『月イチ杉本善徳/Waive』第一回 前編に続き、
後編では、これからWaiveをどうしていきたいのかという問いに対し、
昨年末時点で杉本善徳が考えていた、そのアタマの中が明らかに。
4月からのツアーでは、その片鱗が見られるのか!?
日本武道館というゴールに向けて、一瞬たりとも見逃せない活動が続きます。
(PHOTO BY KEIKO TANABE)
勝つために、開き直って負ける覚悟を持つ
●(こんな曲をという要望に応えるという回答を受けて)となると新曲は、いまWaiveを知らない人に対してとか、そういうことを考えたうえで書くと。
「うん、そうだと思います。そこがやっぱりここ最近の議題にはなりがちですね。2000年前後のヴィジュアル系ファンみたいな人たちにアプローチするんだとしても、そこで僕らを知らない人なんていっぱいいるわけですよ。そこにちゃんと刺さることを、曲も歌詞もファッションも、何に対しても考えないと。例えばですが『SHOXX』や『FOOL’S MATE』を読んでるときに、Waiveのページを飛ばしてた人たちを振り向かせるようなことをやるべきか、とか。これまでがむしゃらにやってきて、いまの結果にしかたどり着けてないバンドなんだから、同じことをやったって一緒じゃないですか。何かが変わらないとダメでしょ。僕は、特に写真の話をすごくしてます。曲は、骨子なので変えすぎると急にどうしたん?って話だし、僕にもWaiveの曲はここをはみ出ちゃダメというものがあるし。だから新曲は、Waiveの枠の中のものをやるから、(外)ガワで変えるしかないんじゃないのかなっていう話をしてます」
●確かにWaiveの外見は、いわゆるヴィジュアル系っぽい、ある種の泥臭さはないと思います。
「要はWaiveって、売れてないのに売れてるバンドみたいに見えてるんですよ。Waiveを知ってるけど見たことがない人は、メジャーのバンドだと思ってたりすると思う。たとえば、WyseとWaiveを混同してる人がいたりするのは、特徴になってるものが少ないからだと思うんですよね。なんとなくボケーっと見える距離からだと名前にWのつく、なんとなく小綺麗な服着た集団にしか見えていない、みたいな。でも、バンドの中にアイコン的なメンバーがいるだけで変わってくるから、僕は誰に何と思われてでも、自分がWaiveの中の悪としてアイコンであるべきだと思う」
●一人だけでも、もっととんがっているというか。
「『爆ぜる初期衝動』ツアーで、ちょっとカジュアルな衣装にしたんですね。楽屋で撮った集合写真を見たら、“この華のないバンド何なん、めちゃくちゃ普通やん”と思って。全員ちゃんと似合ってはいるんだけど、個々を知らない人にとってはバンドとして没個性というか。こんなバンドになりたいみたいな十代の若いファンがつくとは元から思っていないけど、そこより上の世代から頑張ってる大人ってカッコいいとか負けてられないとか、そういう感情を引き出せないとダメだから。一歩前に浮き出ないと、とにかく始まらない気がする」
●なるほど。
「Waiveが武道館をやろうっていうんだから、メジャーみたいなやり方をするんじゃなくて、ちゃんとサブカルチャーのアーティストとして見せるべきなんですよ。アーバンギャルドのアー写を見て、ポップスだって思わないじゃないですか。そういうことが必要なのかな。ポップカルチャーなのかサブカルチャーなのか、振り切りたい。いまはすごく中途半端やし、なんならポップとサブカルそれぞれの美味しくないとこ取りをしてる(笑)。開き直って、勝ちを得たかったら負ける覚悟がないと。攻撃は最大の防御なんですよ。格闘技でたとえると、パンチを出さないと、判定まで持っていっても結局負けちゃうということなんです。無理にでも打っていって手数を数えてもらわないとダメだから、このままでは絶対あかんと思う。だから、考えてることはあるし、取りようによっては前向きに見えるとこもあると思いますよ」
言葉では表すことができないにものに人は感動する
●サブカルという言葉からはいろいろなことが連想されると思いますが。
「サブカルという表現が本当に正しいのかわかんないですけどね。今どきのサブカルを目指すからって、サカナクションみたいなことをやりましょうと言ってもドン引きされるでしょうし。それに、田澤君が絶対的に体育会系ボーカルですからね。僕が文化系だから、その差がちょっとある。そこが難しいところでもありますよね。例えば僕は、ギターが上手くなることは目指してないですよね。近年、AIヴォーカルみたいなのが発達してきて、もう機械だとわからないレベルまで来てるんです。でも、正確な歌に心は躍らないというか、絶妙な揺らぎみたいな、言葉では表すことができないものに人は感動すると思う。それは演奏も同じ。それって、僕が格闘技が好きな理由と似ていて、格闘技でも勝利することが必ずしも人気に繋がるわけじゃないんです。つい最近だったら、朝倉未来が負けたことでより色気や深みが出て、人間性みたいなのが支持されてるのが面白い。同じようなことを、音楽でもすごく思うんですよ」
●格闘技のことは全然わからないですけど、負けて人気が出るみたいなのは想像できますね。
「どこで負けるかみたいなことが、人にはすごく大事なんじゃないかな。だから、勝った人の発言よりも、勝つと思われてた人が負けたときの発言のほうが聞きたかったりする。何かを覆した人、もしくは覆された人がどう思うのか、この浮き沈みの間にあるものが魅力なんですよ。負けを経験しても勝つまで戦っていく人たちのほうが僕は好きなんですよね。負けたいわけじゃないけど、自分もそういう人間でありたいと思う。これがなかなか音楽だと伝わりにくいですよね」
●それは、ドラマとかストーリーとして負けがあるのがいいということですよね。
「もちろん、もちろん」
●クライマックスに向かう途中に負けがあるストーリーが好みだということ?
「それもある。Waiveをひとりの人格として見ると、彼のストーリーは、そうあってほしい。そりゃできることなら自分個人はむちゃくちゃ楽して生きたいし、何の努力もせずに勝ちを得たい。でも人の心を震わすのは、負けを経験していることで生まれる魅力とか色っぽさみたいなものじゃないかな」
●その理論で言うと、若いときに勝てなかった人たちが40代で再びバンドをやっているというのは、それだけで一つのドラマなわけじゃないですか。
「そうだと思う。だからさっきも言ったみたいに、30、40代の人たちに、音楽以外のことも含めて“こんな風になりたい”とか、“我々にもワンチャン(ス)あるのかも”とか、そんな風に思ってほしい。何か追い風みたいなものになれたらいいなと思ってます。もちろん、“みんな頑張れよ”みたいなことを言う気はないし、人それぞれがあなたの中で頑張れよって思う。僕がWaiveをやっていくうえで言うと、悩むことも、嫌な思いを背負うことも、知恵を出すことも、惜しまない。全裸になる気持ちでやろうぜっていう感覚ではいる。それをね、少しでも感じてもらえたら、やる意味があるのかなと思うし、そこに説得力を出すためには、今までの惰性としてO-EASTでやるんじゃなくて、武道館なんです。ちゃんと立ち向かったという事実を見せるのに、無謀さは必要なファクターなんですよ。結果、武道館に500人しか集まらなかったとしても、無謀な選択をするほうがその努力を見せられる気がするんです」
●なかなかポジティブなお話が出てきてよかったです。
「でも、この話を理解してもらうのは難しいんですよ。やってる理由がわかりにくい気はする。勝ちたいみたいな言葉にすることはできるのかもしれないけど、何が勝ちなのかが曖昧だから、わかりにくいんじゃないかな」
●バンドとかミュージシャンとして考えると、勝ちは動員とかセールスになるのかもしれないですけど、人生の価値は本当にわからないじゃないですか。そう考えると、40代のメンバーが自分の人生のうえで手に入れようとしているのは、要するに数字の上で成功することだけじゃないというのは、真っ当な大人だったらわかると思うんですけど。
「そうだといいんですけどね」
●その辺りのお話は、引き続きおうかがいさせてください。まずは第一回、ありがとうございました。