毎月20日前後に取材をしているこの企画だが、
杉本自身からの希望で、7月25日のツアーファイナル以降の取材となった。
その日のライヴでは、杉本から解散理由について言及するMCがあり、
翌日、このインタビューは行われた。
充実したツアーを終え、日本武道館というゴールを見つめる彼の頭をよぎっていることとは?
SOLD OUTした会場からは、無限の未来を想像できる

●昨日(7/25)、ツアーが終わりましたが、数を重ねるごとによくなっていくようなツアーでしたね。
「そうですね、特に名古屋、大阪、恵比寿っていうふうに、テンションが上がったままやれたのはよかったかな。目に見えるものによるテンションの上下みたいなものはあったと思ってますけどね」
●それはライヴ全体の雰囲気に関してですか。それとも、ご自身がステージに立っているときのテンションみたいなもの?
「両方な気がしますよ。目に見える景色が自分の未来を想像させていくから、数字が伸びていってるとわかる景色が見えれば、自分たちのやっていることは間違ってないという確信につながっていくんです。だから、ツアーで我々がやるべきことは何なのか、本当に細かいところだけど曲順をこうにしようみたいに考えられた」
●そうやって臨んだファイナルだったわけですね。
「LIQUID ROOMの券売数は、ツアーが始まるときに聞いているから、BIG CATのテンションよりもダウンしちゃうのかなという気持ちで迎えたけど、このご時世の平日にあれだけ集まってくれたということは、ツアー中の評価でチケットの売れ行きが伸びたし、ファンの人たちも一生懸命友達とかを呼んでくれたんだと思うし、そういうことが結実したのかな。登場したド頭で、そういうことを思った。ツアー初日の柏もSOLD OUTとはいえ以前の申し込み数と比較して決して良い数字ではなかったので、そういうスタートだったから、厳しさはかなり感じていたし、それが逆に、段階を踏んでいってた頃の自分たちを思い出させたというか」
●そのせいか、日本武道館での解散を控えているという特別なシチュエーションにいるバンドのツアーではなく、上を目指してまだまだよくなるぜって思っているバンドのツアーのような印象がありました。
「それもわかる」
●でもやっぱり、もっと先を見据えている感じはあるわけですよね。
「見据えているというほどではないのかもしれないですね。でも、やっぱり武道館はチラつくじゃないですか、決まっていることだから。田澤君がMCで言ってたみたいに、今回のプロジェクトが始まったときに考えていたプランが上手くいかなかったりしたけど、そんなことはもうどうでもいい、っていうのは、僕も思う。でも、もうええねんと思ってはいけないという気持ちもある。ツアーでは、前回よりも何か一歩でもいいと思えるところをつくっていくんだ、みたいにやれたとも思うし、でもチラつくものに対してどうアプローチしていくべきか考えた瞬間も結構あるし。そこは切り取る部分によるのかな。すごくバカっぽいことを言うと、たとえばフルマラソンを走るとして、スタート地点から42.195キロ先は見えないじゃないですか。残り5キロ、いや、1キロでも、目視できない可能性があるぐらい見えない」
●マラソンなら競技場に入るぐらい近づかないと見えないでしょうね。
「そうなんですよ。それを考えると、我々も武道館の中に入るまで見えないものが多すぎるんちゃうと思う。日本武道館という文字は、人生で一番見た数年間になってるだろうけど、武道館のステージの上からの景色はずいぶん見てないし、全然リアルな想像はできてないんだろうなと思うんですよ。でもそこで、無理やりスイッチを入れるなら、ステージに立ってるときが一番想像しやすい。柏から始まって、BIG CATとかLIQUID ROOMとツアーをして、初日と倍ぐらいの広さの会場を見ると、BIG CATのフロアだと武道館のアリーナはこの何倍ぐらいだなぁと想像して、恐怖感みたいなのが迫ってくる感じがあって」
●リアリティを帯びるから?
「そうそう。でも、想像することによって力が生まれていくみたいなこともあるんです。柏をSOLD OUTさせられると、そのキャパシティは400人とかでも、満員なんだから、あと9000人増えることもありうると思えたりする。満員にできると、無限の先を想像することが可能になるんです。不安になる要素もあるけど、着実に増えているんだから、次はこうなるんじゃないのかっていう希望を抱けたのかな。1月4日に解散するんじゃなかったら、そのまま武道館まで行くのかもと思っています。要するに、バンドを組んだ初期のテンションと一緒で、自分たちがどこまで行くのかわからないという気持ちだし、ツアーの途中ぐらいから全員にそういうスイッチが入ったから、ライヴがよりよくなったのかな。だから、人によってはゴールに関係なくやれているように見えたっていうのはわかる。その感覚は自分にもあったから」
2025年のWaiveだからできたこと

●いいツアーだったとか、いいライヴができたとか、そういう感覚はバンド内にもあったりするんですか。
「あるんだと思いますよ。僕は貮方としかそういう話をしてないんですけど、昨日、貮方と帰りの車の中で話した感じだと、彼もそういうテンション感ではあるみたいでした。“いいツアーやったなぁ”って彼から言い出したから」
●それをバンド全体で確認し合ったり、いい感じだよねみたいな会話が出たりとか、そういうことはない?
「いや、そこはないかも。僕はない。僕は、楽屋でのメンバーとのコンタクトみたいなものを避けてるんで」
●それはどうしてなんですか。
「一触即発する可能性があるから。揉めるまでいかないけど、会話をするとお互い面倒くさい奴やなと感じる可能性があるんですよね。自分含めて誰かが前向きな正しいことを言っていても、そうなることがある。間違ったことではないけど、そのこだわりは自分でやっといてって思うことがあるから」
●ステージでの4人を観ていると、これまで以上に仲がいい印象を受けました。
「それは接触をしてないからだと思うんですよ。僕も嫌いでもないし。人間だから合わないところはあるけど。でも、20年以上も一緒にいるから、よく知った者同士だし、あうんの呼吸的なものもあるから。お互いに、何をやったらテンションが上がるかもわかってるから、それをやれているのかなと思います。ショーとしてやってる部分もあるかもしれないけど、ショーとしてでさえ嫌いな奴にはできないから。いまのやり方がWaiveとして一番正しい気がする。すごくそう思う」
●ただ仲がよくて、それがステージに現れている、のとは違うけれど。
「Waiveらしいかなっていう気はしてますけどね。嘘のような瞬間がときどき生まれてきてしまうことも、Waiveっぽいんじゃないのかな。この二人はこんなに仲良かったっけ? みたいな感じがあるのも、それがショーを意識してやっていたんだとしても、それが生まれてくるようになったのが2025年のWaiveなんです。好きなわけでもなく、合わないと思っている者同士でも、そういう瞬間が生まれるぐらい歴史を重ねたんだと思う。20年前、2005年の解散のときは、冗談でもこんな瞬間は生まれなかったでしょうと思うから」
●そういうステージングなどについては、すべて自然発生的なもの?
「完全にそうですね。僕は少なくともそうですよ。こんなことやろうぜなんて一度も喋ったことがないから。それは結成からいままでずっとそう。そういう決め事はやったことがないバンドだから」

●アンコールでパートチェンジをしたり(7/12日@HEAVEN’S ROCK さいたま新都心)、「爆(読み方:ボム)」をやったのも(7/19@OSAKA MUSE、7/25@恵比寿LIQUID ROOM)?
「全然全然。パートチェンジのときは、何が始まるねん、なんでそんなことすんねんと思って見てた。違う楽器を持ち出したのは、ニノッチやったかな。はあ?っと思って。はよ(ベースを)置け、はよ置け、って思ってました」
●「爆」をやる話は、ツアー前のリハでも全然出てなかったんですか?
「はい。あのときは、ダブルアンコールをいただいてて、スタッフはナシでしょうみたいな感じだったんです。僕が、“やるとしたら「爆」ちゃう”って言って、それいいなぁってなったんですよね。「爆」は、リハしてないけどやれるから。アンコールで出る直前に、“「爆」は久々だから緊張するな”って、康雄(サポートドラム)は言ってたんです。いや、やれるやろって思ったけど(笑)。それぐらい、本当に突発的に僕が言ったのがきっかけでしたね。埼玉でパートチェンジをやって、その次が大阪のファンクラブライヴだったから、埼玉よりもテンションが落ちてしまうのはとにかくよくないと思っていたんです。でも、平常心であることもすごく大事だったし。結果、ダブルアンコールで許されるのは「爆」なんちゃうのって思ったんですよね。たとえば「Days.」をやるのは絶対にあってはいけないじゃないですか。その次のライヴで、「Days.」やらんの?ってなるから。わけのわからん曲を持ってたおかげで助かりました(笑)。あのときは、スタッフも何をやるか知らずに観てたらしくて、終わってから楽屋に来て“めちゃくちゃ最高だったよ”って興奮しながら言ってたし、他のバンドには絶対できないなってみんなで話したし。これがツアーだっていう感覚が、あの辺でつかめてきたかもしれないですね」
●昨日もダブルアンコールで、「爆」が演奏されました。終演の影アナが流れ始めてからでしたね。
「あれも全然予定になくて。影アナが始まっていたときに、ほかの3人がなんかやろうっていう風になったのかな。僕はちょっと離れたところにいたんですけど、田澤君が影アナに割って入っていった感じでした。あれが正解かどうかはわかんないけど、そういうテンションにメンバーがあったことは素晴らしかったと思う。ツアーじゃなかったらできなかった。あそこでできたのは、ツアーを重ねてきた中の温度感で、おかわりしたほうがいいとか、そういう確信を得てるからこそなんです。ツアーを経て、そういうテンションにメンバーがなれたことは正解だと思うから、やっぱりいいツアーだったんじゃないのかな」
解散を決心するに至る、いくつもの理由

●そして昨日は、解散についてのMCがありました。ああいうMCをしようと決めたのはいつだったんですか。
「ツアーが始まる前かな? MCでとは決めてなかったんですけど、ツアー終わりぐらいまでに解散理由を明確に出したほうがいいよねっていう話は打ち合わせで出たんですよ。それは、日本武道館のチケット発売が始まったからというのがある。もっと伝えないとダメだと思ったから。ほかにも、Jさんのラジオにゲスト出たときとか石月(努)さんと対談したときとかに解散理由を聞かれて、外側の人であればあるほど気になるもんなんだなと。特にこの歳になってくると、復活したバンドをわざわざ解散させないし、改めて解散を言わないで終わっていくバンドが多いだろうけど、僕らはそれとは全然違うものだと思ってるんです。そういうことを自分らの言葉で伝えていかないと理解してもらえないかもと思ったんですね。そういうことをずっと考えながらツアーを回ってたんです。ギリギリになってから、ずっと書きためてた文章をまとめて、あとはその場で思ってることをしゃべろうと思ってました」
●昨日のMCでは、善徳さんの体調のことと、これまでの再演で感じていた、このまま続けていくことへの不安というか葛藤というか、そういう心境を口にしていたわけですが、それが特に伝えたい理由ということになるんでしょうか。
「言葉にしていくと、あれも理由だし、これも理由だし、いろいろあって。解散理由を明確に出す話が出たときに、どこまで話すかは悩んだから。スタッフからは、貮方の職業の話をするか?っていう話も出たんです。スケジュールを組むにあたって難しいところがあるのは事実だから。田澤君や淳にもいろいろ要因があるし、僕からしたら彼らが他のプロジェクトをやっていることは、絶対的にデカい。Waiveが最高のバンドだと僕は言い切ってるのに、ほかのバンドも組んでいるメンバーがいるのは、歪な状態やから。でも、だからってその歪さだけが、解散の決定打ということではないんですよ」
●それも、いろいろある理由のひとつにすぎないと。
「いろんなことが積もり積もって、ここに来たのは事実だけど、騙し騙しでできないと真っ向から考えるキッカケになったのは、僕の体のことなんじゃないのかなと思うんです」
●体調については、記事にはしていませんでしたが、これまでいろいろとお話が出ていました。
「左の手首の不調のために違う弾き方をしてるし、耳の問題があるから、イヤモニのボリュームをかなり下げて、スタッフにも調整をお願いしているんですよね。そもそも医者には爆音を聴くなと言われているし。僕もステージには立ちたいし、披露したいものもあるけど、Waiveという名のもとの理想形でやれるものは、もう限界でしょうって感じる。そうでないと、新曲も生まれず、ライヴもやってないけど、名前だけ残して、俺はWaiveだって言い続けている、わけのわからない状態になっちゃうかもしれないから。そんな目的意識のないものをダラダラとやっていくことはできないと思ったんですね」
奇跡は簡単に起きないけど、でも諦めない

●そこで決めた最後のステージが、日本武道館。
「最後が武道館であるのは、僕が自分の限界値を見たいからです。体力とか楽曲とかパフォーマンスの限界とかは別にどうでもいいし、ある部分では落ちたけど、ほかに何かが加わるとかもあるじゃないですか。でも、数値化できるものは、上限だとはっきり断言できる。だから、それを知りたいんです。たとえば、LUNA SEAがやったキャパシティ∞とか、GLAYの20万人ライヴみたいなことはすごいけど、我々が自分らの上限を知るのにふさわしい受け皿を考えたら、武道館なんじゃないの?と思ったんですよね」
●すごく失礼な言い方ですけど、満杯にならないからと言うか。SOLD OUTしたら、限界だったのかどうかわからなくなってしまいますもんね。
「そう思う。だから、このプロジェクトのスタートの頃に、“売り切れたら、またやりたくなるでしょう”って言われたんですけど、ここまでしかってやらないと言い続けてきたんですね。それは、上り調子のところで終わりたい気持ちとか、この短期集中の中でやり切りたいからですよね。もし武道館が売り切れたとしたら、じゃあ限界どこ? という疑問は確かに出てくるし、一縷の希望と言いたいわけじゃないけど、Waiveが続くことがあるとしたら売り切ったときだとは思う。でもそれは、99.99999999%、限りなくゼロに近い可能性しかないわけですよ。当初から思っていた計画が上手く進んでいたら、ミラクルが起きたかもしれないけど、それが起きないのもWaiveとして、いまや素晴らしいことだよなと思ってるんです。やっぱり奇跡なんて簡単に起きへんよなと」
●だから奇跡なんでね。
「そうそう。とはいえ、じゃあ諦めましたか? というと、諦めないし、だからこそ奇跡はありうるし。最後の瞬間までやる。このツアーの中でずっと、田澤君が“今日が(Waiveを観る)最後の人もいるかもしれない”って言ってたけど、僕は、“いや、絶対におらん”って言ってきたんですね。田澤君が言ってるように、毎回、最後の人もいるだろうし本来はそれを思ってやるべきだけど、でも僕はこのプロジェクトに関してはそうじゃないと信じたい気持ちもあって。田澤君も僕の言ってることをわかったうえで言ってると思うし、どっちも正しいんです。彼を否定したいわけじゃないし、彼も僕を否定してるわけじゃないし。でも、矛盾しているのがいいと言うか、それぐらい矛盾して当然の感情がここにはあるんです。僕はいまだに武道館の可能性を信じてるから」
●武道館に向かって行くためにも、ここで解散について真正面から口にすることが必要だったんですね。
「解散の経緯の説明みたいなことはしたけど、これが100%説明を尽くすことにはならないと思うんです。すべてに説明できる要素があるんだけど、“説明は必要ないでしょ、うるさいなぁ”の一言で終わらせるのが僕であっていいんじゃないかとも思ってる。僕らだけが知ってたらいいと思うことはいっぱいあるから。あのMCについては、限りなく表面に近いところにあるものだからこそ言葉に出せたと思うんで、そういう部分だけでも、受け入れてくれとは言わないけど、理解してもらえたらいいかな。僕らの中では、どうしてもこうするしかなかったから。誰かに決められた解散をやってるわけでもないし、僕は自分からそれを決めたから。解散に至るしかなかった経緯が僕なりに絶対にあるし、適当な気持ちで決めたわけじゃない、絶対。誰よりも考えて選んだ選択だから、それが伝わったらいいですよね。そんな気はするな」