アルバム『RESISTANCE』をリリースしたPsycho le Cému。雨が降りやまない世界を舞台に始まったコンセプト“RESISTANCE”を掲げつつも、さまざまな表情を持つ収録曲すべてを丁寧に作り上げ、一曲一曲にじっくり耳を傾けたい、聴きごたえのある一枚に仕上がった。12月15日には、今年の集大成となるZepp Shinjukuでのツアーファイナルが控えている。コロナ禍を経て、自分たちの大切な場所を取り戻した彼らを見届けたい。
●現在、ツアー真っ最中ですが、アルバム収録曲をどんどん演奏していってるんですよね。
seek:毎月3デイズずつライヴをしてるんで、今月はこの3曲、次はこの3曲みたいな感じで増えていってますね。
YURAサマ:どのセットリストにも新曲が入ってるし、盛り上がってるんですよね。
seek:めっちゃ盛り上がってるんで、お客さんってすごいなと思って。
●皆さんとしては、どんどん新曲を聴かせたいモードなんですか。
YURAサマ:12月15日がZepp Shinjukuでファイナルなんですけど、そこで集大成を見せたいから、できるだけ新曲を何度も演奏したいし、ファンの方にもできるだけ聴いてもらいたいですね。
Lida:本来であれば、5月3日にアルバムをリリースして、それからツアーだったのが、予定が変わってしまったから。ライヴでアルバム制作の進捗を披露できるのであれば、セットリストに入れていこうというような感覚で、今に至ってます。20年以上バンドをやってると、考え方が変わったり、許容範囲が広がったりするんですよね。
seek:以前はノリ重視で、みんなが盛り上がってるかどうかをすごく意識してたんです。“新曲だとつまらないですか、じゃあやめときますか”みたいに考えることが多くて。だから昔は、特にミドルバラードみたいな曲が苦手だったんです、一番ノリが見えにくいじゃないですか。でも、バンドや年齢とともに、そういうノリの曲も意外とやりやすくなってますね。それは、DAISHIさんの影響が強いんです。ここ2、3年、DAISHIさんは急激にミディアム調のバラードがやりやすいと言ってるから。
●ノリがわかりにくい状態でも歌いやすくなったんですか。
DAISHI:歌を歌ってるだけで間がもつようになりましたね。前は、ノリがないと間がもたない空気を感じてたんですけど。メンバーと自分自身のスキルのおかげかもしれないですね。実際にステージで歌ってて、見せられる感じとか手応えが感じられるようになりました。
Lida:これ(DAISHI)はね、褒めて伸びるタイプです。今までやってなかった曲をまずライヴでやることに恐怖心を抱いていた部分があったじゃないですか。でもそれをこのツアーでやったことによって、“DAISHIさんの歌、すごく良かったです”っていうお客さんの声が多いし、そういうリアクションが嬉しいし。やったことが伝わって、いい反応が返ってきて、俺は間違ってなかったって自信がついて、また歌う、このいい循環が行われてるんじゃないですか。“RESISTANCE”というテーマが、楽曲をメインにしたコンセプトでもあるので、そういう部分で得てるものは大きいと思うし、伝わり方も違うんだと思います。
作詞者と作曲者のマッチングにも注目。DAISHIの腕の見せ所はいかに?
●では、収録曲についておうかがいしていきます。1曲目の「ECLIPSE~双星の記憶~」は、“RESISTANCE”というコンセプトや、そのアルバムの1曲目にふさわしい曲ですね。
Lida:最終的にこの位置になったからそういう印象だと思うんですけど、もともとは違いました。こんな壮大なイントロもなかったですし。
seek:もともとは、「ECLIPSE~双星の記憶~」と「LOVE TO STAY UP LATE」が比較的近い方向やったんですよ。アレンジもそんなに遠からずで。そこから「ECLIPSE」は、今の状態にすごく広がったんですけど、それまでに何パターンもアレンジを考えて聴かせてくれたんです。最終的に「ECLIPSE~双星の記憶~」のBPMが心臓の鼓動ぐらいだということで、心臓の音を入れたりして。そういう意味で言うと一番コンセプチュアルな作り方だし、ファンタジーというか世界観が見えるからPsycho le Cémuっぽいですよね。
Lida:曲が形になった順番が最後の方だったんで、それまでに会話をしていて、キーワードになるような言葉が出てきたりするわけですよ。“心臓”もそうですし、“雨”はもともとコンセプトを象徴するものだったし。そのうちに、雨の音とか心臓の鼓動の音を自然に入れたくなって、曲中ずっと心臓の鼓動が鳴ってるんです。ミックスで、鼓動の音をもっと出すことになって、やっぱり象徴的なものなんだと思ったからその音で終わる形になってます。
●「アカツキ」「君がいる世界」と続いて「Remember me」ですが、曲の雰囲気もですけど、特に歌が全然違いますよね。
DAISHI:この曲のためだけに、前もってかなりヴォイトレにいきました。バラードは大切にしてるし、このアルバムで1曲となったら「Remember me」がその立ち位置かなと思うので、ヴォーカルとしては決めておきたかったし、24年バンドで歌ってきて、成長の具合はやっぱり見せておきたいですよね。これぐらい歌えないとこの歌は出したくないと思うような曲を出すわけなんで、成長しているところは見せたかったです。
●作曲したAYAさんとしても、新しいものとか成長を出したかった曲なんですか。
AYA:これは、20年前に作った曲なんですけど、一度バラードに仕上げてたんですね。そこからさらに今風にアレンジし直して、R&Bっぽくなって、今回出しました。
seek:僕らもR&Bをやってきたわけじゃないし、ヴィジュアル系でR&Bの要素を取り入れるのはなかなかないと思うし、自分たちにとって新しい扉ですよね。そういうアレンジがあったらいいなと思ってたら、AYA君からこのアレンジが出てきたんです。
AYA:そんなつもりでは作ってなかったんですけどね。
Lida:R&Bというのは僕らの中での解釈ですけど、今までなかったような方向に寄せた方がいいだろうという感じで進んでいったわけですね。
DAISHI:ファンの人は、R&Bとか意識せずに、単純に普通のミディアムテンの曲やなと思って聴いてると思いますけど。
Lida:作詞者(DAISHI)からすると、この曲は前向きな曲なんだよね。
DAISHI:何? 俺のことを言ってくれてんの?
Lida:DAISHIが、“前向きな曲やからサビをどうしようかな”みたいなことを言ってて。ライヴでやる前にいろいろ試してたんですけど、結果的にフェスのときとかヒップホップみたいな、そういう明るいムードにしたいということになったみたい。ライヴでお客さんが、曲調から理解して順応してくれたのはすごく嬉しかったです。たぶん昔の僕らやったら、もうちょっと粛々と演奏してたと思うんですよ。結果、こういう曲はね、ここで生まれてよかったと思いますよ。
●アルバムとして聴いていても、ここですごく新鮮な印象を受けましたね。
DAISHI:アルバム最初の3曲は、割とPsycho le Cémuっていう感じもしますから新鮮ですよね。
seek:アルバムの4曲目でバラードがくるのって早いな。
DAISHI:でも、そんなにバラードでもないでしょ。サビは普通のポップスやし、むしろこのアルバムにド・バラードがないかもね。
●テンポというより、最初の3曲が王道っぽいので意外性が強く感じられるのかもしれないですね。
DAISHI:確かに。
●次の「MYSTERIOUS STUPID TRAP」もAYAさんの曲です。
AYA:これはアレンジをAijiさん(LM.C)にお願いしました。ダークでホラーなダンス曲みたいな感じで作ってたんすけど、デモの段階で、今の僕の技術ではこれが限界かなと感じたんで、こういうのが得意なAijiさんにお願いして。よりダンスでノレる曲になったかなと思います。
seek:Aijiさんは、もともとAYA君が作ってた楽曲のポテンシャルを細かく見て、丁寧に調理してくれはったなと思います。
AYA:新しい風を入れていきたかったんですよね。
●新しい要素もありますが、Lidaさん作曲の曲については、「ECLIPSE~双星の記憶~」もそうですし、「LOVE TO STAYUP LATE」も、Lidaさんぽいっ印象を受けたんですけど、いかがですか。
AYA:っぽいと思います。
Lida:っぽいと言えばそうですけど、この音源を作るまでに思ってることを自然に形にしている意識なんで、無理矢理何かすることもないし。だからLidaっぽいと思われるんだと思います。
seek:「LOVE TO STAY UP LATE」は、イントロの一音目から、Lidaさんっぽいな~って思いました。
DAISHI:やっぱりLidaじゃないと、イントロに爆発音を入れへんもんな(笑)。seekが爆発音を入れてたら、“どうしたんや、お前?”って心配するもん。
Lida:やっぱりね、昔から特撮を観て育ってるので、絵が浮かぶわけですよ。イントロに入ったら爆発やって。“RESISTANCE”というコンセプトとか世界観の枠はありますよ。もともとずっとストリングスの音が入ってるんですけど、後半に従ってどんどん増えていって、最終的には壮大なオーケストラみたいな感じになってるんです。もともとはそこまで入れてなかったんですけど、ドラムのパターンがガラッと変わって速くなって、そうなるとX JAPANへのオマージュもありますし。それで、結果こうなりました。
●「LOVE TO STAY UP LATE」の歌詞をDAISHIさんが書いているのは、Lidaさんからの希望だったんですか。
Lida:僕がもともと書いてたんですけど、“その席、どけ”と(笑)。
DAISHI:意外と、作曲Lidaで作詞DAISHIのコンビの曲がないから。僕がすごくこの歌詞を書きたいとかじゃなくて、珍しいコンビのタッグがあったら、アルバムのひとつの楽しみにもなるかなと。Lida君が書いてる歌詞で良かったんですよ。でも、そういう意図があったから。「あなたにくびったけ」で、seekがYURAサマの曲の歌詞を書いてるのもそうなんです。
●意図的に新鮮な組み合わせを作ってるんですね。
DAISHI:曲を聴いてから組み合わせは作りました。
seek:いろんなバランスあった方が面白いですよね。
●作曲者と作詞者の組み合わせによって、歌詞も変わるものなんでしょうか。
DAISHI:変わると思いますよ。逆に、この曲はこの人に書いてほしくないと思ったりもしますもん。僕的にですけど、“混ぜるな、危険”と思う組み合わせもありますね。
●そういうのもあって、「あなたにくびったけ」の歌詞は、seekさんが書くことになったと。
seek:YURAサマ的にはバンドアプローチで曲を書いてたんですけど、他のメンバー的にはボカロっぽい印象が強かったんで、ボカロっぽいアレンジやったらということで、DAISHIさんが振り分けて僕が書くことになったんです。
●YURAサマとしてはバンドの曲をイメージしていたんですか。
YURAサマ:バンドでした。ボカロっぽいというのはピンとこなかったですね。
●YURAサマだからダンス曲を作るというわけでもないんですね。
AYA:そういうパターンが多いですよ。デモの段階ではバンド曲だったのをダンス曲に変えちゃうみたいなのが全然あったりします。
● ボカロっぽいというところから、歌詞のイメージも出てきたんですか。
seek:いや、言葉数が多いなとは思ったけど、僕はそんなにボカロに精通してるわけじゃないんで、ボカロっぽいって何やねんと思ってて。もともとは人間が歌えないようなものを歌う印象があったんです。キーの幅もすごくて、アップダウンが激しいとか、ブレスがないとか。ボカロっぽい歌詞というのがわからなかったので、結構好き勝手に書きましたね、言葉遊びとか。
● タイトルもインパクトありますよね。
seek:曲調も浮いてたし、歌詞も浮くぐらいの方がいいかなと思って。YURAサマからも、“好きにしてくれたら”って言ってもらったし、曲調的にも“RESISTANCE”みたいな感じでもないし。最近自分がやってる弾き語りだと、なぜか女性言葉を使う曲をよく作ってるんで、結果そういうかたちになりましたね。
DAISHI:「あなたにくびったけ」というタイトル見たときに、『うる星やつら』のラムちゃんが俺の中で出てきた。ラムちゃんが「ダーリンにくびったけ」って言ってる台詞があったような。あの時代背景にも合う感じがするし。“くびったけ”って、パンチがありますよね。
●そしてseekさんが新たに作曲したのは、「Paranoia Flying Fish」と「MOON PRISONER」ですね。
Lida:「MOON PRISONER」は、「アカツキ」と「君がいる世界」「もう一度、くちづけを」以外で一番にライヴでやった曲ですね。
seek:ファンクラブ限定ライヴで一番最初にやったんかな。声出し解禁と同時に新曲もやっていこうと。お客さんの声が聴けたこともあって、あのライヴは印象に残ってますね。「MOON PRISONER」と「Paranoia Flying Fish」は、エンジニアをギルガメッシュのЯyoさんにお願いしました。Яyoさんがこういう作品を今まで作って来られてる印象がすごく強かったから、Psycho le Cémuでやってみたらどうなんだろうと思ったんです。
特上の幕の内弁当のようなアルバム? 腕を磨いてきたからこその作品。
●全体的にはすごくバランスがいいというか、アルバムらしい作品になっているなと思いました。
seek:Psycho le Cému特有やと思うんですけども、それぞれの曲のキャラクターがちゃんと見えるようにするんで、久々のアルバムでさらに振り幅が広くなって、いろんな曲調のものができたなという印象はありますね。
Lida:昔からこういう性分というか、幕の内弁当にしたいみたいなところはありますね
●アルバム全体を通してというより、純粋に一曲一曲を追求して完成させたような。
AYA:Psycho le Cémuはいつもそんな気がするんですね。アルバム単位で何かを考えたことはあんまりなくて、いい曲を作って集めていくみたいな作り方を昔からしてると思います。
seek:常に、自分らにないものを毎回アルバムに入れようとはしますよね。せっかくアルバムを出せるから、何か新しい曲調にチャレンジしてみようみたいなのが入ってるから。ほんまにいつも幕の内弁当を作ってる。
●そこで1品1品のクオリティが高くなってるようなところはあるんじゃないですか。
Lida:毎回、若干違いは出てるんだと思いますね。うちはこのカレーしか出しませんみたいなやり方が大事なときもあるじゃないですか。でも振り返ると、Psycho le Cémuはいつの時代も欲張りで、あれもこれもやってみたいんですよね。そういう意味では、“RESISTANCE”という大きなお弁当箱に、それぞれの役割とか得意分野を入れてるんですけど、年を重ねるごとにそれぞれがいい味を出すようになってますよね。
AYA:さらに弁当の話になってきた(笑)。
DAISHI:自分が若いときに聴いてきたバンドのアルバムは、意外と偏ってない作品でしたね。アルバム一枚を通していろんな景色が見えるタイプのアーティストが好きやから、その辺はやっぱりリスペクトがあるのかな。
seek:常に新しい武器を探してるんですよ。ダンス曲は必ず入ってるし、ダンスをするバンドだと思われてるわけですけど、そのインパクトを超える何かを求めてたりする。ダンスを2人で踊ってたところから、YURAサマが歌うようになってツインヴォーカルの曲が生まれたり。曲に引っ張られるパターンもありますよね。「MOON PRISONER」で、俺もLidaさんも歌ってトリプルヴォーカルみたいなアプローチになってるのもそうです。
●そして、アルバム発売後ももちろんツアーが続きます。
seek:一番体力的にしんどいだろうと思っていた西日本は終わったんで、もうあとはこっちのもんですね。それに、DAISHIさんの声が3日間もってるのがすごくて。DAISHIさんの喉が弱いってずっと思ったし、本人も3デイズは絶対イヤですって言ってたんですけどね。
●キャリアを積んで何か変化があったんですか。
DAISHI:トレーニングをし出してからね、喉を潰さなくなったんです。トレーニングが理由なのか僕もわからないんですけど、3デイズは全然大丈夫ですね。seekと飲みに行ってないのもあるかな。
seek:あると思います(笑)。
DAISHI:そんな芸人さんみたいなこと言わんでも(笑)。うちのジムに来てるヴォーカルの人も、体を鍛えると声が変わるのを実感する人はいますね。やっぱり体そのものが楽器やからだと思います。
seek:別の筋肉がフォローするようになるのかもしれないですね。
DAISHI:その両方じゃないですか。seekと飲みに行かないのと朝早起きして鍛えてるのと。
seek:朝、めっちゃ早いから。
DAISHI:ツアー中も5時半とか6時には起きて走ってます。
●なんと健康的。そのおかげかツアーも順調と。
DAISHI:昔のライヴが戻ってきた箇所も増えてきた感じですしね。
seek:声出し解禁になって、明らかにライヴの空気が変わりました。
DAISHI:アルバムが出るタイミングで、メンバーも予想してないような、何かいいことが起こってほしいと思ったりしてます。バンドって、自分たち自身では動かせないことがたまに起きるんですよ。なぜかバンドが足踏みしてるとか、お客さんが増えてる理由がわからんとか。アルバムを出して、そういうのを久しぶりに味わってみたい気持ちがありますね。
seek:DAISHIさんが言ったこととは真逆になっちゃいますけど、自分たちの活動がお客さんのリアクションとしてきっちり返ってきてることを僕は感じてるんですね。この数年は、自分らの活動が果たして合ってるのかどうかみたいに思ってるときもありましたけど、続けてきて、ライヴ会場にお客さんが戻ってきてくれてるから。
●12月のファイナルを楽しみにしてます。
DAISHI:僕、毎朝6時にね、近所の神社の階段を10往復するんですけど、最後にね、賽銭箱に10円玉を入れてバンドのこととかお祈りするんですよ。そんな奴じゃなかったんですけど(笑)。毎日のことやし、何かのご縁やなと思って。
●じゃあ、そのご利益があるかも?
DAISHI:そのご利益を期待してるんですよ(笑)。