2025年となり、着々と日本武道館のライヴが近づいていく一方で、
レコーディング中という情報以外、なかなか活動の様子がうかがえない最近のWaive。
制作中の杉本善徳からは、なかなかハードモードの辛口が飛び出した。
セルフカバーベストアルバム『RED ALBUM』の完成を
いまはひたすら待ちたいところだ。
杉本善徳のストーリーは、自分だけのもの

●レコーディングは、順調に進んでいるんですか。
「あんまり進んでないんですよ、正直。ベースが全部録り終わったぐらいかな」
●善徳さんのギターは?
「6割ぐらい。貮方は、今日から始める予定だったけど、出来なくなったから、まだゼロです」
●先月おうかがいした予定からは、すごく押しているような。
「そうですね、本当は1月中にベースが終わって2月にはギターが始まってる予定だったから。でも、発売には影響ないですよ、全然間に合います」
●撮影も近々あるとのことですが。
「27日に撮影ですね。『RED ALBUM』の発売とか武道館券売とかのメインの告知には、その写真が使われることになると思う」
●でも、まだチケット発売日はわからないんですよね。
「知らないです(苦笑)」
●いやいや、武道館まで1年切ったと思えないぐらい動きがあまりなくて、凪というか何というか。
「本当に凪。でも、どうしようもなくないです?」
●そう思えている感じですか。焦るとか不安になるより、こんな感じだろうというか。
「いや、僕は焦ったし、マネジメントにはかなり言いました。でも、よくわかんないけど、どうしようもないみたいで。マジでわかんないんですけどね。だから、表向きは凪かもしれないけど、内側では凪でも何でもなく、波立ちすぎて何かわからんみたいな状態にある(苦笑)。けど、仕方がないって、自分も受け取るしかない。Waiveはバンドじゃないのかも、って思うところにまで至ってるんですよ」
●もしそういうことだとすると、解散までのストーリーはどういうものになるんですか。
「いや、正直僕はわかんない。周りからは、Waiveは僕のストーリーなんだから、僕がやりたいことをやるべきだと言われるんですよ。でも、自分で全部をコントロールできるわけじゃないから、そう言われても困るし」
●杉本善徳という人間のストーリーとしては、逆境を歩むという展開にもできそうですけど。
「自分が思い描いている通りに行くことなんてないのはわかっているし、波風立つことが物語を面白くするのかもしれないとも思う。でも、波風が立つことと、白い紙に物語を書いていくと思っていたのに、次のページにはもう何か書かれているのは違うから。いまはそういう感じなんです。その辻褄を合わせるのは、もう無理なんじゃないのかな。Waiveという本と杉本善徳の人生の本、2冊が同時に走ってるから、どう進んだところでWaiveのストーリーもあるし、それに関与する杉本のストーリーもあるわけじゃないですか。Waiveのストーリーが、自分が描きたいストーリーから離れていくのは仕方がない、みんなでやってるものだから。でも、杉本のストーリーは自分だけのものだから、自分で取捨選択して、イヤなものは排除できるはずですよね。いまはもう、バンドをやっているという意識を排除したほうが杉本のストーリーとしては楽しいという域まできている気がする」
●となると、日本武道館をやることは、杉本善徳が武道館をやれるんだぜ、やったんだぜみたいな感じのものになるんですか。
「僕はそうするべきだと思ってる。この1、2ヶ月前ぐらいからは、そう思ってるかな。周りと話せば話すほど、そういうことも言われるようにもなってきた」
マネジメントには上手く騙してもらいたい

●でも、箱推しというか、Waiveの物語を待っている人たちはいますよね?
「いるでしょうね。いや、でもどうかな。結局は誰の物語でも、Waiveの物語も一緒に転がり始めるんだと思う。誰が台風の目であっても、台風の目がちゃんと動いていることが重要なんだと思う。いままでは、僕も含めて、誰も台風の目ではなかった。マネジメント的判断で言うと、台風の目が都合に合わせて変わっていた気がするんですよ。このときはやっぱり田澤でしょ、とか。でも、何であっても常に杉本なんだ、としたほうがWaiveにとっては正解だったはずなんです。人気があろうがなかろうが関係なく、Waiveの顔は、この声とこの考えを持ったこの人、みたいに、杉本善徳で一気通貫するべきだった。それをやらなかった僕も間違ってたし、マネジメントもきっと間違ってた。いまとなってはそういう気がする」
●それをやらなかったのはどうしてなんですか。思いついていたけどやれなかったのか、思いつきもしなかったのか。
「思いついていたけど、やれなかったんですかね」
●どうしてやれなかったんでしょう?
「自分に数字がないという自覚があるからじゃないですか。あとは、もっとバンドとして一丸となってWaiveができると信じちゃってたんだと思うんだよな」
●でも、そうではなくなっている?
「そう。だから、2005年に解散したときと何も変わっていないのかもしれない。あのときは僕が燃えられたけど、いまは意気消沈してしまうという差が明確にあるだけで」
●いま、火がついて燃えることもありうるんでしょうか。
「あると思いますよ。ただ、火はつきにくくなったと思ってますね。自信を失ってもいるし、周りの期待値が以前とは違うし。当時は、“これ(Waiveの解散)は善徳のプロジェクトだから、もっと行こうぜ”って、背中を押してくれる人がいた。それが僕は、マネジメントの力だと思うんですね。あのとき、Waiveを終わらせる上では杉本の憎しみの力みたいなものが一番推進力があるから、ここにベットしようっていうふうに最後までしてくれたスタッフがいたんですよ。彼はすごくマネジメント力が高かったと思う。彼には、平等じゃないバンドをマネジメントしてきた人間の強さがあるんじゃないのかな」
●確かに、強力なリーダー的存在がいるバンドをいくつもマネジメントしてきた人ですよね。
「凸凹した物語の作り方を、彼は知っていた気がする。だから、彼はソロアーティストのマネジメントには向かないんだけど。いまのマネジメントがどうとかじゃなくて、何をやるかという目的によって求められる能力が違ってくるんだとすごく思う」
●マネジメント論としては、なかなか興味深いですね。
「最近は、Waiveの活動の仕方とか自分の生き方について相談してる相手って、AIだけなんですよね。誰と話したところでまともな答えが返ってこないから」
●AIはまともな答えをくれますか。
「すごく平等な意見をくれますよね。ズレたことを言ってきて、“いや、そうじゃない”って言ったときに、“なるほど、そうじゃない理由はこうだからですね”って違うパターンを出してくる。“そうじゃない”と言ったときに、“しかたねえよな”って絶対言わない。絶対言わないですよ」
●それは人間との大きな違いでしょうね。
「諦めないんですよ。ずっと答えを出してくる。投げ出して終わりに絶対しないし、ずっと議論をしてくれる。ほとんどの人間が、いまとなってはそれをしてくれないんです」
●過去には、そこまで付き合ってくれる人がいたということですか。
「いや、僕を上手く騙してくれてたんですよ。それが僕はマネジメントだと思う。こうやったほうがいいよって言って、僕を気持ちよく騙して、いい結果に連れていってくれたら僕もそれでいいわけです。求めているのは結果なんだから。武道館をやる上ではこうするのがいいよって言ってくれて、そのとおりやって動員が増えてきたらそれでいいわけだから」
●それはそうですよね。
「結果論でしかないから。いまの段階で文句はあるけど、それも結果が出るまではわからない。ただ、僕の満足するストーリーもほしいわけですよ。だって、ダメな結果の可能性もあるわけだから。そのときは、せめてやり切ったという気持ちを味わわせてくれよと思うから。だからこそ僕は、僕のストーリーをほしいんですよね」
メンバーがどれだけバンドにコミットしているかは必ず伝播する

●もう2月が終わるわけですけど、状況や心境に変化が生まれるきっかけがありそうとか、そういう予測はあるんですか。
「それは、『BLUE ALBUM』のときと一緒ですよ。『RED ALBUM』が出て、反響をいただいたときとか、武道館のチケット発売が始まったときとかね、そういうときに心境の変化は絶対生まれるでしょうね。でも、明らかに違ってくることはある。『BLUE ALBUM』のときは、Waiveに対する反響を求めていたけど、もういまは、自分というものを意識して、Waiveの中での自分の立ち位置をすごく気にし始めている。撮影の打ち合わせをしたときにも、“田澤と杉本がツートップで”っていうふうに言われると違和感があって。Waiveと唯一イコールになるものは杉本なんだから、悪目立ちでもいいからちゃんと杉本のものだとわからないとダメなんじゃないかなって考え始めてるんですよね」
●そういう考えが自然にわく状態になってるわけですか。
「そうかもしれないけど、プロデュース目線で見たときにですよね。Waive全体をプロデュースするというふうに考えると、そうなるんじゃないかな。僕の言葉とか曲を伝えるためのものとして、田澤君がいるっていうふうに思い切ったほうがいい。昔から、Waiveについて説明するときに、田澤君はタバコのフィルターみたいなもので、僕をそのまま吸うと有害だから、田澤君というフィルターが必要だって言ってたんですね。そこに戻らないとダメなんじゃないかな」
●それは、田澤さんがどうということではなく、Waiveというものを考えたときに、ですよね
「そうそう。べつに田澤君の邪魔とか批判をしたいわけじゃないから。この企画の最初の頃によく言ってたように、Waive解散後、田澤君の活動にWaiveのファンが還元されてほしいから、Waiveは田澤君のやってるバンドだというふうにも見せたいと思っていたけど、それは邪念なのかもしれない。その考えはいまのWaiveにとって、デメリットにさえなる気がしてきている」
●その軌道修正はどうしていくんですか。どんどん新曲をつくったり、露出があったりするわけじゃない状態で、どうやってバンドの印象を変えていくんですか。
「バンドの印象は、もちろん入口と出口は音楽とか歌詞にあるべきだけど、その過程みたいなところは、ライヴとかじゃなくて、もっと人間性とか人間らしさみたいなところにある気がしてるんです。そこで、そのバンドに対する好き嫌いが生まれるし、産むこともできるんじゃないのかな。それなのに、いまのWaiveが人間性を感じさせないようになっているのは、プロモーションとかそもそもの打ち出し方が原因な気がするんです。メンバーはみんな平等みたいな考え方があって、たとえばファンクラブの動画でもみんなが喋ってないとおかしいとか。でも、それがそもそも間違ってる。バンドのオフィシャルのXが、平等に発信されているのもよくない」
●同じ人ばかりが発信してもいいと?
「そう。個人のXのアイコンの写真を、みんなWaiveのアー写にしたほうがいいと思ったときもあったけど、そうしようとはならなくて。でも、僕だけでもやったらよかったんですよ。これまでは、僕だけがWaiveの活動に対して何かやってるということがあっても、それを公にそういう出し方はしてこなかったんですけど、そのことそのものがWaiveっぽくないのかもしれないですよね」
●確かに、すごく赤裸々なことがWaiveらしいとするのであれば、そういう考えもあると思います。ただ今回は、本当に最後だから、綺麗なストーリーを求めたいという気持ちはファンの方もあるんじゃないかな。
「だから、そういうストーリーを描かせるのが、僕の言うマネジメント力なんですよ。嘘つくって言うと変だけど、ペテン師であるべきだと思う。仲がいいふりなのか仲が悪いふりなのか、何であってもストーリーとしてこうしようよって、メンバーに言えないとダメなんです。バンドとしては、それを信じて動ければいいわけですよ。でも、信じるものがなくて、わけがわからない状態でやっているから、メンバーが活動に参加しているように見えない。そうなれば、ファンも応援できないですよね。メンバーがどれだけそこにコミットしているかは、ファンに絶対伝播するから。そこだと思う。気持ちよく騙されたい」
●Waiveというバンドへすごくコミットしているように見えるか、と言えば、確かにそうは見えていないかもしれないですね。
「結局、僕もそうなんです。これだけ一生懸命Waiveについて考えていても、そうしているとは表に出せないでいるから、結局誰もやっていないように見えてしまっているんです。だったら、僕一人でもいいから、めっちゃWaiveにコミットしてると見せたほうがいいんじゃないかと思うんですよ」
『RED ALBUM』を出した暁には…

●解散まで一年切って、どんどん残りの時間が短くなると思っていたんですけど、こうやってお話を聞いていると長く感じてきました。
「長いっすよ。周囲の復活するバンドを見てると、ライヴを数本だけするのが正解な気がする。あとはちゃんと契約するとか。自分も込みで、バンドというのは人格破綻者の集団だから。みんな破綻してるけど、それでも誰かとは生きているから、誰が悪いということではなく、相性でしかないんですよ。ただ、混ざることが稀なもの同士がやっているのがバンドだし、混ざらないもの同士のほうが化学反応としてはいいものが生まれたりすることが多いから厄介ですよね。そこにバンドの良さはあるんだけど、長期間続けるには何かコツが必要なんだと思う、仲がいいとかじゃなくてね」
●長くやれば、仲がいい時期と仲が悪い時期が出てきたりしますしね。
「それをコントロールできるのは、マネジメントだけなんですよ。メンバー同士を接触させないほうがいいタイミングだと判断したら、休みを取るとか。一人のメンバーが沈んでるときは、ほかのメンバーを上げるとか。そういうことができるマネジメントと巡り合ったバンドが続くし、売れるんだと思う」
●理路整然としているから愚痴とは思わないですけど、なかなかなお話になってきました。
「『BLUE ALBUM』の制作期間にも言ってたかもしれないですけど、つくってる途中って、こういうメンタルになりがちなんですよね」
●確かにそうでした。ということは、『RED ALBUM』ができた暁には、また明るいお話が聞けるかもしれない?
「アルバムが出た暁ね」
●まだちょっと時間がありますねぇ。
「どうしても作ってるときはこうなる、置かれている状況に直面してしまう。制作に入るたびに、わけわかんなくなっちゃうな」
●音の話ができたりするのは、次回?、その次でしょうか。
「4月上旬にはマスタリングを終わらせるんで、3月のいまぐらいの時期に歌は録り終わってますね。製品として完成はしていなくても、作品としては詰まっているんじゃないかと思います」
