MIMIZUQにヴォーカルとして加入後、バンドの魅力をますます広げ、
シンガーソングライターとしても長く活動を続けている森 翼。
ステージで自由奔放に音楽を楽しむ姿を目にしていても、
さすがに「タイに行く!」という言葉には驚いた。
誰ひとり彼を知らない未知の世界に飛び込むのに、どれだけ勇気が要っただろうか。
それでも11月17日には、TSUBASA MORI×COCONUT SUNDAYとして
ミニアルバム『DON’T THINK』をリリースし、タイでの活動を形にして見せてくれた。
どんな思いで海を渡り、そこで何を目にして、何を感じたのか。
タイでの活動をじっくり振り返るパーソナルインタビューです。
もっとスピードアップしたかったから、無茶なことをする
●タイに行くと決めたのが、ちょうど1年ぐらい前、2022年秋ぐらいだとか。
「ほんまにただ挑戦として、海外で生活したいと思ったんです。誰も自分を知らないところに行きたかったし、行ったことのない国に行ってみたかったし。タイでないといけないわけじゃなかったですね」
●自分のことを誰も知らない国に行きたかったのは、ひとりになりたかったから?
「そうやと思いますね。たぶん頭が疲れてたんやと思います。普段、何かを見たり、声が聞こえてきたりすると、そこから勝手に連想ゲームみたいなことを頭でやってしまうんです。例えば、ここにあるメニューの“レトロ”っていう文字を見ると、“レトロと言えば…”っていうふうに、連想ゲームをするのがちっちゃい頃から癖なんです。それはライヴでは役に立つんですけど、気づいてないうちに疲れてたんだと思います。タイに行ってみたら、タイ語の文字はわからへんし、人が喋ってるのもわからへんから、連想ゲームがピタッと止まって、頭がすごいすっきりしたんです。だから、誰も自分を知らないところに飛び込みたかった理由は、そういうところにもあったんかな」
●そういう気づきがあったんですね。
「もともとは修行みたいなつもりで飛び出したんですけどね。それは、バンド内でちっちゃなコンプレックスみたいなのがあったのもあるかな。AYAさんseekさんにはPsycho le Cémuがあって、pocoさんにはHysteric Blueがあって。ライヴハウスで打ち上げしてるときに、会場のスタッフの人が“ほんちゃんのバンドの方ではいつ来るんですか?”って言ってるのを聞いたことがあるんですね。ちっちゃいことですけど、そういうので、僕は何者でもないなって思ったりするんです。引け目を感じるわけじゃないですよ。でも、メンバーが当時挑戦して勝ち取ったキャリアやから、自分も今からでも挑戦しても遅くないかなと思ったりして。それでも、時間はみんな同じように流れてるから、経験値が追いつくのはたぶん難しいんですよ。だから、時空が歪むぐらいのスピード感で何か仕掛けてやれって。今は、タイと日本で、二倍年をとってる気がする」
●すごく自分追い込もうとしているのかなと感じていたんですけど。
「ほんまにそれですね。バンドとしても1人のミュージシャンとしても伸び悩んでたから。上手くいってないわけじゃないけど、自分たちが思ってるような感じにはなってないから」
●それは、作っている音楽に対して? それとも例えば動員みたいなこと?
「後者ですね。やりたいこととか目指すものは作れてたけど、それだけの反響がなかった。こんなに手応えがあるのに結果が伴わないみたいな。これだけいいと思ってやってることを、同じようにいいやんって言ってくれる人がもっといるはずやと思うんです。シンガーソングライターの畑とヴィジュアル系の畑の2個だけじゃなくて、もっと言うと音楽業界だけにとらわれず、視野を広くしたかったんです。それで、海を越えてみると何か変わるかなと。例えばSNSで海外での活動状況をアップするとか、賑やかしでもよかったんです。MIMIZUQのヴォーカルが海外に行って何かやってるらしいで、って話題になるだけでもよかった」
●悲壮感のある決意という感じではなく。
「そういう感じではないかな。このまま僕らが音楽活動をやり続ければ、聴いてくれる人たちは増えていくと思う。でもそれやったら10年、20年かかるかもしれへん。それももちろん素晴らしいんだけど、でもみんなずっと生きてるわけじゃないし、それはほんまにここ最近特に感じることやし。スピードアップするには、バンドとして違う活動が必要やと思ったんですね。今のやり方が間違ってるとは全然思わないんですよ。だって、やりたい人とライヴで見せたいものを見せてるし、健康的な活動なんです。でももっとスピードアップするためには、ちょっと無茶なことをやらなあかんと思って。でも、音楽を変えたら本来聴かせたかった音楽じゃなくなるから、音楽以外の発信で頑張ろうと。MIMIZUQだけじゃなくて、それ以外にやってること全部をもっと頑張ったら、たぶん自然とMIMIZUQも広がっていくんじゃないかな。人が集まってくれる音楽を作るより、人が集まってくれる人間になるのを目指した方が早いんかなと思ったんです。それを口で説明するんじゃなくて、やっぱりヴォーカルやし、僕がやらんとあかんかなって。キャラクター的にも、この4人だったら確実にその役目は俺なんです」
“俺もミュージシャンやし、出させて”いきなり自ら出演交渉!?
●音楽以外のことを考えたときに、海外に行くことを選んだのはどうしてなんですか。ほかに考えたこともありました?
「去年は畑をやってたんで、試してはいるんですよね。音楽は、曲が出来る過程を可視化できひんけど、畑やと、土をならすところからスタートして、過程が目に見えるんですよね。できた野菜は形も悪いし、味も別に普通やったけど、スーパーで売ってる綺麗な野菜とどっちが大切ですかって言われたら、自分が引っこ抜いた形の悪い野菜なんです。なぜならそこにはドラマがあるし、ストーリー込みでその野菜が好きやから。スーパーで売ってる野菜のように整った色鮮やかな音楽はいっぱいあるけど、わざわざライヴに来てくれるお客さんは、“スーパーにもっといいのが売ってたよ”と言われても、いや、私は僕はこれがこうなるまで見てたんですっていう思いがあるわけじゃないですか。だから、それを作ってる自分がいろんなことをもっと経験したり、チャレンジしたり、孤独になったりすれば、同じ言葉でも同じ歌でも同じメロディでも、空気とか奥行が変わってくると思うんです。だって、やっぱり人生を鳴らしてるから。だから実は、畑をやってるときにヒントがあったんです」
●ただ、翼さんがタイに行ってまず何をするのか全く想像がつかなくて。例えば、バンドやるぜって東京に出てきた人は、昔だったら、スタジオに貼ってあるメンバー募集のチラシを探すとか、イメージがあるんですけど。
「そんな感じですよ。ショッピングモールでちょっとしたライヴをやってたら、PA卓に行って、“俺もミュージシャンやし、出させて”って言うんです。そしたら当然断られるから、“オーガナイザーに会わせてくれ”って頼んだり、“次、いつ開催する?、しばらくこっちおるから、いつでも来るで”って言ったり。それで実際に出られたライヴもあるんです」
●日本だったら、いきなり声をかけても絶対無理ですよね。
「そこはたぶん、タイの人から見ると僕は外国人やから多少変なことをしても許されるというか。だからアホなふりして行っちゃうんです。歌える場所を何とかしないと、タイに来て何してるんやろうって思うし、思われるやろうし。そういう焦りはあるから」
●タイの音楽シーンってどういう感じなんですか。
「ライヴハウスはあんまりないんですよ。そうじゃなくて、バーとかレストランとかでBGMを生演奏してるバンドがいたりはするんです。だからそこに行って、勝手にステージに上がって、コードだけ言って、リズムを出して。みんなは酔っ払いが来たみたいな感じで見てるんですけど、そこで日本語でわ~って歌うんです。そしたらちゃんと歌えるんやみたいに思ってもらえて、お店のオーナーが飛び込みで出られる日を教えてくれたりもしました」
●それでも、自分のことは全く知らないわけだし、日本でこんなライヴハウスに出てるとか言っても伝わらないわけですよね。
「名刺はないんですけど、インスタとXとYouTubeのQRコードをちっちゃい紙にプリントして、いつもポケットに入れます。何かあったとき、それを出すんです」
●こつこつ頑張ってた感じが伝わってきます。
「実は、タイに行ってからお酒をずっと飲んでなかった期間があるんです。飛び込みで歌いに行くときに、120%の力を出せないともったいないから、酔っ払いが来てると思われてたけど、シラフだったんです。ちゃんとステージに出られるのを確約するまでは、お酒は飲まなかった。音楽をするために行ってるんだし、日本に戻ったらお酒は飲めるから、ここでは全力でできないといけないと思ったんです」
自分のチャレンジに集中してると、周りが気にならなくなる
●今回リリースすることになったのをどういう経緯だったんですか。
「そもそも行ってみてから気づいてぞっとしたんですけど。この旅のゴールを設定してなかったんですよ」
●それはあえて?
「そんなもん何も考えてなかった。そこで、リリースをひとつのゴールにしたんです。そうでないと、タイに行ってこんな風に変わりましたと言っても、第三者の人にはわからへんから、形にしようと思ったんですよね。それで、リリースをゴールに設定してから、まず曲を作ろうと。でも、タイでリリースしましたと言っても、自作自演やと思われそうやから、タイのミュージシャンとコラボしたかったんです。そういう気持ちでタイに来て活動してることをいろんな人に伝えてる中で、それに共感してくれたのがCOCONUT SUNDAYで。彼らと一緒に曲を作ってみることになったんです。僕は、これまでコラボで作品を出したことがなかったから、それ自体が新しいことやし」
●COCONUT SUNDAYは、タイでどんな活動をしているバンドなんですか。
「一回メジャーでやって、今はフリーで活動してる感じで、僕と境遇が似てるところもあるんですよね。そんなもんあって、すごく話が合って。最初にチャンスを誰かが与えてくれたけど、若さもあって傲慢やったから自分で勝ち取ったと思いすぎたこともあるよなとか、そんな話もした。すごく正直に会話できたし、彼らと喋ってるとすごく心地よくて。9月にタイから帰ってくるときに、空港で泣きながら見送ってくれて、“また会おうな”って言って。こんなにもすぐまた会うとは思わなかったけど(笑)」
●リリースパーティのために日本に来るんですもんね。これで、一つのゴールは到達したわけですけど、さてこれからは?
「ゴールって、目標って、また出来るんですね(笑顔)。まずタイでの生活については2年計画にして、2024年でタイ編としてまとめられればいいかなと思ってます。2024年の1月もまた大型フェスに出演が決まったんですけど、2025年のそのフェスにMIMIZUQを連れて行きたいんです。MIMIZUQと海外のフェスは合うと思うんですよね。言葉じゃなくて、視覚的に世界観を表現してて、既に言葉を超えたところでスタートしてるから、絶対強いと思う。連れて行けるように、まだ僕がタイでやらないといけないことがたくさんあるから、2024年も今年みたいな二重生活を続けます」
●タイに行って、作曲とか作詞とか、音楽制作の面で影響を受けていることはあるんですか。
「伝えすぎてるかもしれないと思いました。日本だと言葉が通じるから伝わるじゃないですか」
●言葉がなくても伝わることを実感したから、そう感じるようになったんでしょうか。歌詞の意味はわかってないけど伝わってるって実感するとか。
「うんうんうん。だから、10のことを思ってて、その10のことを言って、相手が10のことを受け取るためのアプローチは、1個しかないわけじゃないんですよ。逆に10のこと全部を伝えないことで、10のことが伝わるシチュエーションもあるんです。だから、これまでは伝えすぎてたのかもしれないとはめっちゃ思った」
●ほかにタイに行ったことで、すごく感じているのはどんなことですか。
「何がってわかんないですけど、生きてる感じがします。周りに振り向いてほしくて、認められたくて、始めたチャレンジやったけど、夢中になればなるほど、周りは関係なくなったというか。自分のチャレンジに集中してると、周りを気にしたり、恥ずかしかったりすることが、すごく減ったんです。それがステージにも現れてるんじゃないかなとも思う。強くなったのとはまた違うんですけど、視野は広くなったんじゃないですかね。いろいろなものに興味がわいたと思います。タイに行ってよかった2023年でした」
●2023年内としては、11月28日にリリースパーティのイベントがあって、12月はMIMIZUQのクリスマスイベントがあります。ソロのライヴもたくさん決まっていますね。
「12月17日のMIMIZUQは、お昼にライヴをして、夜はクリスマスパーティー、忘年会なんかな、パーティーをします。それがMIMIZUQの今年ラストライヴです」
●翼さん自身の年内最後は?
「23日の所沢の野外ですね」
●年末年始はちょっとゆっくりできそうですか。
「去年の12月31日は100曲歌う配信をやったんで」
●そうだ、ずーっと歌ってらした記憶があります。
「それをもう一回、今年の大晦日もやる流れになってます。自分に、風邪ひいてくれと思ってます(笑)」