この記事が公開される頃には、Waiveラストツアー『LAST GIGS.』も残り2本となり、
いよいよ残された時間が少しずつ減っていく現実が頭をちらつくようになってきた。
けれども杉本善徳は、ひたすらいまこの瞬間を見つめ、
できることすべてに全力をかけて取り組んでいる。
彼は自分の生き様で、大切なメッセージを届けようとしているのだろう。
いまこの瞬間に集中して、可能性を見せたい

●昨日(9月23日)が仙台でツアーがもう折り返したところですが、初日からとてもいいライヴでツアーが進んでいますね。
「なんかね。なんでなんでしょうね」
●っていう感じ? ラストツアーだからというわけではなく。
「いや、『蒼紅一閃』からあんまり間が空いてないから、一番デカいのはそこだと思う。それはリハの初日から思ったことなんで。うーん、でも、ラストだからっていう何かがあるのかは、わからないですよね」
●善徳さん自身はどうなんですか。ラストツアーだって思うところがあるとか。
「いや、思うところは当然あるんですけど。うーん。『蒼紅一閃』のファイナルのLIQUIDROOMでMCで最後に言ったことで、前回の取材でも触れた気がするんですけど、時間が進んでいくものでしかないから。なんていうんだろう、時間が止まったらいいなとか、ずっとこういうのが続けばいいのにみたいな思いは誰しもがあると思うし、若い頃のほうが強かった気がしているんです。でも歳を重ねると、どうやっても止まらないという事実を昔より知っているから、その現実と向き合うしかなくなっていってる。それに、これがずっと続けばいいのにって言ってる間にも時間は進むんですよ。そう考えると、その時間を 1秒でも多く使って、そういうふうに思えるようなものをつくるのが我々のやるべきことなんじゃないかと思うんですよ」
●クリエイターとしては、ということですよね。
「いや、それはファンも同じで。新曲の「燦-sun-」の歌詞を書いてるときにもすごく考えていたんですけど、Waiveを好いてくれる人たちにも、Waiveを知った、好きになった瞬間より過去があるはずなんですよね。僕らだってそうで、僕が一番Waiveの古参なわけだけど(笑)、結成する前日までWaiveは存在しなかったわけで。そう考えたら、Waiveがなくなったとて、また次のWaiveであったり、Waiveより好きになるものに出会えたり、生むことができたりする可能性は永遠になくならないのでは、って思ってる。何かを一番大切に思う感情はすごく素敵だと思うけど、解散と言ってないだけで活動していないバンドに依存して、未亡人みたいな感覚になる、その操の立て方はどうなんだろうと思うんですよ。2005年に解散したときはそれがよかったし、あのときにそう思ってくれた人のことは肯定したいし、むしろ同じ気持ちになれて嬉しいけど、歳を重ねてきて、いつまでもそこから動き出せないで生きていきたくないんです。いつまでもそこから成長しないでいるのはイヤだからこのプロジェクトをやっている気がする。そろそろ次の何かを見つけることに人生をかけるべきなんじゃないだろうかとすごく考えてます。いまツアーをやっていて、“解散までのこの時間が、自分の人生の中で一番楽しかった時間だと思えると思います”って言ってくれるファンの人がいるんですね。その言葉はものすごく嬉しいけど、でも1月4日以降はこれよりも楽しいことを探してほしいし、見つけてほしい。できることなら僕がそれをつくることができたら、クリエイターとして本望だよなっていう気持ちはある。そのほうが、僕も含めてみんなの人生が彩られるし、Waiveの意味もある気がするんですよね。特に 2回終わらせる以上は、絶望の先に何を探すかを提示しないといけない。もともとそう思っていたけど、どんどん色濃く思うようになってきたから、『LAST GIGS.』だということも考えるんだけど、それよりいまこの瞬間に集中して、とにかくピークをずっと探して、その中でまだまだ自分らには可能性があるんだということを見せたいですよね」
●解散後の可能性を見ているから、最後ということにはとらわれないということでしょうか。
「終わりだなとか、この土地に来るのは最後だな、みたいなことは全然考えてない。下手したらまた来る気持ちでやってるような、感覚的にはそんな感じです。だから、追加公演をしたいって口にしてしまうんですよ」

「燦」という文字に込められた思い

●ツアーでは初日から新曲が披露されました。意外に思うだろうとおっしゃっていたとおりの意外な曲でしたが。
「仮に1000人のファンが新曲を待ってたんだとして、1000人とも予想してなかったんじゃないかなっていうものを書いた気がする。本当に全員の予想を裏切ってるとは思うので、それはやれたんちゃうかな。裏切るという前提でさえも予想できてなかっただろうし、誰もこうくるとは思ってなかったものをやった。予想を裏切ると言ってたから「ガーリッシュマインド」みたいなのがくるのかなとか思ったとしても、そうではないから。かなりの予想外にいったけど、楽しんでもらえてるし、よかったかなと思ってます」
●演奏したらこういうノリになるだろうなっていうイメージは何かあったんですか。
「初日は予想通りだったんですよ。2日目の名古屋の本編でやったときまでは、タオルがなかった(サビでタオルを回すノリが生まれている)わけじゃないですか。タオルはアンコールで突然僕が言い出しちゃったから。本編で回してくれてた人がいたからだけど、それを見て確かにありありと思って。Waiveではタオルを使うノリはいままでやってないから、新しい曲から新しい景色が生まれて嬉しいみたいに、ファンに残ってくれたらいいなと思ったんです。それ以外だと、Aメロがとにかく盛り上がらなくて困るなと思ってます(苦笑)」
●いや、Aメロは難しいと思いましたよ。
「うーん」
●そうじゃない?
「僕はそんなことないと思うんですよね、特に演奏だけのデモを聴いていると。だから、歌い方とか照明が違ったらこうじゃなかったかもとか、声が乗ったことによって、サビに比べてキーがちょっと低いから暗く聞こえてるのかなとか、ちょっと洋楽的なんで、ファンの世代が知らないリズムパターンとかなのかなとか。ちょっとよくわかんないですね」

●これからのライヴに期待ですね。タイトルが発表されたのが、ツアー2本目の名古屋でのライヴ後でした。
「はい。アンコールで、“タイトル、何?”って聞いてきた奴がいたことで急いで決まった(笑)」
●男性のファンの方でしたね。それまでは、まだ発表する予定ではなかったんですか。
「いや、もちろん初日からタイトルがあるべきだと思っていたし、(仮)でタイトルはついてた。むしろ作詞をする最初の段階から「燦」という言葉は僕の中にはっきりあった。「燦(アザ)やかな~」という言葉で、そのアザを「燦」と表記してたし、「燦」という言葉を絶対に使いたいと思ってた。ネタのようになるけど、参加するのサンも「燦」にできるし、解散のサンも「燦」にできるから、「燦」という言葉を僕は使っていきたい」
●それは何か、光り輝いてるイメージ?、そういうものが最後のワンシーンとしてあるような感じなんでしょうか。
「光っているものって、光の中にいると気づかなくて。でも、暗いところだったら、どこが光ってるか一瞬でわかるじゃないですか。解散するとか失うことは、ある種の暗闇みたいなものだと思うんですけど、だからこそ次の光に気づけるようになると思うんです」
●あ、もう次の光を指しているんですね。
「受け手によって違っていいけれど、僕はそうでありたいと思っていて。いますでに光っているもののことでもいいけど、さっきも言ったように、いま光っているものがなかった時期があるんです。そのときはなくても突然明るいものに出会うんです。それは過去も未来もずっと繰り返されているから、いつ出会えるという保証はないけど、でもきっと出会えるよねっていう思いは持っていたい。だから、光がなくなって暗闇であったとしても、どこが光るかなと思いながら生きようねって言いたい。絶望を歌うことは誰にだってできると思うけど、死中に活みたいなことのほうが僕には向いているのかなと思ってる」
●死中に活というのは、絶望的な状態のなかでも生きるべき道を探し求めるという意味ですが、そういうことを伝えることが向いていると。
「特に、Waiveはそうなのかもしれない。自分は陰気くさくてネガティブな人間だから、決してポジティブが似合うわけじゃないけど、Waiveというフィルターを通すときには、ポジティブなことをやるのが似合うんじゃないかな。僕はストーリー性を重視する人間だから、「火花」とのリンクを意識したところもある」

●先ほど、いまが一番夢中になれた時間だみたいなファンの方の声があるというお話がありましたけど、それって青春みたいなものが終わる感じなのかなと思うんですよね。人間の寿命はせいぜい80年だから、そろそろ人生の後半に差し掛かっているわけじゃないですか。そこで次の光みたいなことを言うのって、ファンを甘やかしていない感じがするというか。
「あー、はいはいはいはい、確かにそうなるかもな」
●Waiveを好きでいる時間が一番夢中になれたときでしたって言われたら、アーティストとしては無責任に“ありがとう”でいいとも思うけど、そこで、“いやいや”って言われるのは、ちょっと厳しいというか。
「厳しいという取り方をされてしまうと、そうだなとも思うんだけど、僕からすると未来の僕の可能性を否定されているような気もしちゃうんですよ」
●確かにそれはそうですね。
「もっと面白いものをつくりたいし、もっと素敵なものを見せたいから。いまがいままでで一番楽しいって言われるのはむちゃくちゃ嬉しい。でもきっと1年後には1年後の僕がいて、あなたがいて、“あのとき楽しかったけど、いままたもっと楽しいね”って言わせたいし、言えてるほうが嬉しいと思うから。諦められたくないなって気はする。ここが限界ですよねって言われるのは、やっぱり悲しいから。もっと面白い瞬間があるんちゃうかなと思うんです。必ずしも楽しいことって、ロックバンドのライヴでスシ詰めになってワーキャー言うだけではないんじゃないかな。みんなで囲碁の大会をする人生になってもうたとしても(笑)、まさかこんなに楽しく囲碁をできる日がくるとはってなれば、それで幸せやと思うから」
●囲碁って(笑)。
「でも、そういうもんじゃないです? たとえば、『ヴィジュアル系運動会』みたいなものがあるわけじゃないですか。ヴィジュアル系と運動会ってカテゴリとして果てしなく遠いはずなのに噛み合う瞬間がある。それなら、『ヴィジュアル系将棋大会』とか『ヴィジュアル系eスポーツ大会』が生まれようがおかしくないわけで。だから、マジで何も否定できない。ジジババだからこその楽しみ方が生まれて、まさかこの歳になってこんな面白さがあるとは、ってなる可能性はあるんちゃうかな」
●それこそ、光を探して目を向けているかどうかなのかもしれませんね。
「僕は、その可能性は捨ててないから。捨ててないどころか、年々高まっていってる気さえする。実際いま、Waiveというものに対してそう思ってるから。新曲とかも含めて、新しくつくったものを好きって言って楽しんでくれる人がいる事実を見ると、まだやれるのかなという気持ちになる。これは音楽に限らずね。オバハン、オバハン言ってる綾小路きみまろみたいな、ああいうトークをするおじさんになって、トークショーをやるかもしれんしね(笑)」
●なるほど(笑)。
「ワケわかんないことに、そっちのほうが人気が出ちゃう可能性もあるし(笑)」
●それはそうですね。
「でしょ? だから可能性ってそういうものじゃないですか。ライヴも楽しかったけど、そろそろ座って聞きたいなって思ってた頃にトークショーに行くようになって、ババア同士でギャハハって腹の底から笑える瞬間が来るなんて思ってませんでしたとか、このツアーが人生で一番の思い出だってラストツアーで善徳さんに言いましたけど、息子娘も大人になって自由にトークショーに参加できて、いまが一番楽しいですとか、そう言うようになってもおかしくなくない? っていうのはあるんですよ」
●そんなことがあるといいですよね。
「未来の可能性ってそういうものでしょ、と僕は思ってるから。まだまだ全然やれると思うけどな。さっきから言ってるように、いままでのWaiveを否定してるわけじゃなくて、仮に二十五年間一番好きなものはWaiveだと言ってくれてても、そういうものがこの先にもあれば素敵だと思うんだよな。一位タイでもいいし、Waiveともうひとつこれが好きでもいいから。Waiveより好きなものを見つけてね、みたいな冷たい言い方じゃなくて、好きなものが見つかるかもしれないという可能性にワクワクしながら毎日生きたほうがよくない?、みたいなことを思うんです」
●おっしゃっていることは頭ではわかるんですけどね。
「あわよくばそれをね、僕がつくるもので共有できたら嬉しいし、自分的には厳しいことを言ってる気はないかな。ただ、とにかく長く生きたんだと思うんですよ。長く生きるうちにそういう風に思う数が増えてきたから、こう言ってるんだということはありますよね」

チケット1000枚は自分で買う。それを手売りする

●そして、武道館のチケットをいまから2000枚売るという発言もありました。2000枚という数字は、何か根拠があってなのか、どこから出てきたんですか。
「僕の個人的な根拠なき感覚として、口にすれば2000枚はいけると思って。3000枚は口にしてもいけないと思ったんですよね。実際にはかなり厳しいけど、本気度がしっかり伝えられたら、いけると思っている。僕は、自分で半分の1000枚買う気でいるんですよ。それを手売りしようって決めてるんです。売れなくて生じる暫定マイナスじゃなく、実際に一度買って生じる確定のマイナスを背負って向き合いたい。その手売りで、どれだけ売れるかが最終の勝負の一つ。日が迫ってくればくるほど、そこまでやるかっていうことがとにかく大事になると思うから」
●一日20枚売れなかったら僕が買いますって言うのは、善徳さんの本気を可視化しているようなことだと。
「そうそうそう(苦笑)。2000枚のうちの半分を俺が買ったから、残り半分はみんなで買ってよって言う権利みたいなものが生じると思う。自分が買った1000枚を、できるだけファンじゃない人に売ることが僕の役目で、残りの半分は既にファンの人たちに買ってもらえたらいいな。ここからは一緒に布教活動をしたよねっていう、体験の共有ですよね」
●手売りってすごいですよね。
「いついつどこどこで売ってますとか告知して、道端でも知り合いの店とかでもいいだろうし。それぐらい狂った動きをしていこうと思ってるんです。YouTubeの『ウエイ武』の視聴者専用枠を用意するみたいな話が浮上していたのに券売システムの仕組み的に不可能だったから、僕が買ったチケットでやる方法はあるのかなとかも考えてます」
●まだまだ打つ手はあると。
「いけなくはない数字だと思う。もし2000枚はいかなくても、この意志に乗った人の充実感は濃いものになる気がするんですよ。面白くはなると思う。それが少しでも形になったら、他の奴らもあれをやろうっていうふうに続くというか。いつか同じようなプロジェクトがあったら、Tシャツの背中の広告とかは使えるアイデアなんじゃないのかな。二十年ぐらい前、メジャーデビューしてどうのこうのだっていう時代だと、このやり方はめっちゃ恥ずかしいけど、いまなら誇らしいんじゃないのかな。ファンもそう思ってる気がする。よくわからない宣伝担当がアーティストを金で売るんじゃなくて、僕らで売るんです。道程も結果も共に感じ合う」
●Waive以外のライヴでもTシャツを着てくださっている方も増えているようですが、そろそろ日常的に着るには半袖は寒いかも。
「僕からスタッフへはツアー前から言ってるし、それは考えてます」
●さて、この記事が出ると、ツアーファイナル目前で、ツーマンシリーズが始まります。いよいよ残りのライヴの数が見えてきた感がありますね。
「そうなんですよね。だからこそライヴの本数を足してあげるべきだと思うんです。一回でもいいから、減っていっていたライヴの数に足されたという事実を作ってあげることが大事な気がする。平日でもいいからね。Waiveとして一本でも多くやろうと動いた事実が大事だと思う。誰かに言われたからやるとか、誘われたから出るんじゃなく、自らの意思で増やすことが大事。きっとこういう、些細かもしれないけれど強い意思は伝わっていくと信じたいし、だからこそ今もやれているんだと思ってる」
●MCでもおっしゃっていましたが、追加公演を期待してしまいますね。