2月下旬、Waiveは過去の曲をリレコーディングする作業に入った。
取材については、レコーディングが始まってからという希望だったが、
公開までのスケジュール上、2月中旬に実施。
その結果、杉本善徳が抱える内面が露わになるインタビューとなった。
決して前向きでもなければ、明るくもないかもしれない。
けれども、人生を賭けて音楽に挑み、勝負に臨んでいる男の生き様として、
美しい姿ではないだろうか、とも思う。
杉本善徳の中の絶対的なものとは
●貮方さんと会ったと、X(旧Twitter)で呟いていましたね。
「つい数日前かな」
●12月のライヴの後、Waiveのメンバーで会ったりはしてないんですか。
「会ってないですね。グループLINEで、レコーディングのスケジュールとか収録曲についてやり取りがあったぐらいです」
●そこで、貮方さんに会おうと思ったのは?
「貮方が”会おう”と言ってきたんですよ。そういうやり取りを見て、ちょっと話したいことがあると。貮方は、僕(杉本)の負担があまりにも大きすぎると思うから、このやり方で大丈夫なん?って言ってきたんですよね。自分に何かできることがあるのかなと思ったみたいで」
●貮方さんとしては、すごく前向きにコミットしようとしているということですね。
「そうそう。そのうえで、僕(杉本)が思ってる通りにやったらっていうことを言われました。Waiveというバンドのスタートは、善徳君がやりたいことにメンバーやファンが共鳴して集まってきたと思うから、周りに聞いたりせずに、やりたいと思ったことを好き勝手にやればって。俺(貮方)はそれについていくだけでしかないし、善徳君が勝手にやりたいことをやって、それが売れなかったとしても、“おもろかったな”でいいと思うけどねって話をしに来たみたいでした」
●そういう発言が出るのは、貮方さんから、善徳さんがやりたいことを勝手にやってるように見えないということですよね。
「そうでしょうね」
●それは善徳さんにも自覚がある?
「そうですね」
●どうして、そういうやり方になってるんですか。
「バンドのパワーバランスが変わっちゃったからじゃないですか。それは、僕が絶対的なものを持ってるわけじゃなくなったということがでっかい気がする」
●絶対的なものってどういうものなんでしょう?
「言ってしまえば、自信なのかな。そんな気がする。メンバーの誰かに対して自信を喪失したんじゃなくて、音楽業界における自分の才能みたいなものに関しては、視野が広がってきて井の中の蛙じゃなくなってるし、こんなにすごい人が世の中にいることを知ってしまったから、自信がなくなってるところがありますよね。前回もチラッと話しましたけど、曲を書きたくないと思うのはそれが原因。曲はたぶん無限に書けるんですけど、その曲を発表したときに誰がどう思うのかが気になって仕方がなくて、書けない、発表できない。自分が最高の曲だと思ったものを、周りの人たちがどう思うのかに対して臆病になってるんです」
●なるほど。
「極論で言うと、音楽のレベルの高さは学問的なものじゃないですか、音楽理論に基づくものとしては。その点で言う、と僕は絶対的に未熟なんですよ。本来、それとは関係のない界隈で生きてきたはずだけど、とはいえそれが必要な仕事もしたりするから、そこで戦えなくなってしまった。何も知らないときは、そこで戦ってる奴らにも勝てる気がしてたんですけど。1を知ったことによって、果てしなく広い世界に気づいて、作品を表に出すことに対して萎縮してしまってるんです」
●それはどうすれば乗り越えられるんでしょうか。
「打破する方法の1つは、セールスだと僕は思ってるんですよ。学問の世界で勝負してる人は別ですけど、僕らは誤解を恐れずに言うなら詰まるところマスに訴えかける音楽をつくってるから、セールスという形で評価を得ることが一つの答えなんですよね。でも、これまでやってきたことはそこまでセールスも伸びなかったから、単なる主観で自分の音楽がいいと思ってしまっているだけなのかなという気がしてきているんです。ファンの存在に甘えるわけじゃないけど、明確にファンの声が伸びていって、1000枚売ったものが、ちゃんと届いて、いいよって言って広めてくれたから2000人になって、2000人が4000人になって、8000人になってみたいになったら自信につながって、もっと強い奴と戦いたいぜってなると思うんです。でも、これまでを振り返ると、常にドローをやり続けてきたみたいな感じで、“あれ?”って自分の音楽に疑問が生まれてるんですよね」
たとえ自分に不向きな勝負でも、そこに挑みたい
●武道館が控えているから、これはちょっと違うかもしれないんですけど、自信という点に関しては、闘う相手の設定が違うんじゃないかなって私は思うんですけど。
「はいはいはい、わかる」
●勝てる相手と戦えばいいんだと思うんですよ。違うリングに行って、そこで自信を獲得することが、逆に武道館に向かうにあたっても重要というか。
「そうですね。その話はもちろんわかる。これについては、下手したらもう10年以上悩み続けているから、それなりにいろいろ考えたり、試したりしてきてるんですよ。そもそも、自分に対しての自信だけの話をしたら正直ある。でも、たとえば陸上競技をするとして、100m走は勝てるけど、42.195キロは走れない。でも、自分はどうしてもフルマラソンをやりたいんなら、“あなた、100m走はめちゃくちゃ速いよ”と言われても、100m走には自信を持てるかもしれないけど、その自信は、俺が戦いたいフルマラソンにおける自信にはならないですよね。得たい評価と、得られている評価がずれてるんですよ」
●いやいや、それも結局、速いという基準があるリングじゃないですか。そういう基準が全くないところ、たとえば次の新曲でファンがどう思うか、みたいなリングで戦うといいんじゃないかな。
「その理屈が存在するのはわかる。でも、それによって手に入った自信Aを、本来の目的の自信Bにはスライドできないんですよ」
●スライドはできないけど、限りなく代替品になりませんか。人生を生きていくための自信になる。
「違う違う。ネットとかで、筋トレをめちゃくちゃしてる人が上司に叱られたときに、“俺のほうが鍛えてるからこいつと喧嘩したら勝つ”って頭の中でマウントを取って、“はいはい、わかりました”って聞き流すって書いているのと一緒なんです。筋力への自信が仕事の自信にスライドすることはないじゃないですか。仕事は結局できないままだから」
●ただ、自信がないことでメンタルがやられたら、そもそも仕事ができないんですよ。
「わかる」
●だから私は、自信をつけることは、生きる知恵として最低限必要なことだと思うんですけど。
「それはわかるんですけど、そもそも自信はめちゃくちゃあるんですよ。いろんなことに、あれにもこれにも自信がある。たぶん、一般的な人より自信があるほうだと思う。ただ、音楽を発表することに対しては別で、長く音楽をやってきたことによって勝てない奴の存在を知ったんですよね。レストランをしてるとして、俺がいいと思って出している料理は、自分の手料理を美味いと思ってるだけで、アカデミックな本格的な店にも勝てないし、人気商売で流行りに乗った料理を出してる店にも勝てない。俺がやってきたあらゆるものは、そういうことだと思ってるんです」
●1人の人が365日通うお店を目指せばいいんじゃないですか。つまり、ファンの人数じゃなくて、コアなところを目指すというか。
「自分にファンがいることはわかってるし、すごく感謝してる。根拠なく、自分のファンが一番熱いファンだと思っているし、僕のファンほど素敵なファンはいないという自信がある。でも、そのコアっぷりとは別の競技で戦ったら、その自信は働かないじゃないですか」
●それに合う競技だけすることにしません?
「その競技だけをやるんだったらWaiveをやることも、武道館を目指すことにも意味がない。合わない競技で勝負したいから、でっかいとこに行かないとダメだし、評価を得られるものを作らないとダメだと思って、Waiveを再結成してるんです」
勝ち負けにこだわってきた人生
●でも、そこで前回の取材の話に戻りますけど、武道館については動員数だけに意味があるわけじゃないという話をしましたよね。
「うん、もちろん」
●数(動員やセールス)に対して自信を持てないというのは、そこまで重要なポイントではないわけですよね。
「もちろんもちろん。だから、新曲なんていらない論にどうしてもなってしまうんです。僕はずっとWaiveの最初の解散前から、“ずっと「ガーリッシュマインド」じゃダメなんですか”って思ってたんです。でも、新曲が必要だと考えるのは、もっとWaiveを聴く人を広げるためで、それが1万人になって、1万人がコアなファンになったら素敵だと思うからなんです。そのために再結成をやってるんです」
●そこで、すでに音源になっている曲を録り直すことは、どういう意味を持つんですか。
「あまりにも時間が経ってしまってる音源が多いから、過去音源だと下手くそすぎるというのが大きい理由ですよね。10年後には、また聴けないと感じるものになるかもしれないけど、Waiveが動くのなら、その活動の最後、ようするに最新の状態で録った音源がしっかり存在してほしいと思うから録り直したいという話をしました。それに、そもそも過去の音源が手に入らないじゃないですか。サブスクに入ってるのはベストアルバムだけだし。ライヴで聴くと音源と違いすぎるし、ライヴのほうが上手いみたいになってしまってるから、これはさすがにあかんかなって全員が思い始めていて、何か残しておかないとヤバイと思ってたんですよね」
●現在の演奏力で残すことに意味があるんですね。
「曲に対しても、当時一緒に活動していたようなバンドの曲と並べたときに、好き嫌いでWaiveは聴かないという人はいるだろうけど、曲で負けてるとは1ミリも思ってないです」
●それだけ、曲に自信があるということですよね。それを、いま録り直す価値があるとも思ってる。
「完全に、『蟻とキリギリス』の物語のキリギリスを実感しながら生きてしまってるんです。自分はやるべきことをやってなかったと思ってるし、努力しなかった奴の末路を感じてるんです。もし負けることがあっても、だって俺やらんかったもんな、って思う」
●納得しちゃうわけですよね。
「うん。自分が楽に生きるためには、競技を選ぶべきなのはわかるけど、たとえ楽じゃなくてもこの競技で戦いたいという気持ちはあるし、そこに勝ちたい相手がいる以上は、そこで戦わないとダメなんです」
●勝ちたい誰かがいるなら、リングは変えられないでしょうね。
「どうしてもそれがある。もしかしたら、そんなものは亡霊みたいになってるかもしれないけど、残像のように見えているその相手は、誰かだった何かなんですよ。もうそいつはそこにいなくて、下手したら遠くに行ってしまって、その背中さえ僕には見えてないのに見えた気になって戦ってるのかもしれない。でもいまは、自分が戦ってきた奴らの背中がSNSとかでずっと見えてしまうんですよ。そいつらはもう僕を見てなくても、僕には見えるんですよね」
●そこまで、勝つか負けるかだけで判断してしまってるんですね。
「いろんなことを格闘技でばっかりたとえるのは、勝ち負けだけでしか生きてきてないからやと思う。それは最近だけじゃなくて、バンドを始めたときからですよね」
●昔から、そんなことを言ってましたっけ?
「言語化できなかったか、自分で気づいてなかったのかも。ただ振り返ってみると全部そうだと思う。ソロになって渋谷AXをやった理由は、あれだけ歌えるヴォーカリストがいたWaiveでそこまでしか行ってなかったから、歌が下手ってさんざん言われた僕がどれだけ人を集められるかを証明したかったんですよね。これは完全に勝ち負けやし」
●確かに、それはずっとおっしゃってましたね。
「Waiveを組んだのも、その前にRayをやってて、ヴォーカルの亮三が先にCUNEも始めたから、それより売れるしかないと思ってWaiveを結成したし、亮三よりいい曲を書きたいと思って、曲を多く書くようにもなったし。振り返ってみると、音楽をするより前からたぶんそうやって生きてきた。ターゲットを絞ってそれと戦い続けてる人間なんですよ」
できるだけ赤裸々でありたい。話したいことは話したい
●そうなると、Waiveで武道館をやったときに、どうなったら善徳さんの人生として勝ちだと思えるんですか。
「武道館に仮に1万人入ろうが、数百人しか入らなかろうが、武道館に対しての勝ち負けは、僕の中では正直どうでもいい。あそこではたぶん何の勝ち負けも得られないと思ってます。武道館は、その次のステップに上がるためだけでしかないと思うんですよ」
●次のステップのためには必要?
「続けてきたバンドが2005年に解散して、それ以降はソロとか楽曲提供とかやってきて20年近く経つわけじゃないですか。それでも、Waiveのギタリストっていまだに言われるんですよ。僕の人生の冠は、所詮2000人しか集めてないバンドで、いろんなことをやったつもりでいるけど、それを上回る冠は得られていないままなんです。それは時代とか年齢とか何かの影響もないとは言えないけれど、そこから一度もWaiveの活動がなかったならまだしも、同じものを動かしても評価はずっとステイしているわけで。それは自分で選んだやり方でもあったんだけど、これから人生の後半戦と呼ばれる時間を生きていくなかで本当の意味での限界値を知って、そこに挑んでいかないと、ずっと何と戦って生きていくのかわからなくなりそうで。そのための武道館ですよね」
●アーティストという職業に就くと、そういう感じにならざるをえないんでしょうかね。
「人によるでしょうね。僕は、どうしてもこういうのにとらわれちゃう人間だから」
●善徳さんの発言やイメージからすると、周囲と比較したり、世の中一般的な評価を気にしたり、ということとは無縁な気がしてたんですよね。もっと自分の中の価値観とか美学みたいなものを基準にしているというか。
「それは、なくはないと思うんですよ、僕なりの美学もあるだろうし。ここまで話してきたけど、正直これは表に出したくないなっていう発言もいっぱいあったから。でも、こうやって毎月話すことも含めて、武道館に向かっていく中で自分が取る姿勢としては、できるだけ赤裸々であるべきじゃないかなと思ってるんです。そのほうが、自分としてやりきった感を感じられるんじゃないかな。だから、話したいと思ってることは話した方がいいかなと思って話してますよね」
●こんな話になるとは。
「でも、自信がないわけではないんですよ。何に対しても努力をしなかったわけでもない。むしろ、全般的にはしたほうだと思う。ただ自信がない部分があって、それはその点において努力しなかったと自分でわかってるから自信が持てないだけ。そういう自分の弱点は、みんな知ってるのかもしれないけど」
●みんな自覚はあるんじゃないですかね。自分は気づいてるからすごく怯えるけど、意外に人から見えなかったりする気もします。
「でも、そこがでっかいんですよ。思い切り話がズレてしまったけど、チームWaiveのパワーバランスが変わってしまったのは、僕が自信を失ったというか、いま話してて気づいたことだけど、弱点に気づいてしまったからかもしれないですね」
●ただ、やっぱりWaiveにおいては、善徳さんがそこを克服することは重要だと思います。
「そうでしょうね。貮方が言ってきたことと一緒。僕もそうだと頭ではわかってるんですけど、ただ体というか、心みたいのがついてこないんですよね」
●これ、公開できます?
「このリアリティを書くべきだと途中で思ったからいいんですけど、一般的にはナシだと思いますよ。レコーディングしてから取材しましょうって言うのもわかるでしょ。何も話せないというか、話せるけど、書けるかどうかはまた別なんで。でも、『アプレゲール』だし、僕というキャラだからいいかなと」