Psycho le CémuやMIMIZUQのベーシストとして活動するseekが、
ソロとして、デジタルシングル「不透明人間」を3月5日リリースする。
コロナ禍に始めた弾き語りで生み出した楽曲を、
aie(G.)、晁直(Dr.)、西山小雨(Pf.)の3人を迎えたバンド編成でレコーディングし、
これが初披露となる。
彼の誕生日である9月14日には、渋谷CHELSEA HOTELで、
バンド編成による初ワンマン『白日をたゆたう雨虎、水に溶ける数列』を敢行。
常に前進し続けるバンドマン・seekは、ミュージシャンとしてもますます成長中だ。
●コロナ禍に弾き語りを始めたときから考えると、かなり活動が発展してきましたね。
「コロナ禍でバンドができない時期に何かやろうと思ったけど、何でもよかったわけじゃなくて、弾き語りをやりたくて、ベースじゃなくアコギを持ったんだと思うんです。それはやっぱりフォークが好きだからですよね。いつかフォークをやれたらいいなってずっと思ってたから。コロナ禍がきっかけになって、そこからだんだん広げてきましたね」
●それで、最初はカヴァーでしたけど、自然とオリジナル曲も作ろうと?
「自分のバンドの曲のカヴァーだと曲が限られるから、持ち球がなくなるぞと思ったんですよね。同じことをして飽きられるのが怖いとも思ってたし。それと同時ぐらいに、自分の声に合った曲を作ってみたい欲求が出てきた気がする。バンドで曲を書くのと弾き語りの曲を書くのは全然違うし、曲を作るのが楽しいと思ったんですよね。さらに弾き語りは、制作のスピード感があるのがいい。帰り道に歩きながらメロディが出てきたら、家に帰ってそのままギターを持って、そこで歌詞が出てきて曲が出来る、みたいな。しかもそれを、翌週のライヴでやれる。そういう楽しさは、めっちゃ感じてますね」
●そこから、それをバンドで表現しようと思ったのはどういうところからだったんですか。
「楽しいからやり続けてるけど、続けることに意味があるとも思うようになって。そうなると、活動に道のりとか山とかをちゃんと作ろうと思うんですよね。カレンダーをよく見るんですけど、自分の誕生日の9月14日が、2025年は日曜日で、それから何年かは平日になるって気づいて。それで、その日にバンドのワンマンをやろうと決めました」

●そのときは、もうバンドという形に決めていたんですね。
「ポンと、その考えが出てきましたね。その前に、小雨さんとのセッションをやったのがきっかけではあると思います。アコギ一本でやってた自分の曲をピアノで弾いてもらったときに、めっちゃカッコいいやんと思ったんです。バンドをやり始めたときの感覚に近いですけど、こんなおもろいことができるんやって。それがバンドでやろうにつながったんちゃうかな」
歌録りをはじめ、新しい刺激に満ちたレコーディング

●バンドアレンジはどんなふうに進めていったんですか。
「まず俺が弾き語りしたものを小雨さんに投げて、ピアノを考えてもらったところに俺がリズムを入れてっていう、変則的な流れなんです。ほかの楽器のアレンジは自分であんまり考えたくないんで、aieさんと晁直さんに任せました」
●小雨さんとは『水槽のたゆたう』で共演していますが、aieさんと晁直さんにお願いした経緯は?
「旅の途中で、“バンドスタイルにしようと思ってるんですよね”ってaieさんに言ったら、“いいじゃん、やんなよ”って言ってくれて。そのときに、ドラムを誰にやってもらうか相談したんですよ。そこでaieさんが、晁直さんを推薦してくれはったんです。レコーディングしたら、音色もプレイもすごいよかったし、aieさんの嗅覚が正しかったですね。こんなん言うたらおこがましいですけど、すごく器用っていうか。lynch.やdeadmanみたいなスタイルも叩けるし、全然違うタイプの曲も叩けるんです」
●バンドアレンジにしようと思ったときにイメージしたサウンドは、seekさんがやっているバンドの音よりもっとシンプルなものだったんですか。
「極力、音は減らしたかったですね。それぞれの音がはっきり聴こえてるのがよかったです。最初から最後まで誰が何を弾いてるのかがわかる、みたいな。ソロならそういうことにチャレンジできるのかなと思ったし」
●そうなると、ギターにaieさんを誘うのも納得ですね。
「そうですね。aieさんには自由でいてほしいから、プリプロで俺が入れたアコギとか、弾き語りで曲が始まってることは忘れて、エレキギターのアレンジを考えてくださいって言ったんです。小雨さんと晁直さんとプリプロを進めているときも、同じデータを共有したけど、aieさんは最後まで何も言ってこなくて。aieさんからレコーディングでオーダーがあったのは、アンプシミュレーターを使って録るのは嫌やから、アンプはレンタルしてほしいということだけで。だから、名古屋に着いて、まずアンプを二人で借りに行ってからレコーディングがスタートしたんです」
●名古屋でレコーディングしたんですか。
「それも、aieさんが言ってくれて。名古屋のレジェンドバンドマンたちがレコーディングしてきた、ミューテックというスタジオで録らせてもらえることになったんです。前もって渡しておいた参考音源に合わせて準備してくださってて、タイトなスケジュールだったんですけど、すごくいい空気感で録らせてもらいました」
●aieさんのギターはいかがでしたか。レコーディングまではどう弾くか、わからなかったということですよね。
「本当に天才だなって。その場で何パターンも弾いてくれるんですよ。このパターンとこのパターン、布袋寅泰パターンと誰々パターンとみたいな。そんなことってなかなかできないんですよ。俺の作品のレコーディングということでチャレンジしてることもあって、ギターを全然歪ませてないんですよ。それはいままでやったことがないらしくて。タッチ感も全部伝わるように意識したからそれを踏まえた上でミックスしといて、とは言われました。普段のaieさんのギターと違うところなんで、aieさんファンにも聴いてもらいたいです」
●ベースについてはいかがでしょうか。
「アレンジを考えたのはベースが一番最後で、歌録りの段階でまだ決まってない曲もあったし、逆に歌に合わせてベースを変えたりもしたし。ライヴで歌いながらベースを弾くことを考えないとダメなんですけど、アレンジし出すと、どうしてもフレーズありきで考えてしまって。ライヴでどうするんやろうって、いまも思ってるんですよね」

●歌録りはどうでした? 経験値がベースとはまるで違うと思いますが。
「実はコロナ禍に、一回ヴォーカルを録ったことはあるんです。お世話になったパワーハウスというスタジオがなくなるっていうことで、その前に見切り発車でレコーディングしたんです。そのときの歌が聴くに耐えなくて(苦笑)。発売してないんすよ。だから、歌録りはトラウマみたいになってるところがあったんです」
●逆に、そのときよりは歌えるぜ、みたいな感じではなかったですか。
「それはあったかな。試してみたかった。武者修行してきた俺の三年間がどこまで通用するんだろうっていうのは、めちゃくちゃありました」
●そして、その結果は?
「いや、すごく面白かった。弾き語りを始めた頃のライヴは、とにかく力が入っていってどんどん求める歌い方じゃなくなっていくことが多かったんですね。いかにリラックスしながら歌うかがテーマだったんですけど、レコーディングもまさにそうで。バンドの音圧感みたいなものを感じて力が入ったりすると、どんどん声が響かなくなるんです。でも、力を抜いてるときは全然違うんで、体が鳴るとはどういうことなのか、自分の体で再確認できたのが面白かったです」
●楽器よりも歌のほうが、体の状態がはっきり現れるのかもしれないですね。
「体から、ある一定の力を抜くと、自分のちょっとしわがれ声のところが上手く出せるんですよ。これ、ちょっと感覚的なものだから伝えるのが難しいですけど、ガラガラな感じのとこに上手く喉を引っ掛けられる感じなんです。力を入れたら引っ掛からないし、力を抜き過ぎたらただの息になるから、絶妙なバランスが取れたときにだけ、上手くガララララーッて歪みがかかるというか。これが歪なのか、ようわかってないですけど」
●それがseekさんの思う、自分の歌声なんですね。
「そこに自分が気づけたのも、曲を作ったり、場数を踏んだりしたからですよね。もう100本ぐらいはライヴをやってるから。これが答えです、ではないんやけど、何となく傾向と対策みたいなものは見えてきたかな」
いまの年齢だから歌詞にできる、死生観がにじみ出る「不透明人間」
●そして3月5日には、「不透明人間」がデジタルリリースされます。この曲を最初に出そうと思ったのは?
「これが俺なんですよって、いま一番言えるかなと思って。ほかの曲の候補もあったし、aieさんは別の曲のほうがいいって言ってたけど。DAISHIと森 翼とAYA君と晁直さんに聞いたかな。ガラさんにも聞いた。なんなら、ファンクラブで聞いて決めようかなとも思ったんです。レコーディング中も、このフレーズとこのフレーズとどっちがいい? とか、そういうのを聞いてたんですよ。でもやっぱり、一発目は自分で決めたくて、自分らしさが出てる「不透明人間」にしました。自分らしさは出てるけど、もちろん意外なはずなんですよ」
●意外に感じる人が多いでしょうね。
「Psycho le Cémuと Mix Speaker’s,Inc.とMIMIZUQのベーシストの音源の1曲目がこれ?、こんな音楽やったことないやん、っていう曲やから。でも、俺の存在は認知してるけど別に刺さってなかった人たちが、俺がいまこの歳になって新しく作ったものをいいやんって思って、出会うきっかけになるかもしれないから。それは、音楽人、バンドマン、seekソロとしてはすごく冥利に尽きるから。それで、この曲ですかね」
●「不透明人間」という言葉がすごくインパクトがありますよね。
「透明人間という言葉しかないから、違和感ありますよね。でも、先に出て来たのは、(歌詞に出てくる)“余熱”とか“余韻”っていう言葉かな。人が死んだ後に、それでもその人がいるような感覚ってあるじゃないですか。ソファにずっと座ってたおじいちゃんがおったら、仮に死んでもそのソファにまだいてる感じがあったり。名前もそういうものやと思うし、会話に名前が出てくること自体が、俺はその人がまだ生きてると思えたりするから」
●“あなた”に向けた歌詞なのかなと思ったんですけど。
「ぱっと読んだ感じ、ラブソングっぽくも取れると思う。けど、人が存在しなくなったり、存在しなくなった後も存在してたり、そういうことがテーマなのかな。20代のときはわからへんかったけど、この歳になると身近に死んだ人がいて、死みたいなものをリアルに感じるところもあるし、仮に俺が死んだ後に誰がどういうふうに俺のことを感じるんだろうって考えたりもするし。“来世はいらない”みたいな言葉じゃないけど、死生観というか、最近自分が思ってることが出てるのかな。歌詞のことを説明するのは苦手なんですけど」
●でも、説明したくないわけでもない?
「いろんな受け取り方をしてもらったらいいですけどね。歌詞を読んでくれるのはめっちゃうれしいです。僕自身が歌詞を読むのは好きやし。そういうのもあってリリックビデオみたいなのを作ってみようかなと思って、大阪の味園ビル(ライヴホール・味園ユニバースやライヴハウス・紅鶴をはじめ、多くのバーやスナックなどの複合ビル。老朽化により閉鎖される)で撮影したんです。なくなる前に映像に残しておきたくて。よく飲みに行ってたし、曲にもしたし。ほんまに魔窟みたいなところなんですよ。バーがひしめき合う真っ直ぐの廊下を、5分かけてゆっくり歩く映像を撮って。リリックビデオやと思って観てたら、(seekが)おった、みたいな映像にしようと思いついたんで、年末に撮影しに行きました。ビデオ自体も自分で作ったし、ヴォーカリストとかベーシストとしてもそうだし、クリエイターとしても、楽しいと思うことがすごく多かったですね」
●このリリースの後、現時点で告知できることは?
「レコーディングをたくさんしてるから、アルバムが出ると思ってくださってる方も多いと思うんですけど、音源はワンマンまでにちょっとずつ小出しにしたいなと思ってます。一気にご飯をドーンって出すより、懐石料理じゃないけど、ひとつずつ味わってもらおうと。なんで急にご飯のたとえにしたんかわからんけど(笑)、そういう感じで楽しんでもらいたいです。9月までは毎月『相食む』(弾き語りの2マンライヴ)があるし、『水槽のたゆたう』(弾き語りワンマン)もあるし、4月は大阪と名古屋に旅にも行きます。7月は俺が弾き語り始めて5周年なんで、何かやろうかなと思ってます」

●9月14日を目指して、スケジュールが詰まっていますね。
「去年の9月14日に発表してから、すごくワクワク過ごせてます。これから半年かけて、ベースヴォーカルの修行をせなあかんけど。でも、そういうチャレンジがいいんですよね。この歳でもドキドキしながらやれるから」