4月6日から始まるWaive TOUR『SHOCK WAIVE』を控え、杉本善徳は新曲を書いていた。
取材場所で耳にしたその曲は、Waiveらしいポップなメロディと、
それ以上に、杉本らしいまっすぐな歌詞が印象的だった。
日本武道館での公演と解散を発表して間もなく一年が経つ。
新曲制作に臨んだ背景を訊いているうちに、武道館への思いがさらに透けて見えてきた。
ツアーに向けて、ライヴをイメージして書いた新曲
●この新曲は、いつ頃に書いたものなんですか。
「詰めの作業という意味では3月のアタマぐらいかな」
●新曲を書くというお話はずっとありましたが、ここで新曲ができたのは、締め切りが提示されたからとかではないですよね。
「言われてはない。ただ一昨日、田澤君とLINEで長めのやり取りをしたんですけど、メンバー間では新曲がいるかどうか、未だに本当に答えが見えない。仮に僕がいま極上のバラードを生んだところで、最後のライヴでどの曲をやらないか論につながってしまうというか、曲を増やせば増やすほどお役御免になっていく曲が増えるから」
●一回のライヴ演奏できる曲数には限界がありますからね。
「ファンが求めているとか、プロモーションしていく上で必要とか、そういうことを置いておいたとき、果たして本当に新曲が必要なのか、作る側としては悩むところがある。ただ、心の底から拒絶しているわけじゃなく、深いことを考えなかったら音楽を作りたい気持ちはあるから。ツアーもあるし、せめて新しい何かがあったほうがいいとは思う。たとえば、衣装が変わっていたほうがいいでしょうみたいなノリと一緒で、曲があっても素敵なんじゃない? みたいな感覚ではある」
●そこでどんな曲を作ろうと思ったんですか。
「自分たちの年齢とか、田澤君があれだけ歌えるからとかもあって、必然的にバラードを書きがちなんですよ。でもいまは、バンドにある座席(セットリスト)の空いている部分の曲から作っていったほうがいいと思ったんですね。Waiveのライヴのセットリストを組むときに、毎回困るというか悩みがちな要素を潰していくイメージで、こういう曲があったほうがセットリストを組みやすいとか、そういうことを考えました。しいて言うなら「PEACE?」とか「あの花が咲く頃に」とか「HONEY」とか、あくまでもライブのセットリストとしての意味合いで、ああいう感じの立ち位置に、いまっぽいものが増えてもいいのかなと」
●なるほど。では、春のツアーで披露することを踏まえて書いた新曲ということですね。
「僕はそうです。結果、間に合わなくなることがあるとしても、目標としてはそこかなと思ってました。解散が決まって以降の新曲は、復活後も含めてシリアスだから、その感じがしんどい人がいるのかなと思うところがあるし、2月のいつだったかな、逹瑯と会って話したことがあって」
●前回の取材の前の日に、逹瑯さんとDAISHIさんと会ったというお話でしたね。
「そのときに逹瑯からも、Waiveが新曲を出すんだとしたら、解散とかを意識してない明るい曲を聴きたいって言われたんです。ちょうど俺もそう思ってんねんという話をそのときしていて、近しい第三者と自分の考えが一致しているなら今それを作るべきかなと思ったり。仮に新曲を10曲作りますよってなったら、「ペーパードレスレディ」とかみたいな、さらに個性を前面に押し出したような曲も書きたいけど、そこまでの曲をいきなり「火花」の次の新曲としては出せないから。そういうことをやるんだったら土台が必要なんです。たとえば、アー写とかツアータイトルとかも必要で、そっち方面ねとわかるようにやれないと、曲だけが急に出てくるとわけがわからなくなる。どんなタイミングで発表されても、1曲ずつポロリと出されると感覚的にも新曲ですって構えちゃうじゃないですか」
●聴き手はそうでしょうね。
「だから、意図してふざけるときは、ふざけてる感をちゃんと前面に出したいから。田澤君は、「ペーパードレスレディ」しかり、「ネガポジ」しかり、ああいう他のバンドからは生まれない、できないであろう曲調にWaiveの突出した魅力があると感じている部分があるみたいで」
●なるほど。
「僕は、田澤くんの武器とそういう曲は乖離してると思ってるけど」
●客観的に見たらそう見えると思います。
「思ってるけど、それがバンドという集合体だからこそ違ったものが生まれるというのは、確かに個性であり魅力なのかなとも思うんです。だから全面的にその考えに乗っかることはできないと思うけど、仮に乗っかるんだったら、お膳立てをしっかりして、俺たちここまでやれますよ、というのをメンバー各自の個性を知りつつバンドという人格込みでやらないと面白くないんじゃないのかな。流れは必要な気がするんですよね。だから今回は、そっちではない曲調がいいかなっていうふうに思い、先述の方向に決めました」
Waiveの歌詞を書くときに何をすべきか
●曲としてはふざけてないし、サビはキャッチーでポップですけど、歌詞はあんまり明るくはないような印象を受けましたが。
「そうですか。暗くもないでしょ」
●“後悔の少ない未来“というワードが、ちょっと引っかかるというか。そこまで、後悔することを前面に出さなくてもいいんじゃないかなと思いました。
「なるほどなるほど。そういう聞こえ方もあるんですね。でも、そうなんかな。僕も、春のツアーだし、明るいパステル調のものだったり、卒業、出会い、なんかフレッシュな感じの曲にすることも頭では考えたんですけど、メロディにそれがハマらないというか。いまの自分が置かれてる状態での前向きさは、二十歳前後に何も知らずにスタート地点で、よーいドン! の合図と同時に全力で走るんだみたいなこととは違うから。それを急に歌ったところで若作り感しか出ないし、嘘にしか聞こえないんちゃうかな。メロディラインも選ばれてるコードも、それを求めてないような気がすごくする。Waiveでやると、サムイ曲をやってるなと思われそう。Waiveというバンドに歌詞を書くときに何をやるべきなのか考えると、どうしてもまっすぐなものであるべきなのかなって思っちゃうんですよね」
●それはよくわかります。ただ、これまでの取材でもお話に出ましたけど、ある程度の世代以上の星になるわけじゃないですか。武道館が成功するかどうかは誰にもわからないことですけど、成功するかわからないな~って思いながら書いている感じがしました。少なくとも、いけるぜっていう曲ではない印象を受けたので。
「言ってることはわかる、確かにそう。でも、やっぱり僕は僕が聞きたい言葉を書きたいんです。ええ歳こいて遠い目標を掲げた上で、俺と君ならいけるぜ! みたいなことを根拠なく言ってる奴の言葉は、マジで僕は刺さらないと思う。歌詞というものは、その人の頭脳レベルと比例するものだと思っているから、メロディラインだとかファッションだとかとは違うんです。メロディラインとかファッションとかは、若く見せればいいと思う。観に来る人らがそれを観て、当時に帰れるというか、その日だけでも若い気持ちになってくれたら嬉しいから。でも、新しく届けるメッセージはそれだとダメだと思うんです」
●歌詞は特別というのもわかるし、去年4月に武道館やるぜって言ったときも、上手くいくぜってヘラヘラ言っていたわけではないとも思うんです。でも、ここからまたやってやるぜ、というモードだったとは思うんです。
「それはそうですね」
●いま、また新曲を出すときに、「火花」からさらに燃えてます、みたいな曲でもよかったんじゃないかなと。でも、この新曲はそうではないでしょ。
「確かに確かに。でもね、たぶんそこは深く考えてないかも、正直ね。もしかしたら脳裏で勝手に考えてしまったことはあるかもしれないけど、そこを意識して、やってない気がする。「火花」のときは明確にバンドのことや武道館のこと、解散のことを考えましたけど、今回はもっと広義で自分自身を含んだ若さの渦中にない、若さを俯瞰で見るようになった世代のことを書いている。若い頃に好きだった人やもの、コンテンツなどがシュリンクいくのを見ていて、だいたいのことがやりたくてもやらせてもらえなかったり、できないまま閉じていくんだなって感じる中で思うことを書いたというか」
●いま?、それともこれまでの人生で?
「これまで。たとえばWaiveでわかりやすく言うと、武道館をやりましょうよ、やりたいですって、僕は過去にも何回か言ってるんですよ。たぶんこのときにやっておけば一番よかったっていうのをもう逃しているんです。直近で言ったら、僕はコロナ禍でやるべきだと思ったんですよ。人が入っていなくても“ですよね”で済む風潮があったから(笑)」
●確かにそうですね。
「だから、渋谷公会堂とか言わずに、武道館のほうがいいんじゃないですかっていう話をしたけど、実現しなかったんです。EX THEATREをやったタイミングでも、もっと広い会場でやったほうがいいという話はしてたんですよ。でもどこからともなく現実を見たほうがいいみたいなことになって。やるべきタイミングが自分の中であったところで、周りが乗ってこなくてできなかったことはいっぱいある。でも今回みたいに、どう考えてもタイミングを逃していても、人が乗ってくるときがあって、これはやっぱり幸運な気がするんですよ。だいたいのチャレンジはできないし、さらに言うと、チャレンジできる土俵まで来ることさえもまれで、音楽で言えばOSAKA MUSEのワンマンもできずに解散するバンドがほとんどだし。自分とか自分たちがこれをやりたいと言ったときに、背中を押してくれる人がいる環境にたどり着いたのは、あらゆる幸運の結晶な気がする。これは、Waiveの武道館を発表したときからすごく思ってるんです」
ミュージシャン人生の終盤戦だから思うこと
●過去には乗ってこれなかった話に今回乗れているのは、何が違うんでしょう?
「僕は、タイミングでしかないと思ってる。次のバッターボックスに立ったときにはこうしようと思っていても、次が回ってくるかどうかわからないじゃないですか。ここで賭けられるというときにもったいぶる奴は勝機を逃すと思ってます。若い頃であればあるほど、これを逃しても次でいいかっていう考え方をするけど、どんどんタイムリミットが来て9回裏が近づくから。ミュージシャンとしての人生で考えたらもう終盤戦に入っているかもしれないし、打つべきタイミングで打たなかったから、いまこれだけ切羽詰まっちゃってるんですよ。若い頃にセオリーとされていた武道館のライヴは8000人から1万人ぐらい入ってないといけないとか、誰かの押し付けてきた理論だったのが、いまは仮に300人でもやることに意味あるんちゃうかなって言ってるわけで。若い頃に、その理論を味方にできていれば何回も武道館でやってるし(笑)」
●なるほど。
「もったいぶったから、人生で達成できなかったことがあまりにも多い。武道館だけの話じゃないと思うんですよ。何をやってても、ゲインがちっちゃかろうが何だろうが、ゲインだと思えるものがある以上は打てって思っちゃうんです、今となっては。ゲインが全くない状態で、でっかいゲインが得られるチャンスを待つって何様やねんって思う」
●そういう後悔が、”後悔の少ない人生“というワードの根底にあるということですか。
「ただ、そんなに歌詞が前向きである必要は僕はない気がしてるし、自分で書いていてネガティブではないと思ってるし。僕の感覚で言うと、”後悔の少ない未来“に行こうみたいなことは、20代の頃からずっと一貫していた気がするんですけど」
●確かにそうだとは思います。ん~、ネガティブとポジティブという表現より、テンションが低いということかも。
「はいはい。歌詞を書いたとき、体調悪かったんでね、38.8℃あったから(笑)」
●いや、それは無理しないでください(苦笑)。
「歌詞に関してはフィックスしてないところはあります。おおもとのテーマは変わらないと思うんですけど、もうちょっとバカなふりはしたくて。もうちょっと突き抜けたいというか。わかんないですけどね。あとは、田澤君が歌ってるのを聴いたら、歌詞を変えたくなる部分は出てくると思う」
●でも、いまのところは、4月からのライヴで演奏する予定ではあるんですよね。
「はい。ただ現状でも、歌詞が変わるかもっていう話をしてるところは何ヶ所かあります。歌詞に関しては、もうひとつやりたかったことがあって、メロディの音数に対して乗せる歌詞の言葉の数を増やしたいんです。いままでのWaiveの曲は、”ドレミ“と歌ってるところに対して、”あの日“みたいな感じの歌詞しか乗せなかったんですね。メロディの音数に対して言葉数がはみ出るようなことを全然やってないから、そういうことをやってみたいと思ってる。ロングトーン系が多いから、それをちょっと試したくてあえて言葉を変えてるところもあります」
●言葉を多く乗せることって、田澤さんのヴォーカル的にどうなんでしょう、あんまり、
「求められてない可能性はありますよね」
●ですよね。
「それはそう思います」
●でも、やってみたいんですか。
「だって、やったことがないからわからないですもん。とにかく何か違ったことを試していくしかない。とはいえ、前の取材でも話したけど、Waiveとしてアウトに感じられるほどズレてしまうと駄目なので。本当にささいな試みのつもりでやってます。歌詞に関して悩んでるのはそういうところなんですよね。言いたいことも言いたくないことも当然あるんですけど、そんなことばっかりを考えるべきなのか、そうじゃなくてたとえば全部英語の歌詞にしたらどうだろうとか。やってないことで試す価値があると思ったことはチャレンジしていきたいと思ってます」
●4月6日のツアー初日に聴けるか楽しみにしてます。
「記事が出るときまでに、もうちょっとできているといいですね」