セルフカバーベストアルバム第二弾となる『RED ALBUM』が、5月28日にリリースされる。
本人にとっても意外性があったこの作品について、その理由を含め、振り返ってもらった。
Waive GIGS 2025『蒼紅一閃- -soukouissen-』を前に、
Waive『LAST GIGS.』も発表され、泣いても笑ってもあと8ヶ月。
二度とない、いまこの瞬間を大切にしたい。
『RED ALBUM』をレコーディングして、新たな発見があった

●『RED ALBUM』は、『BLUE ALBUM』とすごく印象が違って聴こえたので驚きました。
「僕もそう思ってるんですよ。そもそも2枚つくる予定ではなかったし、結果的に『BLUE ALBUM』に、「いつか」とか「ガーリッシュマインド」みたいな、認知度が高そうな曲が入って、そのほかは初期の頃の曲が入ったんですよね。だから、『RED ALBUM』はいまいち引きが弱いような感覚があったんです。でも録っていくと、歌ものが多いし、メロディの強さの平均ラインが『BLUE ALBUM』より上がったんですよね」
●曲が本来持っているものの違いが印象の違いになったと?
「あとは、年齢を重ねたことによって、歌詞への考え方が変わっていったりしちゃうじゃないですか。特に、恋愛ものの歌詞だと、そういうこともあったなぁみたいな、ちょっと冷めた感じになるというか。『RED ALBUM』はそういうものが多くて、近年ライヴで演奏してるときは歌詞的な意味では曲に入り込めなかったりしたけど、レコーディングで改めて歌詞に触れると、ええこと言ってんなぁとか思ったりしたんですよ。『RED ALBUM』は、自分的に再発見がある作品になったと思ってるし、制作も面白かったですね」
●仕上がりとして、『BLUE ALBUM』の収録曲よりキャリアが生かせていて、結果的に一枚の作品としての客観的に見たときのクオリティは高いんじゃないかなと思ったんですよね。
「ああ、そうかもしれないですね」
●何か決定的に違うことができたみたいなところはあるんですか。
「『BLUE ALBUM』のほうがソリッドで、打ち込みやマニピュレータを入れられなかった時代の曲が多くて、それに比べると今回はシンセが入ってる曲が多いですよね。多いってほどではないんだけど。特に当時のバージョンと全然違うことをやったのは、「PEACE?」とか「世界がすべて沈む-pain-」とか。「PEACE?」は、解散に向かっていく流れが既にあった時期の曲だったからレコーディングもぎこちなかったし、バンドがもうコミュニケーションを取れていなかったんで。改めて聴いたら、このままの再録じゃ良くないなと思って、ギターをもっと考えて弾いておきますか、っていうふうに追加されていったんですよね」
「世界がすべて沈む-pain-」は、僕の原体験からしか絶対に生まれない

●「世界がすべて沈む-pain-」、すごくいいですよね。
「めちゃくちゃいいと僕も思っている。今日のところは『RED ALBUM』で一番いいと思っている」
●個人的には、バラードだったら絶対「spanner」が一番と思っていたんですけど、『RED ALBUM』を聴くと、断然「世界がすべて沈む-pain-」がよかったです。
「「spanner」もいいんだけど、歌詞が覚醒前の僕の歌詞なので(笑)。曲はよくできてると思うし、演奏もいいのが録れていると思う。ただ、音源で聴くと冷静な状態に歌詞が入ってきちゃうから」
●「spanner」は、ライヴで聴くとぐっときますよね。
「すごいわかる。表情とか目に映るものがあってこそ、というのはだいぶあるから。まだまだ未熟すぎた頃の曲だから音楽面で解釈するとあらゆる意味で弱いし、歌詞はもう入ってこないですよね。自分でさえ何言ってるかわからん(苦笑)。「spanner」の歌詞は、『BLUE ALBUM』寄りなんですよね。『RED ALBUM』の収録曲は歌詞が強いと思うから」
●「世界がすべて沈む-pain-」は、まさに恋愛がテーマの歌詞ですけど、恥ずかしさみたいなものとか、若さを感じるようなことはありませんか。
「ここまでいくと、ほかの誰にも書けないのではという想いが勝る感じがある。「君と微笑おう」みたいな歌詞は、作詞家モードに入れば今の自分も書けるかもしれないって思っちゃうんですよ。でも「世界がすべて沈む-pain-」は、僕の原体験だけからしか絶対に生まれない言葉たちでしょ。語彙力はいまのほうが成長してるんだけど、この感受性はそのときにしか絶対にないし、奇跡の産物だよなって思う。それにちょっと自分でも感心した。ほかに「わがままロミオ」とかも歌詞がいいと思ったんだけど、「世界がすべて沈む-pain-」は異質な良さを感じましたね」
●そう思えるようになったのは、いまのタイミングだから? 年齢ゆえ?
「どうなんだろうなぁ。再演でやってるときは、過去の自分に対して“たいしたことじゃないのに絶望なんか感じやがってよ”、みたいな感覚で、過去の自分に斜に構えてしまっている時期があったんです。あの頃の感覚が思い出せなくなってるけど、僕の人生で、本当に世界が全て沈んでしまうんじゃないかなと思うぐらい落ちたのは、2005年以降しばらくなかったから。でも、その後にもっと強い痛みを知る機会があって、昔の痛みのことを自分の中で突き放さず、抱き締められるようになったというか。“お前、辛かったよな”って目を見て言ってあげられるようになった。人生経験が増したことで、真正面から昔の痛みと向き合えるようになった。だからこの曲が一番凝ったし、いつまでこの曲の制作をやってるんだろうと思うぐらいやっちゃった。この感情に対して適当には向き合えなかった。恋愛の歌詞でも、「わがままロミオ」とか「君と微笑おう」とかもあんまり恥ずかしいって感じではなかったかな。「春色」をいま録ったら、恥ずかしい気持ちになったのかもしれないけど」
●ちなみに、「春色」は収録曲の候補には挙がっていなかったんですか?
「僕は挙げてました。でも、あっさりと外れて。理由はわからないけど、アルバムとして考えたら「春色」を入れるとバラードが多くなるからかな?」
●確かにそうなんですけど、個人的にはちょっと残念かなって。
「自分でも言うとキモいけど、Waiveはバラードに強い曲が結構多いと思います。「春色」が収録曲から落ちるのとかって、その証明でもあるのかなと。「unforgettable memories.」とかもいい曲だと思うし、普通のバンドやったら収録されるレベルの曲なのではって思う。でも、それぐらいバラードが強いんやなぁと。正直あんまり自覚してなかったんですけど、Waiveのバラードは、ただテンポが遅いとか、ただ暗いとかじゃなくて、しっかりとパンチがあるというか」
●バラードが必要だから書きました感がないですよね。
「ああ、そうですね、そうかもそうかも。それに、シングルカットされてもおかしくないバラードが多い気がする。あの時代のバンドの規模とかジャンルの中で見たら、レアだったのかなっていう気もしますね。「Sotto…」がシングルになったり、最初のデモテープが「spanner」だったり、なかなかほかのバンドがやらないことをしてますよね」

●『BLUE ALBUM』のとき以上に、晴れやかな印象をお見受けしているんですけど、何か感覚的に違いがありますか。
「こんなことがあっていいのかわからないけど、『BLUE ALBUM』と『RED ALBUM』と対だよって言っておきながら、『BLUE ALBUM』の制作で思ったことが絶対生かされちゃうから、一段階踏んだと思うんですよね」
●それは単純に、ファーストアルバムをつくったからセカンドアルバムでは、みたいなこと?
「そういうことだと思うんですよね。全員の能力値が高いバンドだと思うんで、一つくったらこれだけ成長してしまうんだなっていう感じは正直ある(苦笑)。今回のほうが時間的にはタイトだったんですけど、レベルが高いですよね。バンドのポテンシャルが高い気がしちゃいましたね」
●そうなると、寂しさがあったり?
「うーん」
●自分たちはできるんだって、解散を前にしたいま、改めて思うわけじゃないですか。
「なくはないけど、あるって言うほどもない気がしてますね。作品と向き合うと、もっと多くの人に聴いてもらいたかったね、みたいな気持ちはあるけど。マスタリングのときに、ソニーのエンジニアの方にずっとやってもらってるんですけど、“めちゃくちゃいい曲だな”と何曲も何回も言ってくださって。その都度、僕は、“でも、売れないんですよ(笑)”って答える。いい曲なのにもったいないみたいな気持ちはあるけど、でも、解散する理由、続けられない理由、売れない理由、そういうことに対して人のせいにできない答えをいっぱい持っちゃってるんで。あらゆる意味で寂しいというよりは、そういうもんだよねって思ってる。それは諦めとは別ですよね」
●なるほど。
「いまの自分たちでWaiveというものをパッケージし直せた。そこには、過去と向き合うダメージみたいなものも当然あったけれども、でもやりたかったことがあるんだもんねって思うから。その目的のためには、痛みはついてくるものだし、それはわかってたし、痛かろうが何だろうがやるでしょって。やらないという手もあったのに、やろうと言い出したのは僕なんで。そこは覚悟の上だし、アドレナリンが出てる間は痛くないかな。いまはあんまり何も思ってない。それは解散に関してもそうで、本当にその瞬間を迎えたり、ステージから降りたときに、痛みみたいなものはドーンと来る可能性はあると思うんですけど、その瞬間まではたぶん痛みは感じないと思うんですよね」
たとえ新曲を披露する機会が一回しかなくても、新曲を書く

●アルバム発売やWaive GIGS 2025『蒼紅一閃- -soukouissen-』までまだ少し時間がありますが、9月から始まるツアーWaive『LAST GIGS.』が発表されました。
「『蒼紅一閃 -soukouissen-』ツアーは、タイトルの通り、『BLUE ALBUM』と『RED ALBUM』の曲を中心にやることになりますよね。秋のツアーでは新曲をやりたいから、新曲を書くターンが来てるわけです」
●あ、新曲の話をしばらくしていなかったんですけど、ラストツアーで新曲を発表するんですね?!
「僕は書く気でいますよ、絶対に。でないと、『BLUE ALBUM』『RED ALBUM』をつくった意味のオチがなくない?っていう気がする。「火花」と対になると曲と言うか、始まりと終わりがないとダメでしょって思ってるから。いまは、その制作のほうに意識が向いちゃってますね」
●曲調としてはどういうものを考えているんですか。
「「火花」みたいという言い方はめちゃくちゃ適当ですけど、いわゆるアッパーな曲だと思いますけどね。「Days.」とか「HEART.」みたいな曲でもないと思うし。終わりに向かっていく中で書かれたアッパーな曲。解散するっていうマインドの中で生むアッパーな曲。それを最後につくっておかないと後悔するとすごく思ってるんです。それをやったら、このバンドで僕がやりたかったことはある程度やったことになるかな。あとは、MVを撮ったりもしたほうがいいんじゃないのと思ってますね」
●アルバムは完成したものの、ひと息つく感じではなさそうですね。
「ちょっと休みますけどね。6月のツアーで新曲を披露するつもりはないから、もっとのんびり書いてもいいんですけど、じっくり書こうみたいな感じのものでもない気がする。ツアー前には書いたほうがいい気がするな」

●となると、そんなに時間はないですよね。
「最初から考えてたわけじゃないんですけど、『RED ALBUM』が、『BLUE ALBUM』の影響を確実に受けちゃったものになったじゃないですか。作品って、そういうふうにできている気がすごくする。「火花」を出さずして『BLUE ALBUM』を録っていたら、ああいう作品じゃなかったと思うんですよ。「火花」を録ったことで、Waiveってソリッドでカッコいいなっていう発見につながったから、ああいう選曲とかサウンドになったんだと思う。振り返ってみると、その間に「ミラクルウルトラ~」なんとかみたいな曲があって(笑)。なんであの曲が生まれたかって言うと、ソリッドなことをやりまくったけど、武道館に人を入れるためには、もうちょっといまっぽいことをやらないとダメなんじゃないのかと思ったからだし。あれが生まれた理由があるんですよね。で、結果としていまっぽいことはできないバンドなんだということを知り(笑)、それを経て『RED ALBUM』ができたから、順を追っていくと成長の歴史がそこにはあって、制作してる人間にとっては現在進行形の成長がある。だから、『RED ALBUM』の次にあるべきものが何なんだろうって思うんですね」
●もちろん最後の曲なんだけど、その過程のうえに生まれてくるものなんですね。
「2005年当時は、取材でも言いまくってたけど、13本の解散ツアーで13回しか披露しないと決まっている曲を書くことに対する葛藤があった。でも、20年経ってもその曲を聴いてもらっているという事実をいまは知ったから、たとえ武道館での一回しか披露する機会がなかったとしても、その先20年とか、ファンの人たちも自分らも棺桶に入れるかもしれない曲、葬式で流すかもしれない曲になるんだっていうマインドになってる。そのときに、この向き合い方でいいんか?って、自分に問いかけて書こう、自分の死に向き合って書こうと思ってるんです。それは、バンドの死も含めて。「火花」から始まって、ここまでの流れがなければ、この気づきには至れなかった気がする。だから、『BLUE ALBUM』を録る前に、新曲を書かない、書く、書かないって葛藤が何回もあって、ここに至っているのは、やっぱり経験しないとわからなくて、想像していたことなんてほぼ起きないからなんですよね。でも、それが現実なんですよ」
●それはある種、人生の真理ですよね。
「それがすごく意味のあることだと思うから、その意味をちゃんと曲として残すべきでしょう。だってあなたクリエイターなんでしょ?って、自分に対して思ってる。今回のレコーディングでもすごく思ったけど、僕の本質はやっぱりどこまでいってもクリエイターであって、マネジメントをしようが、プロデューサーをしようが、ものづくりにこだわってしまう。楽器を弾くだけのプレイヤーになることもできない。どの立ち位置にいようが、自分の満足するものをつくりたいのが僕の正体だから、そこにちゃんと向き合った最後の作品はあるべきなんです。Waiveのクリエイトはこれですっていう答えを最後まで追い求めないと。Waiveに対するクリエイターとしての気持ちが成仏してないんですよね。だから、成仏できる曲がいるんだと思う。2005年当時は、契約などもあってアルバムをつくらないといけないという消極的な理由で曲を増やしたけど、いまは誰になんて言われようが、俺は自分の意志でこの曲をWaiveに最後に書いたっていう曲を書きたい。それがやり残していることだと思ってる」
●どんな曲が生まれるか楽しみなような、ちょっと寂しいような。
「曲をつくることも、解散ライヴをすることも、自分がやり切ったって言えるようにしないとダメだし、そこにはちゃんと向き合っていけてるかな。だからこそ、なんで解散するのかっていうところがどんどん赤裸々になっていってますよね。そこで、もったいないみたいな気持ちもゼロではないけど、とはいえ、どれだけクリエイティブなもののレベルが上がろうが、歳をとろうが、我々は相いれない人間4人だと思ってるんです。でも、相いれない奴ら同士だから、この音が生まれているのも事実だと思う。仲良しこよしでやってたら、これは生まれなかった。短命なバンドだったからこそ、これが生まれたと思う。「火花」含めてこの先に新曲ができるんだとして、それは、復活から解散まで残り3年間の活動と決めたから生まれるものだし、解散中ですって言って続けていた場合には同じ曲は絶対に生まれていないものだから。クリエイティブって、そういうもんでしょと思う」
カウントダウンは始まってるから、観ておいてほしい

●いままではずっと、武道館までどうしていくかみたいな話をしていたような気がするんですよね。でももう完全に、Waiveというバンドをどう畳んでいくか、違うフェーズに入った感じがしますね。
「そうですね、僕もそう思ってる。もう過去の曲を録り終わっちゃいましたからね。これまでは過去の話をなんとなくしてられたけど、そのターンが終わっちゃうんだよね。『蒼紅一閃 -soukouissen-』ツアーは2枚のアルバムの曲をするツアーだけど、そのツアーが終わったら、そこから本当に解散の話しかないですよね、絶対に。それはめちゃくちゃ思ってる」
●ただ、解散は確かに近づいている感じがしているんですけど、武道館はあんまりリアリティがなくて。
「いまのWaiveの武道館は誰にも想像できないと思いますよ。でも、秋ツアーぐらいには、急に現実味を帯びてくると思う。ビジネス的に煽りたいわけじゃないけど、そこになってから焦っても、もうカウントダウンが始まっちゃってるから。今回のツアーを観ておいたほうがいいんちゃうかなって、めちゃくちゃ思ってますけどね」
●確かに確かに。
「言葉にしにくいけど、ここを観ておかないと、その後のモードはかなり変わっちゃうから。秋以降、気づいたときには遅いって言ったら変ですけど、そのときには“観ておけばよかった”という言葉が出てくると思ってます。もう一本多く観ておけばよかったとか、この曲を聴いておきたかったとか、今回のツアーでしか回収できないこともあると思うんですよね」
●確かに、「この曲を聴いておきたかった」というのは出てきそうですよね。それって、その機会が失われたときにしか気づけないんですけど。
「僕らでさえそれは思ってるから、セットリストの組み方がめちゃくちゃデリケートなんですよね。武道館については、もっと想像できるような材料があればとは思うんですけど、すべては前にしか進んでいかないというか。いまは、本当に進むしかないんですよ」