6月21日の柏PALOOZAを皮切りに、
Waive GIGS 2025『蒼紅一閃 -soukouissen-』がスタート。
その翌日の取材では、あんなにも饒舌な杉本が言葉に詰まるシーンが散見された。
いよいよ日本武道館でのライヴが視野に入ってきたいま、
彼の頭の中にはどんなことが渦巻いているのだろう。
その一端だけでも、触れてみてほしい。
ツアー初日を終えて、“いいスタートが切れた”?

●昨日、ツアー初日の柏PALOOZAでのライヴが終わったところですが、やはり半年ぶりのライヴという感じはあったかなと思うんですが。
「さすがにあったけど、ライブとライブの期間が空いたツアー初日公演の中では、 “なんや、これ?”みたいな違和感は少なかった気がしますね」
●いいスタートが切れた感じということでしょうか。
「うん? 悪くはない。いいかどうかはわかんないけど、悪くはない気がする。 こういう取材で、“いいスタートが切れた”って言う人っているじゃないですか。あれ、ほんまなんかな。そういうことにしてるんでしょ?」
●っていうのは、あると思います。
「僕もそう思うんですよ。 だから、まあ、この場でとか、僕のキャラクター的なものとか全部込みで、赤裸々な感情を吐露するなら、実際悪くはなかったと思うんですよ。だから、まあ、世の中ではこれをいいスタートと言うぐらい、いいレベルのライヴではあったかもと思う」
解散への思いを言語化するということ。言葉にすることの意味

●前回の取材では、ツアーまでに新曲をつくりたいというお話がありましたが、新曲についてはいかがですか。
「スケジュール上は作曲をする予定として入れてた日に、なかなか作業ができなかった事情があって。ただ、鼻歌みたいなものでメロディは作った。だから、こういう感じの曲かな、みたいなものはある。歌詞というほどじゃないけど、こういうことを歌詞に書こうかなみたいなこともつくれてるから、理屈上は一番やらないとダメなところはやった気でいるから。あとは、もう時間さえあれば書ける」
●その時間をいつ捻出するか?
「そうなんですよね。これはやっぱりムズいんですよね、まとまった時間が必要だから。毎日30分ずつ進めよう、みたいなことができないから。僕は、作曲を途中で止めると、昨日まではなんでこうしていたんだろうって思って作り直してしまいがちなんで、少なくともワンコーラスまでやらないとだめかな。曲の完成形が想像できるところまでつくっておかないと。特にWaiveはそういう気がする。Waiveの曲は一番簡単なぶん、逆にムズいんですよね」
●一番簡単というのは、どういうところですか。
「まあ、なんていうのかな。他で書いているものと比べると、曲としては複雑なことをあまりやってないから。ワンコーラス聴いたら、だいたいの人が予想がつく曲になってるというか。最近の曲だと「火花」は、昔のWaiveに比べたらちょっと複雑なんで。新曲はもっとシンプルにしてもいいかなという気にはなってます」

●今後のツアーに向けてとか新曲のお話とか、もう少し聞けたりするのかなと思ってたんですけど、どうも歯切れが悪いというか、言葉が出てこないというか。先月は、武道館に向けていよいよみたいな感じがありましたよね。武道館に向けて一直線で行けるほど、あと7カ月という時間は短くはないんでしょうか。
「いや、短いと思ってるんですけど、なんていうのかな? 前回の取材の後、AIクリエイターたちが作ったアニメーションコンテストみたいなのをプライベートで見に行ったんですよ。それは、架空のアニメーションの1分間ぐらいのティザームービーを見せて、出資を求めるみたいな企画で。そこに審査員として来ていたプロデューサーの言葉に、確かにって思ったことがあったんです。そのプロデューサーは、僕もプレイしてきたゲームとかアニメを手掛けてる人なんですけど、その人がコンテストの受賞作に対してコメントしてたんですね。受賞作が、滅びゆく世界のなんとかみたいなタイトルで、そういう内容だったんで、終わってしまう世界だと宣言されている作品は見たくないという話をされていたんですよ。最終的には何だって終わるんだからそれはいいんだけど、先に宣言されると見たくないと。これには、スッと入ってくる内容ではないけれど一理あるなと。それを受けて、我々は、終わりだけを強調している物語をやろうとしているなと思った。もちろんバンドに関しては、この日で終わりだって言っとかないとダメだと思ってるけど、この解散はどういう解散なのか、ダイレクトな言葉だけだと内容の手前で人それぞれに解釈が違ってしまいがちなので、もうひとつ説明とか、せめてキーワードみたいな何かがいるのかなと思い始めているんですよ」
●そういうきっかけがあったんですね。
「とは言え、何だって事実をそのまま言葉にすりゃいいってわけじゃないし、どういった発言にすれば自分として正しく伝えられたと思うのか悩むにも、すでに坂道を転がり出して、その速度に自分が追いつけない状態にいるというか、ちょっと待ってくれ、転がっていってしまうと困るっていうふうになってる」
●転がり出しても、まだまだ一筋縄ではいかないわけですね。
「切実に思ってることなんですけど、三日間休みがほしいんですよ。この武道館のプロジェクトを発表してから三年ぐらいは、一日も休んでないから。何の仕事にも関わらずに、武道館のこととかWaiveの終わりのことを冷静に考える日が、一日か二日だけでもあれば、どう終わりたいか、結論を自分の中で決めて、それを言語化して、これを目指しているから乗っかってくれというふうにみんなに言えるようになる自信があるんです」
●それは、新たな言葉が必要ということなんでしょうか。いままで言ってきた言葉ではなく、別の言葉を見つけなきゃ、というか。
「うん。もしくは同じ言葉だとしても、再考した結果、その言葉にたどり着いてたらいいんだと思うんですよ。 再考する時間がないまま、武道館が近づいてきたから最初から言ってた言葉で、っていうわけにはいかないでしょ。その日が見えてきている中で、“ここに見えてる光あるじゃん、あれはこうなんだよね”っていうふうに、みんなは言ってほしいはずだから。これなんだって言い切ってほしいだろうけど、そうできない感じがある。とにかく考える時間がなさすぎるんですよ」
●単純に忙しすぎるんでしょうけど、考える時間が必要というのは善徳さんらしい気もします。
「言語化していかないと人はついてこないし、自分さえもそこからどんどん乖離してしまいそうな怖さがある。言葉にして、自分に暗示をかけるじゃないけど、自分が本当にそっちに向いているのか不安になりますよね。僕は、言語化できるものに対して向かっているとき以外は、運で向かってるだけでしかないと思ってるから。具体的に想像できるものはすべて言語化できるべきだと思ってるんです。そこがまだちょっとぼやっとしてるかな。2005年にできなかったことをやるんだ、終わりを決めたうえで進む中でポジティブな終わりを見つけるんだっていうところは、ひとつのテーマであるべきだと思う。まあ、ちょっとチープな言葉になっちゃうけど、そこに驚きがほしいでしょって思うんですよね」
●驚きというのは、“え?”みたいなことなんですか。気づきというか。
「めちゃくちゃシンプルな言葉でもいいんですよ。聞く側が、そんなにもピュアな言葉が聞けるんだと感じるのは驚きじゃないですか。どういう方向性の驚きかは違うと思うんだけど、僕から出る言葉としては、僕なりの、まあ、大げさに言うと発明のようなものを出したい。確かにみんなずっとそれを求めてたけど、初めて言葉で聞いた、みたいなものが発明じゃないですか。ドラえもんの道具もそういうことだと思うんですよ。 みんな、ほしいけど実在しない。道具として現れたときに、それがほしかったことがわかるというか。そういうものに値する言葉を、僕から出してほしいんでしょって思う。それをしてあげたい。言語化するところまでまだ形にできてないけど、ポジティブな解散、見たくなる物語を書くことはすごく大事だと思ってる」
自分がやっていることを補完しているのは、言葉。それが一番美味しい
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●今回はちょっと短くしておきましょうか? もうちょっとツアーのお話はおうかがいしたかったですけど。
「うん。昨日のライヴ、実際どうだったんだろうな」
●いや、よかったと思いますよ。
「さっきも言ったみたいに、僕もそう思ってはいるんです。で、普通であれば世の中のアーティストは、“ツアーが最高の始まりを切れたから、ぜひ観に来てほしい”みたいなことを言うんでしょうけど」
●条件反射というか、そういう感じで口にする人が多いんだと思いますね。
「まあね。でも自分は、人生みたいなものを作品と考えて残していくことをやりたいんですよ。だから、昨日MCでもアクスタの話をしたときに、Waiveをルックスで好きな奴はキチガイやと思うって言いましたけど、実際はそこも好きになってくれるのは嬉しいわけです。だけど、そこだけが好きっていうふうになられるんだったら違うかもと感じるから言うんですよ。Waiveとか自分の商品としての価値は、そこじゃないと思ってるから。でも、そういうのも読み解けない意見で不満をぶつけられたりしがちで。そういうのもあって、話してても難しいんですよね。どこかで聞いたことのある言葉で、ツアーに来てくれって言うことはできるんでしょうけど、その仕事は僕には向いてない。 宣伝という意味ではめちゃムズい」
●この連載企画で、プロモーショントークを求めるのは違うとわかってますけどね。
「僕は、エンターテインメントショーとかショービズをやってるというより、ヒューマンドラマみたいな感覚でバンドをやっちゃってるから。言ってることとか書いてるものに触れて武道館だけにしか来ない人のほうが、何の言葉にも触れずに全公演参加してる人よりも、少なくとも僕のことは理解してるんちゃう? とさえ思っちゃう部分もあるので」
●ミュージシャンやギタリストでありつつ、そこまで自分の発する言葉に重きを置けるというのはすごいですね。
「僕はそうなんですよ。言葉にできないことを音楽に乗せるっていうアーティストがいるじゃないですか。 僕もそう思ってた時期はあるけど、いまとなっては絶対ないと思う。ステージ上には、その瞬間みたいなのがあるかもしれないけど、音色とかフレーズから汲み取ってくれるもんだとファンに望むことはできない。その人なりの解釈でしかないから。でも、エンターテインメントは、そういうもんだと思うし、それが良さだとも思う。だからこそ僕は、明確に伝えたいという意思がある場合には言葉が頼りだと思ってるんですよね。自分がやってることを補完できる唯一のものというか。もちろん逆もしかりで、言葉だけで伝わると思ってないから、音楽をやってるんですけど。でも、僕のインタビューやブログ、SNS、なんだかんだの発言に触れていないで僕というアーティストを把握のは難しいと思う。一番美味しいところを知らないことになると思うから」
