4月6日、HEAVEN’S ROCKさいたま新都心VJ-3を皮切りに、
TOUR『SHOCK WAIVE』がスタート。
今回の取材では、まさにツアー途中の杉本善徳に、
新曲を制作し、ライヴで披露したばかりゆえの、生々しい感想を訊いた。
迷いながら、考えながら、日本武道館への道をひた走っている、その声に耳を傾けてほしい。
ツアー真っ只中、2本を終えたところで
●埼玉と柏の2本のライヴが終わったところですが(取材は4月17日)、ツアーが始まっていかがですか。
「なんて言うんでしょうね。今回に限らず昔から思ってることなんですけど、ライヴをやると、自分の想像しているものと現実みたいなものが明確になってくるから、答えを探している状態から答えを知ってる状態になっていくんですね。それで情緒が変わるというか、落ち着くというか」
●ライヴ前はいろいろ考えちゃうけど、それがすっきりするような?
「そうそう。刹那的だけど、少なくとも今回のライヴに関してはこうなんだ、みたいな答え合わせができるから、もうどっしり構えるしかなくなるというか。新しくこういうアプローチで弾きたいと思ったり、もう何十年も弾き慣れているフレーズのほうが安全なんちゃうかと思ったり、とにかくライヴ直前まで迷いがある。その整理が本番で行われるんです。答え合わせを2時間半のライヴでやって、また次のライヴまで悶々と考えるんです」
●今日みたいに、ツアー中ではありますけど、ライヴとライヴの間みたいな期間はどうなんでしょう?
「今回は2週間空くから、その間により考えてしまうのでイヤだなみたいな感覚がちょっとあります。次のライヴまでの期間がもう少し短いと、悩む無駄な時間は減るから。考えるのに1週間は僕には長くて、中3日ぐらいでライヴをするのが一番整理できるかな。ライヴ翌日はまだあんまり考えられないし、翌々日はライヴ映像とかのデータ的なものも届いたりするから、一番考えますね。考えてからそんなに空けずに次のライヴというふうにできれば、本当は一番いいかな」
新曲制作で改めて感じた、これがバンドだなという感覚
●さてライヴでは、前回の取材でおうかがいした新曲「アルティメットミラクルジャンプ」が披露されました。あの後、曲作りは順調に進んだんでしょうか。
「順調かどうかはわからないけど、リハーサルでは、ほとんど他の曲を合わさず、新曲ばっかりやってたし、試行錯誤しましたね。テンポを何回も変えたり、打ち込みを僕が作ってるんですけど、リハーサルの後に作り替えてバージョン2を次の日に持ってきたり。でもメンバーは、これをやればいいということでしょ、みたいなところにすぐに入って作っていけた感じはありました」
●実際、ライヴで披露してみてどうでしたか。
「初日が終わって、貮方と一緒に帰ったんですけど、その車の中で、新曲があんまりにも盛り上がらなくてビックリしたね、みたいな話をしたんです。タイトルどおり、ジャンプする曲なんじゃないのという話になったけど、ニノッチはずっとジャンプしながら聴くタイプの曲だと思ってて、僕はそうじゃなくて、“ウルトラソウル!Hey!”(by B’z) みたいな感じのところだけ跳ぶのをイメージしてたんです。だから、ずっと跳ぶの?、え?、みたいに感じて。そういうふうに聴こえているのかと。確かに、僕が持って行ったデモよりちょっとテンポが遅くなってるから、跳べるなとは思ったけど」
●跳べるぐらいのテンポになったんですね。
「僕が書いたときにはもうちょっとテンポが早かったから。それをみんなで合わせてる間に変わっていって、結果的に僕が考えてたものとは違う形になったんですけど、これがバンドだなってつくづく思った。完成に近いかたちのデモを持っていってるのに、メンバーが思う要素がちょっと入っただけで違うものになるんですよね。それは、良くも悪くも楽曲提供してるときには起きにくいことだから。特にリズムが、デモとは違うのかもな。康雄のドラムがハードロック寄りで、自分はポップス側の人間なんで、いざドラムが生になったときにイメージしてるものと違う曲になるのは毎回のことで。でもそれがWaiveのグルーヴを生んでるのも事実だから」
●ドラム以外のパートについてはどうですか。
「田澤君は、リハーサルで歌っているうちに、メロディの譜割のハマりとかブレスのことを考えてテンポのことについては言ってましたね。淳は、新しい音楽も含めていろんな音楽と関わってるから順応が早いというか、知ってる知ってる、こういうことをやりたいんでしょうみたいな感じがありましたね」
●そうなると、貮方さんはどうなんですか、もう音楽は聴いてないとおっしゃってましたが。
「全然音楽を聴いてないから、デモを耳コピすることに専念している感じでしょうね。僕も曲を書いてるときにツインギターの絡みでこういうことをやろうぜみたいなのは全くないかな。正直、この曲だったらシングルギターのほうがいいかもっていう曲調ではあると思うし」
●だからと言って、ギターを置いて踊るわけにもいかないですしね。
「踊ってもいいんだろうけど、いまさらWaiveにそれは求められてないから。この間もスタジオで、みんなが突然ショルダーキーボードを持って全員がキーボーディストになる曲をやろうぜっていう話も出たんですけど、さすがファンがについてこられへんのちゃうかって」
●それはそうでしょうね。
「Waiveは、変化球を投げるピッチャーだと認識してる人にとっても、大リーグ何とかボールみたいな初めての変化球を急にやっちゃうと、どうしたん? ってなるから。特にバンドの終わりが明確にある中では、なかなかできない。でもね、みんながショルキーを持って出てきて、それで己のパートのフレーズをキーボードで弾くわけです。それがめちゃくちゃおもろいんちゃうかって話になったんです。なんで自分の楽器でやらんねんと。そういう話が出る程度にはポジティブというか、いろいろ考えられる状況にはあるし、考えてる状況ですね」
前回のツアーでステージ上で生まれた「爆(読み方:ボム)」の行方
●初日に新曲を演奏したときは盛り上がらなくてビックリしたというのは、予想以上の盛り上がらなさだったということですか。
「予想より盛り上がらなかったかな。要は、曲作りとかセットリストとかが、新曲を披露するという視点で見たときにうまくいってないんだと思うんですよ。「爆」をやってから、“新曲だ~”みたいな煽りで「アルティメットミラクルジャンプ」をやりましたけど、「爆」も新曲と言えば新曲だし、何のことを言ってるかはっきりしなかったんだと思うんです。さらに、「爆」を知らない人もいるから、戸惑いが起きてしまった。埼玉ではまずそう感じたかな。ジャンプさせるなら、そのための方法はあるんですよ。「火花」は初披露のときから、イントロがちょっと長めで、その間に拳上げるような煽りが入ったり、事前にSNSで何気なくAメロはクラップかな? なんてやり取りがあったりして、わかりやすかったと思うので」
●「アルティメットミラクルジャンプ」は、そこまでわかりやすい曲ではないですからね。
「結果的にWaiveの曲っぽくなったと思うんですけど、デモを作ったときにはいままでなかったものを考えてたんで、唖然としてる感じみたいのもある意味ねらいではあるし。でも、お客さんがすごいなと思ったのは、二回目の披露ではジャンプをするようになって、さらに二周目のサビの真ん中の“飛び込め”、パン! のところでは大きく跳ぶようになったこと。この人たちはライヴを観ることが生活に染み付いてる人たちや、と。それはビックリしたし、すごいと思った。一周目で何か違うなって感じて、二周目で変えてきたのには感心した」
●それはさすがの対応力ですね。
「その点、「爆」は扱いがムズイんですよ。たとえばですけど、「爆」を音源にしたら、ライヴの1曲目に持ってこれると思うし、アンコールでもいけるし、要は自在なんで。でも、現状はライブで発表したのみなので知らない人がいる可能性があるから、大丈夫なんかなっていうのも我々的にあって、整理がついてない。全員が違う解釈の中でやっちゃってるというか」
●気づいた瞬間には曲が終わってますし、でもタイトルコールしてからやったら意味ないですよね。
「いや、そんなこともないはずなんですよ。要はどう作るかであって、決め込んでしまえばいいんです。めちゃくちゃ神妙なMCから、“聴いてください、「爆」”みたいなタイトルコールで、シャンシャンシャンシャン、ボム!、“どうもありがとう”みたいなこともできるんです」
●ああ、確かに。
「でもWaiveは、作り込まずにナマでやりたがるから。でも、事前に打ち合わせなくそれをやっていいのかどうか判断しにくいんですよね。だから、Waiveのいまのステージでは思ってた感じにはならないんだなっていうのは、ライヴを2本やった感覚としてはあったかな。「爆」に関しては、一本目だけじゃなかったから」
●確かに。「アルティメットミラクルジャンプ」は、二本目の柏のほうが盛り上がりましたもんね。
「みんな、「爆」が何なのかわからずにやってるんだと思うんですね。曲が短いがゆえに自由度があるけど、どう演奏するか掘り下げるほど、「爆」を真剣に話し合うことなんてないし」
●話し合えばいいんじゃないですか。
「そういうことなんですよ。そこがバンドとして進行形で共有している時間が不足しているのかな、とも思うんです。でも、“「爆」のあそこって…?”っていうふうに言葉にして聞いたら野暮かなみたいなのもあるだろうし。ああいうところにこそ、バンドならではの難しさがあるんだとは思ってますね。新しい要素だからというのもあるし。20年間、「爆」をやってきてたら阿吽の呼吸が生まれるから」
●もし昔にこういう曲を作ってても、最初はいまみたいな状態になったということですか。
「いや、昔のツアーやと移動が一緒で、車の中で会話したりするから。“ボム!”で終わらせんと、“ボムボム!”って二回にしてみようぜとか、そういうわけのわからん話が出たと思う。いまはそういう会話の時間が減ってるし、良くも悪くもプロフェッショナルになっちゃってるからこそ「爆」に真剣だと誰も思わないというか。僕がこんだけ「爆」に対して思ってることがあるのは、たぶんみんなからすると意外だと思うんです、おそらくね。もっとノリでやってると思っているだろうし、普通にセットリストに入ってきて驚いているかもしれないけど、なぜ「爆」をわざわざ入れたのかみたいなことは、特別考えないと思うんですよね。さっきも言ったように、それをわざわざ尋ねるとバランスが崩れるみたいなのって誰と誰の関係にもあるので」
メンバー、会場、音楽。Waiveを聴いていた過去を彷彿させるもの
●ただ、埼玉のライヴの後に楽屋でお話したとき、熱さとか激しさみたいなところであと一歩超えてこないみたいなことをおっしゃってましたよね。ファンはもっと曲のよさを聴くことを求めているのか、みたいな。そのあたりはどんなふうに現状を受け止めているんですか。
「ん~、お客さん側みたいなことって僕らに答え出せないじゃないですか。だから、そこはわからない。でも、バンド側で変えられる部分はまだあるはずだと思ってるし、逆に変わってしまった部分があるのかもしれないし。リハーサルのときにステージから降りてバンドの演奏を俯瞰で見たりすると、ドラムの印象が以前と違ってるのは感じる。なんか年をとったドラムになってるし、本人的にいろいろ考えて変えている要素もあるのか、すごくサポートドラマーっぽくなってるように感じてるかな。昔のほうがもうちょっと自己主張があった感じ。曲によってはこれでいいけど、たとえば今回のツアーだと1曲目が「FAKE」だから、1曲目にやる意味がほしいですよね。だから、二回目の柏では本人にも伝えたし。それで、埼玉と柏は若干だけど印象が変わった気がする。だから、我々がまだ変えられるところがあるし、それを変に、もっと盛り上がってくれよみたいなことを言葉だけで伝えることで変えていくターンではまだないかな」
●座席のある会場で曲の良さをじっくり楽しむみたいな方向よりも、あくまでロックバンドのライヴがイメージとしてある?
「そこはわからない。わからないな。僕は、椅子があるところでロックバンドを観たい人たちって結構な数いるんじゃないのかなと思っちゃってるけど。ライヴハウスで揉みくちゃになって盛り上がりたいってのも心の奥底にあるけど、体や気持ちがついてこないって人は少なくないと思う。体力もそうだけど、コロナ禍を経て、スタンディングの会場にギチギチに詰め込まれて知らん人の肌と触れるのを受けつけなくなったみたいな人もいると思うし。でも、椅子の会場で聴くのに向いているような、いわゆる歌ものとかバラードみたいなものだけを座って聴きたいわけではなくて、「ガーリッシュマインド」で揉みくちゃになるのはしんどいけど、「ガーリッシュマインド」という曲がしんどいではないというか。そういう曲が、ライブハウスでロックバンドを観てた若かりし頃の自分とか景色みたいなものを思い出させてくれて、それが楽しいのも事実だと思うんです。きっとそれは、ステージ上の僕らの佇まいとかも含めて、なるべく若さとか青春めいたものを彷彿させるものを見たいというのはあると思う」
●若い頃に聴いていた音楽を聴く楽しさって、その曲を聴くことで当時の自分を思い出すからじゃないかと思うんですけど、これまでの取材でも善徳さんは、アーティストの見た目とか視覚的要素を重要視してる印象です。
「この人も変わってしまったな、もうジジイじゃんぐらい、完全に別物になってしまっていたら、音楽だけで過去を思い出すことができないというか、音楽も違うものに感じちゃう気がするんです。もちろん全員歳をとるし、いつまでも20代みたいなのは人として成長してなく見えるから逆に大丈夫かなってなるし、実年齢よりもマイナス10歳からマイナス15歳の間みたいなところを保つことが大事なんじゃないかと思ってるんですよ」
●具体的なんですね。
「森高千里さんが55歳って最近知ったんですけど、55に到底見えない。でも30に見えますかって言われたら、失礼ながらそれもないでしょ。何歳かよくわかんない、45って言われたら、そう見えるか見えへんのかわからんみたいな感覚。45に見える日もあれば見えない日もある、みたいなのが正解だと思う」
●よくわからない感じは、確かに正解かもしれないですね。
「よくわからなさを具体的に数字で表すと、実年齢マイナス10からマイナス15の間をさまようみたいな、グラデーションがあることがすごく大事な気がする。シワがあることも白髪が混ざってることも感慨深さにつながる瞬間は当然あるけど、見た目であれ言葉であれ何であれ、20年ワープするのはダメだし、ナウだけも絶対ダメだと思う。できればステージもそう。だから、セットリストとか会場選びは難しいし、それこそ椅子の有無への考えは、慎重にするべきことなんだと思うんです。なので、僕が決めるにはまだ早いというか、わからないところかな」
●今後の予定としては、6月に2マンライヴがあります。5月は何をするご予定でしょうか。
「決まってることで言うと、5月1日にメンバー全員で今後の活動について話し合いをすることになってます。「火花」のリリースは決まると思うし、5月の取材では、何らかの音を録り終わったりしてると思うんで、そういうことは話せるはず」
●楽しみにしてます。
「新曲も更に増やすことになると思うから、5月にも書くのかな。5、6月の2ヶ月のうちにもう1曲ぐらい書くでしょうね。真打というか、そういう曲を書くことになると思うので、そのうちの1曲をそろそろ作るタイミングになるんじゃないですかね。そういう勝負曲と、オチになる曲は絶対いるし、その間ぐらいにも、武道館の発表のときの曲みたいなのもいると思う」
●そうですね、発表のときに曲はほしいですね。
「そういう二、三段階は必要な気がするんで、これからそういう曲が3曲は生まれるのかなと思ってるんです。だから、みんなでショルキーを弾く曲が次の新曲ということはないでしょうね」
●ショルキーを弾いている時間的余裕はなさそうですね。
「真打の本命が、それになる可能性はありますけどね。それぐらいぶっ飛んでないとあかんのちゃうっていう意見が満場一致になったら。そのときは行き切るしかないから」
●いくらなんでも行き過ぎのような。
「柏のライヴの後にseekとちょっとだけLINEでやり取りして、言われたことがあったんです。Waive解散後もシンガーとしての活動をするだろうタカ君(田澤)にどうしても意識がいっちゃって、Waiveが解散することが霞むというか、実感が湧きづらい。彼としては、僕(善徳)がWaiveの解散後にステージに立たなくなるんじゃないのかというヒリヒリした部分も存在しているはずなのに、それにオブラートがかかってる感に違和感や勿体なさみたいなのを感じてるようでした。僕もそれはわかっていることだけど、武道館の日程が決まる前にどうこう言葉にすることじゃないよなと」
●タイミング的には、いまじゃないでしょうね。
「ま、折角の連載企画なんですし、こういう深い話は、そこにしっかり時間を割いてしましょう(笑)」