Waiveの再録アルバムの詳細が発表された。
11月27日に第一弾となる『BLUE ALBUM』が、
来年春には第二弾として『RED ALBUM』がリリースされる。
彼らがこれまで生み出してきた曲の数々を、
2024年に改めて耳にできる歓びに胸を高鳴らせているファンも多いだろう。
とはいえ、制作中の本人は感慨に浸るどころか、過去の自分自身と悪戦苦闘している様子。
今月は、まさにレコーディング真っ最中の杉本善徳の頭の中をお届けします。
「DECIDE」は収録曲から漏れるけど、「TRUE×××」は入る
●再録アルバムを出すということはおうかがいしていましたが、2枚になったのはどういう理由からなんですか。
「ドラムを録り始めたときから収録曲を完全に決めてなくて、そのままレコーディングが進んじゃったんですよね。この辺りの曲を録りましょう、みたいなふわっとした感じで。だから、“あれ、この曲は入らないんですか?”みたいな話が出てきたりしたんです。それで曲を足したりしているうちに、15曲と16曲と増えていき、いっそアルバム2枚にしたほうが、それぞれをプロモーションする機会もできるし、再録アルバムを2枚出すという考え方にしませんかっていう提案を事務所側にしたんです」
●それで、アルバム2枚になったんですね。選曲に関しては、やはりライヴでよく演奏している曲が中心に選ばれたんでしょうか。
「いまとなっては、ライヴでよくやってる曲がそもそも選ばれた曲とイコールになってしまう感じはありますね。いろんな意味で、いま披露される曲には理由があるわけなので、結果的にそうなるのかな」
●曲を作ったときから時間が流れているので、過去の曲対して違和感を感じるようなところがあるんでしょうか。
「そうですね。だから、ライヴでやれてる曲を収録することになってるんですよ。ライヴでやれない(やっていない)曲がアルバムに入ってこないのは、過去にすでにこれは違うなという経験を済ませているからな気がします。たとえば「DECIDE」とかって、スタッフが近年も何度かセットリストの候補に提案してきたんですけど、スタジオリハーサルで演奏を重ねる中でメンバーそれぞれが違和感をうったえるようになっていき、セットリストをFIXさせる頃には“やめときますか”みたいになっちゃうんですよ。その曲をあるべきテンションで披露しているイメージがわかないみたいな。他にもそういう曲はあるんで、結果的にアルバムに収録したのはライヴでやってる曲と似るんだと思います。これだけ何十年とライヴしかやってなかったから、ライヴで演奏してる曲にはセットリストに入るだけの理由があるし、入ってない曲には入ってないだけの理由があるんです」
●そのせいか、順当な印象ではありますよね。「Blood vessel」は初のCD収録となりますが。
「入っている曲に意外性は少ないですよね。これ入ってないの? は、あるにしても。僕が再録を最初に提案し始めたのは2021年の渋公公演を考え始めた20周年の頃で、そのときに再録を考えた主な理由は、田澤君がこの先も音楽を続ける上で、過去にやってたWaiveってどんなんやろ?って、彼のその後のファンが聴いたときに、下手くそやなって思われないように、逆も然りで彼が過去にこれをやっていたよと胸を張って言ってくれるものにしたかったというのがキッカケだったので。それを踏まえて、聴いてもらいたい曲、歌、演奏、それらのパッケージみたいなものを考えると、普段聴いてもらいたいと思ってない曲を入れてどうするねんってなりますよね」
●聴いてもらいたいという点では、善徳さんとしてもあのときに書いた曲を残したいという気持ちもありますか。
「あるのはある。自分的には、本当はこの曲を入れたい、みたいな曲は正直あるんです。でも、一瞬はそう思っても、考えていくと入らない理由もわかる。たとえば、「TRUE×××」は、どっちかと言うといま披露する際にテンション感を作っていくのが難しいタイプの曲だけど、これが入らないとWaiveの再録作品としてぼやけてしまうと思う。「DECIDE」は漏れるけど、「TRUE×××」は入るよね、みたいなのがバンドとしては暗黙の了解としてある。僕は入れたいと思ったけど、現段階では2枚目にも入らない可能性が高い曲があるんですね。バラードっぽい曲なんですけど、それを入れるとバラードの比率が高すぎるアルバムになるから、その曲を入れないのもわかるんです。「そっと…」と「C.」が『BLUE ALBUM』に入って、このラインアップだと『RED ALBUM』には「spanner」が入るべきだと個人的には思うから、残り枠数がどれぐらいあって〜みたいなのは、どうしても生じてくる。なので、その曲が入ってもおかしくないけど、漏れてもおかしくない」
●そうやって順番を付けて考えていくと、確かに納得感がありますね。
「「そっと…」でさえも、下手したら漏れる可能性ってあるじゃないですか」
●いや、それはないでしょ。
「なくはない。僕はそう思ってますよ。「そっと…」は、Waiveの中だとちょっと異質な曲というか、最後一番盛り上がるまで、Waiveのバラードにしてはサビのメロディが弱いと言うかパンチ系じゃないと思うんですよね。僕は、この曲構成にも意味を感じるけど、Waiveは、Bメロの最後でピタッと止まって、はい、ここからサビ、しかも強いメロと歌詞! みたいな曲構成が多いので、そういうパンチの強さを上から選んでいくとすると、「そっと…」はスルメ側なんでちょっと弱いかなって思う。世の中的には、パンチ力=曲の良さみたいな風潮もゼロじゃないんじゃないかなと」
●世の中的にはそうなんですけど、構成とか曲調みたいな部分よりも、曲への思い入れみたいなところで収録曲が選ばれると思っていたんですよね。
「それは、わかる。でも、これはね、どんな曲であるかということと思い入れと、両方大事な気がする。エモくて懐かしいみたいな、思い入れも込みで聴いてくれる人が、このアルバムを聴く人の何割なのかを考えると、5割ぐらいしかいない気がするんです。下手すると、5割いないかも」
●確かにそうかも。
「4割から5割だと思うんですよ。その残りの5割から半分以上、全体で言うと、3割とか3.5割ぐらいが、Waive解散以降のそれぞれの活動でファンになった人。要は長く応援してくれてはいるけど、当時のWaiveを応援しているわけではなかった人たちだと思うんですよ。残りの1割ぐらいが、今回のプロモーションとか新規で入ってくる人たちを中心としたその他だと思うから。全体的に考えたら、懐かしいと思われることは当然の大前提がゆえに、いい曲が多いとか、好みの曲がある、みたいなことを改めて言わせる必要があると僕は思ってるんです」
●それはそうですね。
「エモさだけでいくと、さっきからしつこく槍玉に上がるけど(苦笑)、「DECIDE」は最初のCDに入ってるよみたいな感覚もあるだろうけど、でもやっぱり、いまの自分たちにとっての勝負できる曲でいかないとダメな気がするんですよね。思い出作りではなく、武道館のために活動していることは、我々にとって切り捨てられるわけがないし、それが絶対的なテーマだから。だから、ライヴセレクトが限りなく近いと思います。バラードの曲数を考えてしまうのも、きっとその感覚だからだと思う。本来、全部バラードでもいいやんってなるけど、こんなにバラードばっかり入れたらあかんかなみたいな感覚があるのは、セットリストを組んでる感覚と近い気がする」
懐かしい2枚の『INDIES』を思い出させる青と赤
●『BLUE ALBUM』と『RED ALBUM』の曲の割り振りに関しては、何らかのテーマとか理由みたいなものはあるんですか。
「それはないです。あえてないんです。1枚のアルバムにまとめていたとしても、コンセプトなんてものはなくて。あくまでも再録作品であるという話はメンバーやスタッフと重ねてきたから。デザインとかアルバムタイトルとかを決めるときにも、その話をしてました。タイトルにしても、たとえば『INDIES 3』がいいんじゃないの? みたいな意見は当然出るんですよね。でも、この作品は『INDIES』『INDIES 2』の再録なわけじゃなく『HURT.』の曲も入っているんだし。その考え方からすると、あくまでも過去のものが再録されたという事実だけが全てで、曲順であるとか、この曲の歌詞がどうだとかみたいなことを考え出すと、よくわからないものになってしまう。過去のWaiveを2024年に録り直したものっていうだけでいいし、コンセプトみたいなのはないんです」
●タイトルに関して、青と赤というワードが出て来たのは?
「タイトルを決める会議では、『INDIES』の話ばっかり出てきたんです。でも、インディーズという言葉自体、もういまは誰も使ってないでしょ。たとえオリジナルアルバムだとしても、『INDIES 3』はちょっと出しにくい時代だと思うし、避けたいと。でも、『INDIES』の青と赤のジャケットの印象って強いよねみたいなことを、とにかく『INDIES』のイメージから逃れられないマネジメントのおじさんが何度も言っていて(笑)。なるほど、一理あるというか、それをやったらピンとくる人たちがいるのはわかるもんねと思ったんです。それで、そこから何かを汲むことを考えつつ、けれどあまり深い意味を持たせたタイトルにはしたくないという意志から、色を青と赤にして、1枚目は『BLUE ALBUM』にしようよ、ビートルズの『WHITE ALBUM』みたいな感じだけど白とか黒じゃないのってWaiveっぽいでしょ、決めていったんです。アルバムというのは、写真のアルバムみたいな、思い出みたいな意味とも重なるし。アルバムタイトルに対しては、僕はそれぐらいの感覚ですね」
●逆に深い意味を持たせたタイトルはつけたくなかったわけですよね。
「意味がないものにしたことに意味がすごくあると思う。ベストでもないしシングルスでもないし、初期とか後期みたいに区切ったヒストリカルなものでもないし。とにかく考えれば考えるほど新しく意味をこじつけるものじゃないと思ったから。タイトルがなくてもいいぐらいなんですよ。1枚だけだったら、『NOW PRINTING』とかにしてたと思います。ジャケットデザインがまだないときに、斜めに「NOW PRINTING」って書いてあるみたいなやつ」
●アー写に関しては、『BLUE ALBUM』だから青を基調にしてるんですよね。これまで、ヴィジュアルのお話をいろいろしてきましたけど、やはりWaiveらしいところに落ち着いたというか。
「カメラマンやデザイナー、スタイリストと事務所のスタッフと僕で、打ち合わせしたんです。最終的に、これまでのヴィジュアルの感じでいかないと、誰かわかんなくなっちゃうという意見が多くて。いまさら急に変わったヴィジュアルにして、嬉しいファンはいるのか? みたいな。僕は、逆算していこうよっていう提案をしたんです。武道館で着る衣装を考えたうえで、それまでにどんな衣装を着ておくか考えようと。新しい衣装を着られる回数はもう決まってるわけだから、その数回のうちに、ここではこういう衣装、ここではこんな衣装、っていうふうに考えていかないといけない。そう考えたときに何をすべきですかって考えると、いまさら変なことはできないなっていう意見が出たんです。それである程度、いままでのWaiveと印象が変わらないもので、ただ構図はあんまりやってこなかったものにしたり、最近は減ってる、バチッと一発で全員を撮影しようということが決まったんです。あとは、しいて言うなら、何だろう、若く見えるみたいなことはやろうという話がありましたね」
●若くってどういう意味ですか?
「歌詞も曲もとにかく青臭いから、見た目と乖離してないようにしたほうがいいと思ったんです。だから、実年齢より若く見えるようにという話はしました。メイクとか衣装とか、照明の当て方とかですよね」
1曲1曲にめちゃくちゃ時間がかかってます
●まだ制作中ではありますけど、詳細が決まって、アー写も新しく撮って、武道館に向けて確実に進んでいる感があるかなと思うんですけど、いかがですか。
「まだあんまりないかも。「火花」のときとそこは一緒で、発売して、ファンの反応を受けることで変わる気がするんですけど、まだ作ってるから。もちろん出来上がりが想像できるようにはなってきてますけど、どっちかというと不安があるかもしれないですね。果たしてこの作品が響くのかな、みたいな感覚はすごくある」
●それは、さっきおっしゃったお客さん像で言うと、どういう人たちに対して不安があるんですか。
「あらゆる層ですよね。古い層にも受け入れられるのかわからないし、新しい層にも古臭い音楽やと思われて終わっちゃう可能性もあるし。自信がある日とない日と、制作中って波があるんですよ。曲に自信がないんじゃないけど、ファンの中に流れてるメロディと流れてるリズムみたいのがあるから、そこに対して違うって言われる可能性はありますよね。それは、僕らが他のアーティストの再録を聴いたときにも思うことだから。最近Waiveを知った人は、いまさらこんな古いビート感をやって、いつの音楽やねんって思うかもしれないとも思うし、そういうことは考えたりします」
●この企画では、頭の中で考えていることをずっと聞いてきたと思うんです。でもいまは、手を動かしてるわけで、それによって心境が違ったりするのかなとか。
「いや、そこまで違わないのかも。手を動かしながらも頭はずっと回ってるし」
●いままでのお話の中には、自分たちだけではどうにもならないこともありましたよね。でも、作品を作るのは、自分でコントロールしうる部分じゃないですか。
「確かに」
●そういう意味では、もうちょっとストレスは少ないのかなとか、期待も含めて思ったんですけど。
「そう言われると、そんな気もするけど。古い作品を作り直しているから、そもそもピュアに新しいものを生み出している、いまの自分を見てもらっている、みたいな感覚が薄いから、いまやっているぞ、みたいな気持ちを感じにくいところはある。僕の中にも過去のサウンドとかリズムが流れているから、勝てないものがどうしてもあったり、イメージとずれてしまったりするし。もちろん予想外によくなることもあるけど、予想以上に追いつけないものもあって。1曲1曲の制作に、めちゃくちゃ時間がかかりますね。1曲あたりで、「火花」を作ったときの1.5倍ぐらいかかってるんじゃないかな。過去より良いものにするにはどうしたらいいんだろうかって考えてしまって、録ってる途中に、ちょっと考えさせてほしいってなることも多いんですよ」
●比較対象があることで難しくなるんですね。
「そうですね。絶対逆だと思ってたんすよ。ライヴであれだけやってきた曲なんで、再録なんて楽にできるだろうと思ってたのに、めちゃくちゃ時間がかかるんですよね。信じられないぐらいかかってる。だから、思ってるものが作れてるぞ、楽しいぜ、イェイイェイ、みたいなふうにはなれないことのほうが多いですね」
●なるほど。まさに制作中ということなんで、完成を楽しみにしています。完成して制作から解放されたら、気分も変わるかもしれないですし。
「ファンが受け入れてくれると、若干は気分も変わると思います。来月の取材のときには、もう音は仕上がっているはずだし、もうちょっと話しやすくなってると思います」
●その取材の記事が10月29日に公開で、次の11月29日はリリース直後になりますね。
「『BLUE ALBUM』がリリースされている以外にも発表されていることがあるはずなんで、そのときはもっといろいろ話したいですね」