『MUD FRIENDS』『CROSS ROAD Fest』と、怒涛のスケジュールが終われば、
もう11月も残りわずか。
いやでも1月4日の日付が目に入ってくる頃になっている。
それは、杉本善徳本人にとっても同様だが、
彼はひたすら燃やし尽くすべく、できることに取り組み続けている。
11月26日の誕生日にはチケット即売会を実施し、
取材時(11月19日)よりさらに販売枚数を伸ばした。
バンドとして十分に力をたくわえ、自信を持っているいま、確実に舞台は整いつつある。
可能性が1%でもあれば、そこからこじ開けてみせる

●『MUD FRIENDS』、『CROSS ROAD Fest』とイベントが続いて、何かが変わったというか、動いたというか、手応えのようなものは感じていらっしゃいますか。
「手応え? まあ、まあまあ、感じてはいる…気がしますね」
●考えていたことができたぞ、とか。
「思っていた通りにコトが進んでいる気はしているから。舞い上がってはないけど。手応えという意味ではあるのかな」
●舞い上がってはいないというのは、チケットが売れたり、ファンが盛り上がっているのは予想の範疇だったということですか。
「そうそうそう、範疇。うまくいかない可能性が高いとは思ってるけど、うまくいくときはこうでしょうって考えて計画を組んできたから。空振りしてることもあるとは言え、作品とかライヴとか形にできたものは、だいたい予想通りの結果を得られているので、今回もそうなのかなっていう気がしますけどね」
●冷静に受け止めているんですね。私はもっとドラマを見出してしまっていました。ライヴの内容とかチケットがすごく売れたこととか、ちょっと劇的じゃないですか。
「いやいや、あのね、博打を打った気でいるんですよ。でも、勝てるという確証に限りなく近いだけの自信を持って行動しないと、人はついて来てくれないと思っているんです。たとえば、武道館の告知デザインのTシャツだって、誰も着てくれなかったら始まらないじゃないですか。ファンが着てくれるだろうと思うから、あれを立て続けに出せるわけです。でも、そもそも普通のアーティストは、あれを着るのはステージ側の人間とかスタッフであって、ファンに着せるものじゃないと思うからつくらない。そこを踏み込めるかどうかなんですよ。ファンが着てくれることを何パーセント信じられますか? って考えたときに、普通の人は51%以上の確率で着てくれると信じられないと、それを売ることができないのかもしれないですけど、僕は1%しかなくても、その1%をこじ開ければいいって考えられる。0%じゃなかったら、そこに突っ込む力を持っていて、僕の最たる特殊能力がそれだと思うんですよ。背水の陣に立たされたときに、様子見して51%を待って勝負に勝てると思ってるんですか? って、僕は思う。1%を51%だと思わせるためには、僕が51%だって言い切るしかない。それは魔法を使うようなもので、そうすることで目の前の景色が変わって、信じてくれるようになるんです。そういうことを繰り返してきて、ここまで来たというところにはドラマがある。でも、みんなに信じてくれって踏み込んだ以上は、僕がしくじるわけにはいかない。だからそこは、冷静さにつながっていくわけですよ」
●逆に予想外だったことは、特にありませんか。
「『MUD FRIENDS』でもしっかりと評価を得られたことは予想外かな。思いのほか、あそこで得るものがあった。どっちかというと数字じゃないものを得た気がしてます。ああいう謎のエンディングを迎えて(笑)、あの無茶苦茶さとかカオスって、たぶんよそでは出ないんですよ。ガキの頃のライヴみたいな、“おもろいやん、ウェーイ(笑)!”ってなった瞬間があった気がする。すごい解放感だった。この歳になってこんなことをできる日が来るとは、みたいな気持ちにはなったから」
●それぐらい特別な時間だったんですね。
「そこで一歩ギアが入ったというか。あれが『CROSS ROAD Fest』の前にあったのはめちゃくちゃ幸せなことで、それでアクセルの踏み方が変わったと思う。あの瞬間に童心みたいなものに戻れたことは貴重な経験だった。そこが一番予想外だったかも。『MUD FRIENDS』を組んでくれたseekには、感謝してますね。あとは、幕張駅の応援広告とかも予想外でした。応援広告を出せるようにしましょうとスタッフに提案して、ホームページに規定を載せたんで、ファンの人がやってくれることは予想してたけど、どのタイミングでどういった場所にとかまで頭を回してくれるとは思ってなかった。乗り換えで使うであろうターミナル駅を狙ってとか、みんなで一致団結してクラウドファンディングをしてくれたりとか、集団になってああいったの規模のものをドーンと出してくれるようなことは予想してなかったです。広告を出した本人の承認欲のためじゃなく、Waiveのことを本当に想ってくれているんだなと」
チケットを手売りしたのは、一枚でも多くうるため。それが最大の目標

●『CROSS ROAD Fest』でチケットを手売りするとは以前からおっしゃっていたと思うんですけど、メンバーさん四人で売っていらしたの意外でした。
「僕もそれはそうです。僕だけになるか、僕とニノっちかなと思ってたんで。実際、最初は二人でした」
●どういう流れで四人でやることになったんですか。
「単純に、思いのほか爆発的に人が来てしまったから。最初に、いつもの物販スタッフと一緒にやったけど、普段と同じ接客の仕方ゆえにすごく時間がかかっていて。1回目が終わったあとに楽屋で僕がオペレーションへの意見を話していたのをメンバーが聞いて、自分らも出ようかってなったんだと思う。僕が独断で動くことに対して良くも悪くもメンバーそれぞれ思うところはあると思うし、でもどんな気持ちがあっても出て来てくれることで買ってくれるファンはいるから。この件についての最大の目標はチケット一枚でも多く売ることだから、それでいいですよね。それだけかな」
●終演後四人で並んでいるところを遠くからしばらく見てたんですけど、すごく美しい光景なわけですよ。ちょっと感動的というか。
「事実、そういう部分はあると思いますよ。でもそれがバンドな気もする。四人が一緒に行動しているということがね。そこで、意志がひとつになってる必要はないんだなって」
●善徳さんとしては、四人で手売りしたことに対して何か特別な思いがあったわけじゃない?
「ない。僕にはない。ただ、そう思う人にとってはそれがハッピーなわけだから、わざわざそんなんじゃないよって言いたいわけではないですけどね」
武道館を目指す方法はひとつじゃない。こんなところにも道はある

●チケットをディスカウントして売った理由についてブログに書いていらっしゃいましたね。
「応援広告とかが出ていると、職業上、どれぐらいの金額がかかるかもわかっているから、金額で計りたくはないけど、相当頑張っていただいたなというのがあって。そういうことを考えていたときに、何かこっちもやるべきだなと思ったんです。僕は自分がWaiveの最大のファンだと思っているから、僕もやろうと。Waiveの杉本ではあるけど、僕個人が“Waiveさん”ではないじゃないですか。限りなくWaive寄りだけど、“Waiveさん”ではない立ち位置だからこそできるものがきっとあるべきだよねと思って。ただそこで、さまざまな形で応援してくれているファンと同じことをしたのでは芸がないというか、僕の立ち位置である意味が活かせていない。とはいえWaiveという集団の公式ではやれないこともあって、3000円で売ったものを後から1000円で売ることは、公式にはできない。じゃあ、僕みたいな立ち位置の人間だからこそできることって何かなって思ったんです」
●そこでチケットのディスカウント販売だと。
「ファンが当たり前ではないことまでやってくれた以上は、僕も当たり前じゃないことをやって返したいと単純に思ったし、ほかのバンド、後輩たちとかに対しても、こんなやり方があるよって見せるんなら、トリッキーでありたいし。それは、お前もチケットを買ってディスカウントしろよではなくて、そういう道もあるんだったらこっちも道があるのかもしれないっていう、可能性を切り開いていく力になってほしいんです。それが、51%で踏み込むのか、1%でも踏み込むのかっていう差だと思う。いまの時代は、1%の可能性を切り開く奴が増えていくべきだと思ってるんです」
●それはどうして?
「昔みたいに、CDを100万枚売るんだみたいな時代は、メジャーデビューすること、テレビに出ること、Mステに出演することみたいなのがブレイクの必須条件だった気がするんですよ。でもいまは、僕らが知らないところで大ヒットするアーティストもいるわけで、そういうアーティストが何をやってるのかさえわかんないじゃないですか」
●ああ、方法も多様化していると。
「そうそう。僕が前も言ったみたいに、音楽とかエンタメはニッチなもので、東京ドームに五万人呼んだら日本一のアーティストのひとつになれるんですよ。でもたかだか五万人だから、日本の人口とか音楽を聴いている人の割合からしたら全然少ない。めちゃくちゃビッグアーティストでも、それだけしか集められないわけですよ」
●そういう意味では、エンタメの世界は狭いでしょうね。
「それをみんなあんまり理解してなくて、武道館でやるなんてすごいよね、みたいなことを言ってるけど、たかだか一万人なんですよ。変なたとえだけど、一万個しか売れないコンビニのおにぎりなんて絶対ないじゃないですか」
●(笑)すぐに廃盤になりますね。
「でしょ? 世の中には何千万個、何億個と売ってるものだらけなのに、何億個も売った音楽なんてほとんどないんですよ。そんなニッチな世界でやってるんだから、お前のやり方で絶対いいねんって僕は思うんです。テレビを通して集まってくれる五万人を求め続けてしまうのが、音楽業界の弱点だとずっと思ってる。僕らの道をたどれっていう意味じゃなくて、こんなところにも道があるっていうものの探し方に気づいてほしいというか、そっちにシフトしてほしい」
●ブログには、ディスカウントした理由のひとつはプロモーションというふうに書いていらっしゃいましたが、効果をねらったのではなく、そういう行為をすることそのものに意味があったということでしょうか。
「どっちでもいいんじゃないかな、そこは。『CROSS ROAD Fest』で手売りすれば、それを目の当たりにする人もいて、写真 NG にしてたけど撮る奴が出てきて、それが世の中に出てその事実が広がるのがプロモーションだと思っているから。僕の行動だけでは絶対に数字は出ないんで、手売りしたから売れたとも思ってないし、ディスカウントしたから売れたとも思っていない。みんなが応援広告を出してくれたり、一生懸命 Tシャツを着て応援してくれたから、“こんな素敵なファンたちを生んだ人たちはどういう人たちなんだろう”って、Waiveを知らない人が思ったところで僕らが手売りしているのを目にして、“こいつ(メンバー)らもやんのかい!?”ってなったところがたぶんよかったと思うんです」
武道館にふさわしいことができる力はついている

●チケットの話ばかりしましたけど、日本武道館のライヴの内容に関してはどうでしょうか。もう考え始めていることもあるのでは?
「舞台チームからは、セットリストをそろそろ決めてくれっていう話をされてる。演出とか照明をどうするか、とかがあるから。そういうステージセットとか照明とか演出プランとかを考える上では、ディスカウントする前にチケットを買ってくれた人たちによって予算が決まって、ほとんど内容につながるから。そういうあなた方のおかげでこのショーを見せられるんです。もとの価格とか、もっと高額の席のチケットとかの人たちが、僕たちの武道館のプランニングの8割、9割を担ってるんで、そこは裏切れない。だから、考えないといけないとは思うんですけど、でも決まりきらんな。一曲目さえ決まらんからな」
●曲数をどれぐらいやろうとか。
「田澤君とは話しましたね。解散だからいっぱいやらないとね、みたいな感じにはしたくなくて、理由をしっかり考えたいよね、と」
●そうなると当然選ぶという作業が難しくなりそうですが。
「たぶんだけど、8時ぐらいに終わるんじゃないのかな。3時間ぐらいには収めるんじゃないですかね。いつものライヴプラスアルファぐらいだと思います」
●『CROSS ROAD Fest』で大きいステージに立ってみて、イメージがついたというか、そういう感じはありますか。
「ありますね。それはある。かなりある。Sadieのイベントで所沢パビリオンホールでやったときは、コンパクトなライヴハウスツアーをやってるときだったから、“え、広っ!”みたいな感覚になって、逆に武道館が想像できなくなってしまって。いまとなると、ああいうライヴを挟んでおいてよかったですよね。キズとやった恵比寿ガーデンホールとか『MUD FRIENDS』のZepp Tokyoとか、そこそこ広いところをやってるうちに地に足がついてきたから。『CROSS ROAD Fest』では、すごく地に足ついた感じでやれたし、僕以外もそうだったんじゃないのかな。これは、あっておかしくない景色だなって感じにはなれた」
●こういう景色が目の前に広がることがありえなくないと。
「そうそう。人気とか動員に頭がいきがちだから、武道館のWaiveって大丈夫? みたいな考えになっちゃうときがあるけど、ステージの上でやっていることを考えたら、武道館にふさわしいことをやれている自信を持っているし。少なくとももう勝てるだけの力量はついていると思っているので、このままライヴ感とかを忘れずに、1月4日までいけるかどうかなんじゃないのかな」
いまが一番カッコいい。だからやっぱりここで終わるべき

●いよいよ近づいてきたぜみたいな感覚ってあるんですか。次の取材をさせていただくときは、こういう会話もしにくくなってるかもしれないですけど、直前すぎて。
「確かに。ほんまや」
●いまはまだ平常心で、近づいてきたなぐらいに思える感じ?
「いやでもね、平常心ではなくなってきてるという自覚はある。
●あ、そうですか。
「さっきまで受けていた別の取材や、昨日受けた玲央君と対談とかでも、なんでこんなことを言ってしまうんだろうって自分が思うようなことを言ってて。人と話すことで心の中みたいなのが出てきて、自分で驚いたり。自分の中でターンが変わってきているんだな」
●意識してないけど、なんか変化してる。
「バンドをやっていると、他人同士の集まりだからムカつくこともあるし、ストレスもある。それはお互いに。けど、それと同時に、自分じゃない人間とやるからこそ、違う結果が生まれることがいっぱいある。Waiveだけにできることがやっぱりあるじゃないですか。貮方みたいな、プロで音楽をやっていない人間が入ってくることで、何だろう、音楽のクオリティとしては計れない、情緒が生まれるというか。このプロジェクトを始めたときは、これから2年もあるんやって思ったし、いまも正直ムカついたりすることはあるけど、“うわぁ、終わってまう…”っていうテンションにどんどんなってる。こんな素晴らしいことをやってるのに、なんで終わらせるんやろって。もちろん、なんで?っていうところには理由がいろいろあるし、“じゃあ、やります?”って言われたら、“いやいや、やっぱやらん”って言うねんけど(苦笑)。でも、心のどこかで、もうこんなものは自分にはつくられへんし、そういうものをみんなでつくってるんだという感覚がすごくある」
●そうなんですね。
「だから自分に対して、“ほんとにいいんですか? もう二度とつくれませんよ”っていうのは、すごく思ってる。もっと早くから思ってるんだけど、どんどんその気持ちが表面化していくというか。もう取り戻せないと感じるものが増えていくので、いよいよここまで来てしまったなみたいなのはちょっとある。僕がこういうことを言うと、ファンも情緒が乱されていくから、あんまり言いたくないけれども、自分自身も寂しいなっていう気持ちがあるようになってきてるのは感じるんですよね。いま思うと、武道館まで100日切ったぐらいからもうあったのかもしれない。あったのに自分でも気づかなかったり、気づかないふりができてた。けど、もう無視できないぐらいそういう情緒はあるかな。でも、そういう寂しさがあるのは、それだけのことができてるからだと思うし、それだけ自信を持ってやれるということなんで。一番カッコいい状態で終わりたいぜって、当初から言っていたとおり、いまがいままでで一番カッコいい状態にあると思っているから。それは誇らしいし、だからこそここで終わるべき。初志貫徹するべきでしょうとも思う。ムズイですけどね、そこは」
●簡単ではないですよね。
「そういう風に感じながらもそれを貫けたから、「燦-sun-」みたいな曲が生まれたんだとも思うし。だから、いまはやるべきことをやらないとなっていう気持ちが強いですね」
●これからあとやるべきこととしては、どういうものになるんでしょう?
「やるべきではないけど、やろうと思ってることは、僕のやり方であと1000枚チケットを売ること」
●最初2000枚売ることを目指していたので、結局3000枚売るっていうことですか!?
「僕はやれると思ってる。最初にメジャーデビューを考えていて、メジャーの人と打ち合わせしたときに武道館に入れたいと話していた数字があるんです。だから、レコード会社なしでも、僕はそれを成し遂げてみせたい。僕はこういう性格をしてるんで、そいつらと組まなくても自分のやり方でそこに勝てるということを見せたいから、それをねらっていきたいな。そのうえで、公式で淡々とやっているのも伸びていってくれて、当初から思ってたマックスの数値を超してきたら、めちゃくちゃおもろいゲームになる。それを最後の瞬間まで諦めるべきじゃないと思うから、最後の最後まで頭を使ってできることをやりたいというのが、いま僕が思っていること。そのうえでやるべきことは最終的にはひとつで、2005年の渋谷AXでの解散とはいろんな意味で違うもの、景色とかメンタルも含めて、そういうものをやるべき、そう思ってますね」
