように生きられてるとは思えない。武道館をやろうが、観に来てくれた同級生みたいに結婚して子供をつくってるような、そういう生き方もしたかったと思うから、ずっと隣の芝生が青いんです。結局、全部を手に入れることは誰にもできないな」
●手に入ったものだけで満足できたらいいんでしょうけどね。
「あー、そうそう。僕はやっぱり強欲だから、ずっとこうやって生きていくことしかできない。三十年前は武道館ができたら絶対に満足してたはずだし、『SHOXX』に載ってるバンドやUMEDA HEAT BEATでワンマンしてるバンドを憧れの気持ちで見てたわけで。それが当たり前のことになって、その手の感情はなくなってきた。武道館の翌々日に、lynch.の玲央君がライヴの感想をいつもの長いLINEで丁寧にくださったんですね。その返信に、武道館をやれたことはすごくよかったけど、これはラッキーパンチが当たったみたいなもので、一回の武道館は逆に言うとみんなできるかもしれないっていう気持ちでいまはいる。この規模を複数回できる奴が本物だと感じているし、改めて玲央君をリスペクトしたって伝えました」
Waiveの日本武道館から、新たに生まれていく物語
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●もっと武道館ライヴができたぜ、みたいな感情があるのかなと思ってました。
「いや、もちろんやってよかったです。 やったことは絶対よかった。だから武道館の打ち上げで、みんなに言ったもん。 お前も武道館やるべきだぞ、お前もやるべきって。みんなに言った。アルルカンにも言ったし、メリーにも言った」
●この連載では、自分たちが日本武道館をすることに対して、ヴィジュアル系シーン全体に対する波及とか影響みたいな話もして来ましたよね。ああいう形で武道館が終わって、いい前例をつくれたと思えているとか。
「ある! それはめちゃくちゃある! ヴィジュアル系に限らない気がする。この武道館プロジェクトを始めた小さなきっかけのひとつなんですけど、ニューロティカの映画や他いろいろなプロジェクトを手伝っていた、milktubというバンドをやってるbambooさんという先輩が、“ニューロティカの武道館見て感動しちゃって、俺も絶対武道館やるって決めたんだよ”みたいなことを熱く語ってくれた日があって、これぐらいの熱量を持ったほうがいい、俺も武道館やったろって思ったんですよ。そこから一年間ぐらいずっと考えて武道館を発表したんです。その後、bambooさんはずっと応援してくれて、手売りのチケットも買いに来てくれて、武道館にも来てすごく喜んでくれて。自分が武道館をやるまでコンサルしてほしいとまで言われたんですよ(笑)。でも、冗談抜きに、これまでの道程があったからこそ、そういうのが生じたんだと思う」
●それだけ評価されたということですね。
「僕に直接言えない距離で見てる奴もいるし、全然やり取りのなかった後輩から急に連絡が来たりもしてるし。何年も会っていなかったのにThe Benjaminのミネムラ氏が、これは新しい一つの形だと思うっていうことをツイートしてくれてたのも嬉しかった。そういうのを見てると、100%意味があるよなって思ってるんです。これが武道館でなかったら、やっぱり起きてなかったと思うし、わかりやすい言葉で無謀なことをやったことが動かした物語だと思う。そこには、武道館にお客さんが入ったことのおかげで動いた部分もあるんですけど、僕はそんなことあんまり関係ないと思っていて、勇気を持って踏み込めば、周りの人たちがその勇気に対して呼応するし、感化されるし。そこで既に意味がある気がするんですよね」
●結果ではなく。
「打ち上げの一次会の帰り、アルルカンの奈緒が話しかけてきて、Waiveはまたやるでしょ、そのときはまた一緒にやりましょうみたいな勝手なことを言ってきたから、またやろうと思うシーンとかやれる環境をつくってよって話をしたんですね。La’cryma Christiがやってもいいと思えるイベントを僕らがつくったのと一緒ですよね。物語は、誰か一人しか書けないわけじゃないんですよ。みんなが書いているものがスピンオフ的につながったりする可能性もあるから、お前らがやるべきことをやって、俺は俺のやるべきことをやってたら、それが偶然か必然か交わる可能性につながっていくんです。今回、そういう出来事が起きたんじゃないかな」
リーダーという言葉が意味することだけではない、杉本善徳が詰まっている連載になった

●武道館の後にすることは全く見えていないとのことでしたが、実際に武道館公演を終えていかがですか。
「やりたいことはいっぱいあるんだけどな。ひとつ終わらせると、違うものを生み出していかないといけないっていう気持ちがどうしてもありますよね。いままでの自分の思考を全部否定したことをやったほうが面白いかなと思い始めちゃう。僕は演出というものを重視していて、いい意味の裏切りこそが最大の演出だと思ってるから。武道館が終わったんだから、ちょっと切り替えて、次はどういうものをつくっていくべきなのかを考えていますね。新しい杉本善徳が見られるみたいなものをつくっていかないとダメかなと思ってます」
●楽しみにしています。では最後に、連載最終回ということで一言いただいていいですか?
「確かに。 最終回なのを忘れてた。いや、なんだろうな、さすがにこんな機会ないじゃないですか。目的があるこの期間、この尺で話すって。かなり貴重な経験をさせていただいたと思ってるし、プロジェクトの過程を見せられた気がするんで、かなり意味のあるものを残せてるんじゃないのかなと思うんですよ。僕としては自信のない時期とか疑問を抱いている時期にも意味があることが証明できればいいかな」
●そうなるだろうと思ってはいましたが、ギターの話はかなり少なくなりましたね。
「楽器はやればやるほど上手くて当たり前になっていくから、そこに人間性みたいなものが色濃く出せるようになれるかが重要だと思うんです。歌は声質で決まる部分があるから、ちょっと特異なものではあるけど、楽器はそうじゃないから、僕はヒューマニティを磨くしかなかったんだと思う。歌は、楽器をやる人間にとってはちょっと特殊で、僕は歌に対してこだわりがあるからこそ、ヴォーカリストへの嫉妬みたいなものがあるんです。なんなら、歌へのコンプレックスが僕を形成したとさえ思ってる。その結果、単に楽器を弾くプレイヤーみたいなものを超越したところに行けた。だからこそ、リーダーであることに対して、もっと評価がほしいんですよ。僕がやっていることは、単にリーダーという言葉が意味することだけじゃなくて、プランナーでもあるし。何て言うんでしょうね、ストーリーテラー、作家なんですって」
●なるほどね。
「リーダーなんていっぱいいるけど、絶対にその辺のリーダーと僕は違うと思ってるから。そこを前面に押し出す言葉がないんですけど、それが二年間のこの膨大な文字数になって証明できたのはよかったと思っているし、有り難いことだと思ってる。いつかは、この言葉も稚拙に感じるようになる日がくると思うんですけど、それも僕の成長がわかる礎のひとつになっていくと思うので、アーカイブされ続けてほしいですよね。それだけさかのぼって、僕の考えに触れられるようになったのは、すごくよかったです。読んでくれた人に対してももちろん感謝してます。まぁ、これだけ長いんで、だいぶ脱落者はいるでしょうけど(苦笑)」
