これまでも、Psycho le CémuとWaiveと言えば、
年齢も近く、同じ事務所に所属していた時代もあり、仲がいいことは周知の事実。
それが、6月4日にデジタルリリースされたPsycho le Cémuの『シャクティシャクティアスティ』を、
杉本善徳がプロデュースしたという。
プロデューサー杉本の手腕が如何に発揮され、
どんなPsycho le Cémuが誕生するのか。
杉本とseek、そしてシングル作曲者であるAYAに話を訊いた。

●もともとPsycho le Cémuとして、次はどなたかにプロデュースをお願いしよう、という話が出ていたんですか。
seek:どこまで言っていいのかわからないんですけど、
杉本善徳(以下、杉本):お前がわからんかったら、誰がわかんねん(笑)。
seek:(苦笑)善徳さんにお願いする話は、去年の秋前ぐらいから出てたんですけど、具体的に何をお願いするか決まってなくて。ただ、音源を出すことは決まってたから、その座組みを考えてるときに、善徳さんにレコーディングに関わってもらえないかなという話が出たんです。
●レコーディングというか、音を録ることに関して?
seek:なんか、ヴォーカルのDAISHIさんは、“善徳君にやってもろたらええやん”としか言ってなくて(笑)。ただ以前から、善徳さんには、“サイコはもっとこうやったほうがおもろいやん”って言ってもらってたんで、それをちゃんと形にするには、きっちり時間を取ったほうがいいだろうから。それで前作の「シラサギ」では、ヴォーカルディレクションとスタジオのセッティングとかだけ相談に乗っていただいたんです。それが終わって今年に入ってから、僕らも、5月の『姫路シラサギROCK FES』で「Galaxy’s 伏魔殿」というコンセプトが終わるので、新しい展開が始まるここから善徳さんに関わっていただくのがいいんじゃないかなということになりました。
●いままで、コンセプトとかを誰かにお願いしたことはあったんですか。
seek:ないかな。
AYA:コンセプトからはないような気がしますね。脚本を書いてもらったり、衣装だけとかはあったけど、全部やってもらうのは初めてな気がする。

●いろいろなプロデューサーさんはいますが、そこで善徳さんにお願いしたかったというのは?
seek:もともとサイコだけに限らず、バンドを長く見てもらってるし、言ったらバンドマン人生を見てきていただいているし。いろいろアドバイスとか意見を言ってくれはるんですよね。特に前作のアルバム『RESISTANCE』のときに、善徳さんから辛辣なコメントをいただいたんですけど、俺は的を射てると思ったんです。だから、こういうふうに善徳さんが意見くれてるでってメンバーにも言ったし。そういうのもあったから、このタイミングで、DAISHIの中に善徳さんの名前が挙がった感じですね。
●善徳さんとしては、仕事として受ける以前から、Psycho le Cémuに対して思うところがあったということですか。
杉本:俯瞰から見て、もっとこうしたらいいのになと思ってることがあったんですよね。それって、どのアーティストに対しても感じることってあるじゃないですか。その中でサイコに対して、顕著に“そうじゃなくない?”と感じたのが、たぶん『RESISTANCE』だったんだと思うんです。でもそのときは無責任な話だからいくらでも言えてたけど、改めてお仕事ですよって言われたときに、これまで好き勝手に言ってたことは本当に正しいと言えることなのか?って思ったんですよね。だから、プロデュースするにあたって再考はしました。
●あ、それまで思っていたことを改めて考えたと。
杉本:再考したところで大きくは変わらないんですけどね。もしも、2年前にプロデュースの話をもらっていたら、たぶん今回のようなアイデアではなかっただろうなとは思う。もっと以前、こうだったらいいのにって思っていたものがすごく強くあったんですよ。今もあるけれど、それとは別で。でも、状況が変わってしまったんですよね。コロナを経たこともあるかもしれないけど、「RESISTANCE」というコンセプトで大きくバンドが変わったし。僕は、その時期に行われたLINE CUBE SHIBUYAのライヴを観たときに、重すぎるなぁという印象を持ったんですよね。やりたいことは理解できるけど、重たい時期だからこそ、ファンはサイコには明るいものを求めているんじゃないのかなとか。でも、状況が変わったいまは、また違うことやらないとダメだと思うんです。それで、ちょっと考えさせてもらったんですね。
●善徳さんの反骨精神っぽいところも出てるみたいですね。
杉本:僕は売られたケンカを買う癖があるんですけど、そういう僕の性格を知られているからなのか、「シラサギ」のタイミングでは、“サイコの場合、すでにコンセプトとか曲が決まってるんならプロデュースは引き受けたくない”って断ったら、“そう言うんやったらプロデュース案があるんやんな”っていう言い方をされたんですよ。
一同:(笑)
seek:そこはね、やっぱりDAISHIと善徳さんの関係値やから。
杉本:そうなると、前からしゃべってたことと同じものを持って来やがったって思われたくないんで、改めて考えていまのカタチになったんですよね。そこで曲をつくるために、リファレンス案をいろいろ出して、作曲陣に投げました。
●それはどういうところからのイメージで?
杉本:「シラサギ」を録ってるときに、サイコは盛り上がる曲がいいのかなって思っていたんです。アッパーのサイコが僕も好きだし。じゃあ次は、わかりやすく四つ打ちのビートでみんなが踊るみたいなものを思ったけど、それはサイコの周りには僕より専門家がいると思う。だから、僕がやれることを考えたときに、イレギュラーなサウンドというか、あんまりこのジャンルのバンドはやらない感じのもので、だけど踊れるタイプで、とか。僕、インド映画がめちゃくちゃ好きなんです。インド音楽とかMVに、これこそ似合うって思っているものもあるんですけど、それだと結局四つ打ちだったんですよね。そこからいろいろ考えて「聖~excalibur~剣」みたいなちょっとハードロックとかメタルっぽい要素を入れて馴染みあるものにしつつ、リズムパターンとしては今までのサイコにはないバングラビートを入れて新しさを加えたり、と。
seek:最初の打ち合わせで、インド映画みたいな賑やかなものでっていう話が出てて、それにDAISHIは“いいやん”って言ってましたね。それが善徳さんに頼みたいとにつながったのかな。
杉本:そのときは、MVの話をしてたんですよね。インド映画で人がいっぱい出てきて踊ってるみたいなのをやって、コスプレーヤーをいっぱい後ろに従えて、元祖コスプレバンドの俺たちがこの文化をつくったぜ、みたいなのをやればっていう提案をしたんですよね。
seek:そのときはまだ漠然としてたんですけど、バンドの中に、イメージを引っ張ってくれる善徳さんという存在がいたのがよかった。どうしても、何でもいいでってなりがちやから。楽器持っても持たへんでもえでって(苦笑)。
●作曲陣から出てきた曲はどうだったんですか。
杉本:つくってきた曲の中でAYA君の曲が一番キャッチーだったのと、サイコ的には新しいのでは?っていう感じがしましたね。
seek:僕らも、AYA君の曲がええなと思いました。AYA君は器用やなぁって思いましたね。ちゃんと善徳さんのイメージと整合性が取れたものを提出できたから。プラス味付けも面白くて。ステージ上でやってる絵が浮かぶし。

●AYAさんとして、作曲はいかがでしたか。
AYA:資料でヒントをもらってたんで、それに忠実に書くようにしましたね。ただ、絶対選ばれへんなぁと思ってました。この曲はDAISHIが苦手な部類の曲なんで、落とされるんちゃうかなって。
seek:でも、DAISHIも一発目からこれって言ってたし、珍しく全員一致ですぐ決まりましたね。善徳さんも同じことを言ってたから、曲に関しては全然迷いはなかった。
AYA:意外でした。
seek:ただ、歌詞が変な作り方をしたんで。
●作詞のクレジットは、DAISHIさん、Lidaさん、seekさんの三人ですね。
seek:これもDAISHI案なんですけど、DAISHIから、“リーダーとseek、歌詞書いてきてや”って投げてこられて。書くのはええけど、どっちが書くって決めたほうが早くない? とは思ってて。それで書いてみたら、一番にDAISHIが書いてきたんですよ。 お前も書くんかって(笑)。
AYA:DAISHIの性格的には、いいとこどりをしたかったんですよね。
●部分ごとに書いた人が分かれている感じですか。
AYA:A、B、サビで分かれてるかな。
seek:AはLidaさんちゃうかったっけ?
杉本:“サンサーラサンサーラ”っていう部分はデモのときにあったよね。
AYA:そこは僕なんです。それと、“シャクティシャクティアスティ”っていうのも歌詞に書いたんですよ。そこからメロディをつくったから。
seek:そしたら、AYA君も作詞に入ってんな。
杉本:そういう意味やと、“シャクティシャクティアスティ”っていう言葉は、俺から出てるけど。
seek:YURAサマ以外、全員やん(笑)。
「シャクティシャクティアスティ」から、さてどんな風に世界は広がっていく?
●いまはまだ、シングルのタイトルとツアータイトルしか発表されてないですけど、コンセプト自体は何というものになるんですか。
AYA:「シャクティシャクティアスティ」じゃないですか。
seek:まだちょっと微妙かも。「シャクティシャクティアスティ」は、シングルのタイトルとしては、最終的に“これがええんちゃう”ってDAISHIが言ったんです。“なんて読む?”みたいな面白さがあるし、どんなことをするんやろうって、期待感をあおるようなところがあるから。でも、キャラクター設定だとかストーリーとか、詳しいところはいま考えているところですね。
●先に、曲のタイトルとかツアータイトルとかができているから、作り方としてはちょっと違うというか。
seek:いつもは、自分たちでイラストを描くところから衣装をつくってるんで、キャラクター設定みたいなのもだんだんできていくんですよね。今回の衣装については、善徳さんから、“seekは変わらんでいいけど、AYA君は今回キーポイントだから、こういうイメージで”っていうのを聞いた上でスタイリストさんにお願いしたので、撮影して、5人で並んだ写真を見て、こういう感じなんだってわかったようなところがありました。
●へ~、そうだったんですね。
seek:善徳さんと一緒にやって面白かったのは、色味とか色の使い方ですね。各メンバーはこういうキャラクターになるべきだ、みたいなことがすごく明確に見えてはるんです。俺らからしたら、ありそうでなかったサイコになってると思います。
杉本:これまでとは、衣装の感じを変えたかったんです。これまでは、とにかく質感が硬い印象があった、鎧とかガンダムみたいな感じ。だから、布っぽいとか毛皮っぽいとか、そういう柔らかいものが足もとに向かって開いていく感じが見たかったんです。
●特にAYAさんは、可愛い女の子のイメージとは違っていて。
AYA:今回は、ちょっとキツめのメイクにしようと話していて、それでメイクリハをやったんですけど、善徳さんに見てもらったら、もっと攻めたほうがいいんじゃない? っていう意見もあって、メイクさんにやり直してもらいました。同じメンバーでずっとつくってるから、AYA像みたいなのが出来上がっていて、その枠からたぶん出られなくなってたんですよね。新しい意見を言ってもらえたので、ちょっと新鮮なメイクになったと思います。
杉本:これまで、AYA君にはずっと可愛いさを求めてきましたよね。だから、裏切ろうと思っちゃう。それが正解かはわからないけど、一番倍率の高い博打は逆張りじゃないですか。だから、“えっ、どれがAYA君?”って思われるようなことをやったほうがよくない?って思ったんです。それで、髪が短いほうがいいとか、黒髪になったほうがいいとか、いろいろ言いました。“どれが誰やねん?”っていうふうにしたかったから、最終的にそうじゃなくなってましたが、僕はDAISHIが(集合写真の)真ん中じゃないほうがいいとも言いましたね。

●演奏はないので、レコーディングに関しては、コーラスも含めて歌録りだけですよね。DAISHIさんが得意じゃないタイプの曲となると、大変だったんじゃないですか。
杉本:「シラサギ」のほうが大変だったかな。一回「シラサギ」でボーカルディレクションをやったから、どういうヴォーカルかもわかってるし、そういう点ではスムーズでしたね。
seek:善徳さんのディレクター能力みたいなのを感じましたね。歌のジャッジもそうやけど、その人の持ってるポテンシャルとか技術を見抜くのが早いというか。そのスピード感を感じました。
杉本:歌に限らないんですけど、音楽ディレクションをしていて一番難しいのは、共通言語を探すことなんですよね。“悲しい感じで歌って”って言っても、どういう表現をしてくるかは全員違うから。こういう言葉に対してはこうするんだとか、楽譜的な会話が成立するしないとか、その人の言う“歌える”って声が出るってだけの意味なんやとか。そういった意味合いでのDAISHIの歌を録音する際の心構えが「シラサギ」の経験でわかったことがあるからスムーズにできたんじゃないかなと思っています。
seek:僕はメインヴォーカルを録ってるわけじゃないけど、言ってもらっていることがわかりやすいし、こういうふうに表現したらいいんだなっていうのがイメージしやすかったですね。
杉本:声のディレクションという意味では、seekが一番簡単ですよ。言われたことをやりますっていうスタンスを一番持ってるから。逆に、一番大変なのはLida。我が強いというか、自分のやりたいことが明確にある。
●それは、できないんじゃなくて、やりたくないということなんですかね。
杉本:自分の正解を知ってしまってるから。俺の中ではもうOKだけど、本人としてはまだ歌いたかったりして。DAISHIが、“いつまでやんねん”ってずっと言ってた。“なんでヴォーカルより録ってる時間長いねん”って(笑)。なんかこだわり派なんやなぁ。
そして秋に控える『MUD FRIENDS』!
●このコンセプトでどんなストーリーになるかは、これからのお楽しみですが、せっかくこの3人の取材なので、『MUD FRIENDS』のお話もおうかがいしたいんですが。
seek:Waiveの解散を知った段階で、『MUD FRIENDS』をやりたいとはすごく思ってたし、話もしてたんですけど、ほんまにできるかなぐらいの感じで。その頃、MUCCとWaiveのツーマンを観に行ったらすごく楽しそうで。“お疲れさん、武道館頑張ってね”みたいな会話になってたらイヤだったから、楽屋に行って、『MUD FRIENDS』をやらせてくれないですかっていう思いの丈だけ伝えました。その段階ではあくまで俺の気持ちだけですよね。
杉本:もともと、Waiveが復活します、解散しますって言ってすぐに、“『MUD FRIENDS』やりましょう”って、seekが言ってくれてたんです。やぶさかではなかったんですけど、Waiveが本当にやりたいことなんだろうとか、自分がやりたいことなんだろうとか考えているうちに、自分としては11月のあのイベント(『CROSS ROAD Fest』)をやるべきだというのがすごくあったから。でも、あのイベントは、実現に向けて動き始めてからもどうなるかわからなくて、時間もかかったし、そのうちにseekが、“僕が仕切りで『MUD FRIENDS』を動かしていいですか”って言ってきたんでお任せしたんですよね。会場探しとか、本当に大変な部分を速いペースでやってくれました。
seek:善徳さんがWaiveというバンドを完結するまでに、ひとつでも多く、ただ一緒に何かをやれたらよかったんです。それは『MUD FRIENDS』に限らずですけど。
●『CROSS ROAD Fest』でも共演はありますもんね。
seek:『MUD FRIENDS』に関しては、前回やったときも3バンドがわちゃわちゃして楽しかったし、またやれるのはほんまに楽しみです。
