6月27日、Waiveの新曲『火花』がリリースされた。
昨年4月、再始動と日本武道館での解散発表とともに耳にした新曲が、満を持して世に放たれた。
2024年も残り半分となり、確実に日本武道館、そして解散が近づいているのを感じる。
杉本善徳の感情も、刻々と変化を重ねているのだろう。
取材を始めて6回目、Waiveの新曲を書くことに向けて
前向きに感じられる言葉が飛び出したのは、うれしい意外な展開だった。
新曲「火花」リリース! 令和の時代に曲を売るということ
●現時点では(取材は6月23日)、「火花」がいつリリースされるのかも発表されていない状況なんですが。
「配信でリリースするから、事前告知しないで、(発売日である)27日の午前0時に突然配信が始まって、正午に公式から発表がある形になるんです。先に告知して、それがニュースサイトに出てしまったりすると、まだ聴けない状態で告知が広がってしまって、一番広めたいタイミングでは情報を出してくれないみたいなことがあるらしく。いま一緒に仕事している人たちがそう言ってきたのでそういう形になりました」
●2マンの前にリリースとのことだったので、どうなっているのか今日おうかがいしようと思って来たんですよ。
「僕も、20日とか中旬ぐらいにリリースかと思っていたので、少しビックリはしました。ただ、配信でリリースすることについては全然知識がないんで。ほかにもいろいろ疑問に思うことはあるんですけど、確固たる自信とかロジックもない、未経験の人間がああだこうだ言うことではないと思ったし、とりあえずは乗っかってみようと」
●最初にバンドを始めたときは、先輩バンドの動きを見たりして、バンドの動かし方を知っていったと思うんですけど、バンド活動のブランクもあったし、世の中がすごい勢いで変わってしまったのもあって、わからない状態になっちゃってるわけですよね。そこで、新しい未知なものに挑戦する楽しさを感じていたりするんですか。
「楽しいまではないかな。未知なものに向かうべきなのか、知っているロジックで進めるべきなのか、そういう葛藤がちょっと続いてますね。周りの広告代理店の人とかに相談してみて、世の中のプロモーションの主流はどういうものなの?って質問しても、ワケのわからない返事が返ってきたりするんですよ。主流を聞いてるのに、ヴィジュアル系シーンはこうだよとか、Waiveだとこうだと思うよ、みたいな有難いけれど質問と関係ない答えが戻ってきがちで。もしかしたら誰も主流なんて知らないのかなって思う。これまでだと、ポップスなのかロックなのかぐらいの分け方があったのが、いまは演歌の中でも年齢とかによっていろいろ分かれててバラバラだし」
●人の好みが多様化して細分化されているということ?
「そんな気もするし、どうなんだろう。僕が感じているのは、音楽にはメジャー(レコード会社の区分けではなく)と言われるものがもうないのかも、っていうことなんです」
●情報量がすごく多くなったから、もう国民的アイドルは出ないのと同じような現象ですかね。
「そういうことだと思う。僕らの若い頃は、Mr.ChildrenとかB’zとかX JAPANとか、そういうアーティストが先陣を走っていて、自分らぐらいの年齢の奴は、北から南どこに住んでてもその存在を知ってたり、好き嫌いに関係なくヴィジュアルイメージがわいたりしたんですよね。そういうことがテレビを通してあったと思うんですけど、いまはテレビを見ない人も多いだろうし、インターネットで世界まで届くとしても関心のあることしか収集してもらえなかったり、広がり過ぎたがために濃度が下がってるし。ぼや~っと広がってるから、どこにどういうプロモーションをすればいいかがわからないんですよ」
●効果をねらいやすい王道のやり方みたいなものは、もう存在しないんですかね。
「そんな気がちょっとしている。最近、Adoの看板を街でよく見ると思うんですね」
●それは、ヴィジョンじゃなくて、看板?
「そうそう、静止画看板。看板については、二十何年も前に僕らが東京に出てきたときに、東京ってこんなに音楽の看板があるんやって思ったのを覚えてるんですよ。街の交差点という交差点、駅の周りという周りに音楽系の看板を見た。ああいうのを見ていて、東京って音楽をやるべくして来る街というか、音楽をやってる奴はここに来ないとダメなんだろうなって、すごく思ったんですよ」
●確かに、ビルの上のほうとかによくありましたよね。あれは、東京ならではの光景なんですね。
「そう。引っ越してくる前から、東京にライヴで来たときに看板を見て、自分たちが目指してるのはこれなんだろうと思ってた。だから、「Sotto…」をリリースしたときに、渋谷のセンター街か原宿か忘れたけど、街の写真に映っている看板にWaiveの写真を合成したデザインになったんです」
●ああ、そういう感じでした。
「それは、その話をデザイナーにしたのがきっかけなんです。当時、なんで東京に出て行くのか、なんでSWEET CHILDと契約してメジャーなフィールドを目指していくのか、そういうことを考えたり伝えたりする時期だったから、そういうデザインになったんですよね。それぐらい看板は印象的だったんです。近年はあんまり見ないと思ってたのに、最近はAdoの看板をどこに行っても見る気がするから、すごいなと思って」
●あえてそういうやり方をしてるんですかね。
「そうでしょうね。一見使い古された売り方ですけど、Adoの規模だと、マーケティングの人間とかがかなり考えた結果選んでいるはずだし、明確な理由があると思うんですよ、たとえそれが単なるブランディングだとしても。でも、十代にアプローチしてるAdoが街に看板を出していて、僕らの先輩アーティストでもTikTokをやってる人がいたり。マジで正解がわからん状態なんですよ」
●確かに、タイアップさえとれれば売れる、みたいなわかりやすい時代ではないですね。
「だから、とにかく悩んでるんです。取材のたびに同じ話をしてる気がするんだけど、要は誰に聴いてもらいたいのか、誰に武道館に来てもらいたいのか、それが大事やと思うんです。届けるなら、響かせるなら、どうしたらいいんだろうみたいなことを考えると、プロモーションもこれまでとは違うものにしないとダメなんじゃないのかなって僕は感じてます」
これまでにない可能性を感じさせる「火花」
●なるほど。プロモーション云々はさておき、今回のプロジェクトが始まったときに出した「火花」が音源になるというところで、改めて武道館を発表したときの気持ちを思い出すであるとか、そういう特別な感覚はありますか。
「あるはある。変な話ですけど、思いのほか出来上がりがカッコいいんですね」
●思いのほかというのは?
「なんて言うんですかね。これだけライヴでやってしまっていると、レコーディングしてもやっぱりライヴのほうがいいなとか、ライブのホットな感じと冷静にレコーディングした感じの温度差で、音源は良くも悪くも音源だねみたいな感じに落ち着いちゃったりしがちなんですけど、かなりライヴみたいな音源になってるんですよ。この年齢で、比較的巧みなタイプのバンドであるWaiveが、こんなことができるんだっていうぐらいの勢いを感じる。上手いのに、若いし、勢いがある。こういうアップテンポの曲をおっさんが無理やりやってるキツイやつとは違って、二十代から三十前半ぐらいのバンドちゃう? みたいな感じがある」
●そういうプレイを意識はしていたんですよね。
「もちろん、もちろん。Waiveの最近の音源はそういうのを放棄してたと僕は思ってるんです、「Days.」云々。もうこういうのは出来ないとか、新しくそういうことをやるのはちょっと恥ずかしいみたいな感覚があるかもと思ってたけど、「火花」の出来上がりを聴いたら違うんですよ。かなり攻撃的になったし、マジでえらいカッコいいバンドやねって俯瞰で聴いても感じる。出るところに出たら、人気が出るんじゃないかなって正直感じるんですよ。だからこそ、どんな層に聴かせるべきか考えるし、プロモーションについても悩む。たくさんの人が耳にする機会が作れたら、何かが変わる曲なんじゃないかと思えるから。ひとつ前に発表した「BRiNG ME TO LiFE」のときとは、明確に違うものがある。あれはWaiveのファンに向けた曲やから余計そうやけど、「火花」は違うことをやろうとしていたし、やってる気がする。誰かが同じだと言って来ようが、僕にはどう聴いても違うものに聴こえる。だから違うところに届けたいんですよ」
●そこで、プロモーションの話が出てくるわけですね。
「そうです。でも、結局これが世の中に出ないということは、「火花」に対する僕の評価では足りないということなのかなと思い始めてます。この曲を遠くまで届けたいと、周りの人たちは僕ほどに思ってないのかなって。いや、わかんないけどね。ただ、他人ばかりを責めてても転がらないから。もっと、「これだ!」って思わせる曲を作るしかないのかなっていうのは、「火花」の制作中に思った。自分は温度の高いものを作り続けるべきだし、リリースのタイミングに向けて、それを用意しておくのが次のターンでやるべきことだろうと」
●そういう意味では、曲作りに対する意欲が出てきているということなんでしょうか。
「意欲という表現が正しいかわかんないけど、でもそういうことなんだと思います。やるしかねえ、みたいな気持ちになってる感じですけど、正直ね。でも、ベタなことを言うと諦めたら試合終了じゃないけど、自分がやらないと本当に終わりがくると感じてるんです。僕は何回も言ってるけど、ガラガラの武道館でもマジでいいんですよ。言葉を選ばずに言うならば、集客数はどうでもいい。やり切ってガラガラなら、それは納得できるでしょ。でも、自分に対しての愚痴が最終的に出るのは一番寒い。せめて自分は頑張ってやって、この曲もこの曲も産んで、周りもこの曲なら武道館はできるって言ったのにあかんかった。そうなったときに、誰のせいやねんって自分が思えるようにしたい、せめてね。他人から、武道館ができるような曲を産んでないから無理だったよねって言われたら、そのレッテルは自分の中で続く気がする。広い会場でやってもおかしくない曲が出来ていたのに残念だね、と言われるか、それだけの曲があるからやっぱり大成功したね、その二個しか僕が得たい答えはない。そう考えると、やっぱり曲を書くしかないんですよ」
これから生まれる新曲が、Waiveを日本武道館に連れて行く
●そうなると、どういう曲を書いていくかが重要になってきますよね。
「自分たちが武道館でこういう景色を見たかったと思える、想像できる曲じゃないとダメなんじゃないのかな。単にいい曲というだけなら、作れてしまう気がするんですよね。作曲家であれば、みんな作れると思う」
●いい曲と言っても、いろんないいがあるわけで。
「そうそう、そうですよ」
●Waiveが日本武道館で演奏するにあたって、いい曲ということですよね。
「それをやらないとダメ。観る側にも、これを武道館で観たいなって思わせられないといけない気がすごくする。いまって、アルバム単位で曲を聴くみたいなことが少ないじゃないですか」
●いまはそうですね。
「でも、僕らの若い頃はアルバムの時代だったと思うし、アルバム曲みたいな存在があるじゃないですか。捨て曲じゃないけど、スルメ曲みたいな。でも、大規模コンサートの会場に行くと、アルバム曲的なものに対して、何やこれ?っていう感じに正直なる。コアなファンだったらべつですよ。でも周りを見ても、結構多くの人がこの曲を聴いてないかも、みたいな感じがあったりする。それでも、武道館に行くきっかけになった代表曲をやったら、めちゃくちゃ盛り上がる。規模が大きくなると、ミーハーなファンもいるからそうなるんですよね。たとえばLUNA SEAでも、何年か前の『黒服限定GIG』の東京ドームに行ったんですよ。僕は、『黒服限定GIG』やからインディーズ時代の曲を聴けて嬉しかったり、個人的に好きな「MECHANICAL DANCE」が観れたときが一番テンションが上がった。でも、アンコールか何かで「ROSIER」をやってるときが、会場全体は一番盛り上がっていて、『黒服限定GIG』に来てるファンでさえもこうなんやと思って」
●東京ドームですからね。目黒鹿鳴館に行ったことのない人だっていっぱいいるでしょ。
「それが当たり前のことなんだけど、はっきりと証明された瞬間でもあった気がする。ブレイク曲で知ったファンは、過去に遡ったとしてもアルバム曲すべてを聴くわけじゃないんだなって。だから、一回も武道館に行ってないWaiveは、理屈上は、武道館に連れて行ってくれる曲をこれから作らないとダメなんですよ」
●なるほど。理屈ではそうなりますね。
「どれだけ「いつか」とか「ガーリッシュマインド」」が代表曲であったところで、その曲は武道館に連れて行ってくれてないから。武道館に仮に一万人呼べたとしたら、それは「火花」以降の曲が連れて来ていて、そのとき「ガーリッシュマインド」は、コアなファンたちが喜ぶ曲になってるはずなんです」
●あ~、確かに。ちょっとイメージしにくいですけど。
「極論なんでね。武道館に3000人呼ぶプロジェクトであれば、「ガーリッシュマインド」とか「いつか」が最重要な曲だと思うけど、一万人を目指すんだったらたぶん違う。そうなると、アルバム曲を書いてる場合じゃないんですよ。仮にアルバムを作るとしても、全部シングルのつもりで書いて、とにかく「ROSIER」を作るしかないんですよ」
●Waiveにとって「ROSIER」に相当する曲。
「X JAPANの「Rusty Nail」とか、L’Arc~en~Cielにとっての「虹」とか、みんなが知ってる代表曲があるべきなんです。だから、Waiveのそれを作るしかない。そのつもりで全部一球入魂していくしかないかなってちょっと思ってる」
●それは曲作りに対してやる気になっているということなのでは?
「やるしかない、という気持ちも含んでますよ。ここはちょっと緩急つけて遅い球を投げようとか変化球を投げようとか、そんなことをやってる場合じゃないから。自分が投げられる最良の球を投げるしかない。大谷(翔平)がバッターボックスに立ったら、どこに投げるか策なんか練らずに、俺が一番投げるべき球を投げ続けるしかない。武道館やからって中途半端な小細工は通用しないんちゃうかなって思うし、“おら、「火花」!、おら、「火花」!”みたいな(笑)、そんなふうに投げるしかないかなという気がする。Waiveが武道館をやる上で、Waiveを聴く可能性がある人に、ひとりでも多く好きになってもらえる曲を書かないといけない」
●それはつまり、まだWaiveを知らない人たちを武道館に呼ぶ曲ということですよね。いままでの話で言うと、ホワイトゾーンの人たち。
「僕はどうしてもホワイトゾーンを獲得することを諦めてないんですよね。最終的な動員数はどうでもいいけれど、もっと多くの人に音を届けること、Waiveを知ってもらうということを捨てる気はないんです。でも周りの人は、優先するべきことはホワイトゾーンの獲得ではないと考えているかもしれないです。いまは、録り直しアルバムがあるんだから、それに集中しろっていう考えも出てくる」
●それも一理あるような。
「もちろん録り直しも一生懸命やるけど、過去曲を録りながらも新曲を書き始めるとか、少なくとも曲を書く僕はそっちを見ておいたほうがいいと思う。「火花」がいいものになって、バンドの現在のポテンシャルを改めて知ったから、いいものを作れるかもしれない気がしているし、だからこそ余計にそう思いますよね」
●ある種、追い詰められているのかもしれないですけど、曲を書こうという意欲がうかがえたのはよかったです。
「ただ、どんな曲が書けたとしても、曲がいいだけでは広く遠くたくさんの人に届くことは何があってもないんですよ。たとえ「Rusty Nail」が書けたとしても無理なんです。「Rusty Nail」が売れたのは、X JAPANという土台があり、X JAPANがリリースするという土台があるからこそであって。仮にどこの誰かわからない奴が書いた「Rusty Nail」だと売れない。それが音楽を売るということだと僕は思う。飲食業と一緒で、どこに店を出すかが全てに関わっちゃうんですよ。どんな料理人でも、料理の味だけでは話題にならないと思うから。ただ、もうそういう話をしている段階ではないのかもしれないし、いざというときに球がない状況になるのが一番マズいから、曲を書こうと。球だけは用意しておこうと思ってます」