6月29日にLM.Cと、30日にメリーと行った二本のツーマンライヴは、
杉本善徳に思いがけないインパクトを残したようだ。
熱くたぎるようだったライヴを振り返ったところから、
インタビューは思いがけない話に展開していった。
なぜWaiveは日本武道館を目指しているのか。
そこにあった想像を超える思いは、彼の切なる願いであるのかもしれない。
杉本善徳は、なぜ武道館ライヴを決めたのか。そこに込められた深い想い
●まず、前回の記事が出たのがちょうどツーマンの当日だったので、そのライヴを振り返りたいんですが、ツーマンという形式だったことによって、思いがけない刺激を受けたような感覚があったんでしょうか。
「僕はありますね。ワンマンは、パワー配分みたいなものがある程度理解できているけど、対バンのライヴを見たことによって、そのパワー配分を超えないとダメだって感じたんです。こうすれば100点でしょうというやり方で100点を取ることと、100点の先があるかもと思ってブーストをかけることは全然違うと思う。それをほかのバンドとライヴをやることによって思い出さされたというか、火がついたというか。ちょっと変な表現かもしれないですけど、自分たちの中にある“野性”が起きてきたみたいな感覚がすごくある。この間まで120点だと思っていたところが、結局100点でしかなかったことに気づいたような。そういう余白が生まれた感じがするし、やらないとダメなことがしっかり見えてきた気がする」
●そこで見えてきた、これからやろうとすることとは?
「やり残しをとにかく減らさないとダメなんです。やろうとしてやれなかったことは、やり残しとは違う。でも、やらなあかんとか言ってるだけで動かないまま、武道館当日を迎えたら、それはやり残しでしょ。そういう意味で、やらないとダメなことフラグみたいなものがはっきりと立った。それのひとつは、対バンをやることです。対バンの本数をやることで、バンドがあるべきところにちゃんとたどり着くし、それが武道館に対しても影響すると思う」
●誰に聴かせて、誰を武道館に連れてくるのかについてこれまで散々話してきましたけど、そういうことに対してより、自分たち自身がどうあるべき、どうありたいかみたいなことに対して、対バンが必要ということ?
「そこは違うかもな。Waiveの武道館のために必要なものが対バンな気がしてる。状況によっては対バンに限らず、ライヴ自体なのかもしれないですけど」
●それは自分たちがライヴをやることと同時に、たくさんの人に見せる機会が必要だから?
「そう思います。たとえばWaiveをテレビに出して、仮に一万人の視聴者に、“武道館やるんです、来てください”ってやるのと、500人の対バンを10本やって、のべ5000人に見せるのと、どっちが効果があるかを考えると、対バンで5000人に見せることだといまの僕は思ってる。我々の熱量とか本気を伝えるには拳を交えないといけないわけじゃないけど、言葉だけでは説得力がないというか。言葉の力は信じているけれども、目の前でナマで起きていることとか、その温度で伝えられることと言葉との掛け算で伝わることがあって、言葉単体が勝つことはないな。ライヴ単体で勝つこともないし、ましてや映像で見せたものが勝つわけがない」
●確かに。
「それも、ワンマンじゃなくて、ツーマンじゃないかな。LM.Cとメリーが、MCで“Waiveの武道館に行こうぜ”って言ってくれましたよね。昨日、先輩のミュージシャンと会っていたんですが、その人にも、“いま、武道館やるって正気の沙汰じゃないじゃん、すごい覚悟だと思うんだよね”っていう話をされた。Waiveが武道館をやるっていうのは、多くのミュージシャンがそう理解してくれる行動だし、普通の考えじゃできないなって思ってくれてるんですよ。そこでツーマンをして、俺らの本気を感じ取ったから、自分らの大事なファンに対してまで“応援しようね”って言ってくれたんだと思う。対バン相手にそういったことを言わせたい気持ちが、僕の中では“野性”に近い」
●Waiveのファンではない人たちに対しても、手ごたえを感じたような。
「僕が逆の立場で、あの2バンドのファンだったら、そう思っちゃうかもなって思ったんですよね。両バンドとも長くキャリアがあるから、言葉に重みがあって、だから伝わることがあった。彼らだって、対バンをするたびに“相手のバンドも観に行こうぜ”なんて言ってるわけないから、そんなことを言う瞬間自体がそう多くは存在しないはずなんです」
●それはそうでしょうね。
「Waiveが武道館をやることは、対バンとして観るまではLM.Cやメリーのファンにとって特別意味のあるものではなかっただろうけど、いまではWaiveがたどり着いた武道館が少しでも素敵な景色になることが、LM.Cにもメリーにも、もっと言うなら各メンバー個人や、その周りにいるバンドたち、みんなにとってのひとつの希望になる可能性があることを、あのライヴを観たファンの人たちは汲めるんじゃないのかな。これだけキャリアを重ねた人たちを応援しているのには応援している側にも何か理由があるはずだから。いまや、その人たちの人生という物語みたいなものを見たい、むしろ見ているんじゃないのかなと感じるんです」
●Waiveが武道館で解散するというプロジェクトは、WaiveとWaiveのファンの物語ですけど、いまのお話は、シーン全体にまつわる物語ですよね。そこまで大きな物語が描けることは想像していたんですか。
「僕はしてた、正直してましたね」
●おお~、それはすごい。
「周りにかなり影響を与える自信があった。絶対に台風の目になるって。それが起き始めていると思う。大きいものになるかどうかはわからないけど、武道館に集まった人が多くても少なくても関係なく、その人たちが“この空間を作ったのは我々なんだ”という生き証人になった瞬間に、武道館を目指すバンドマンが増えると思う。いまも、みんな武道館を目指してるけど口にできないんですよ、動員できないことを失敗だと思っているから。でも、武道館をやることの成功とかカッコよさは、人が入るか入らないかとは別のところにあることを、僕は見せられる自信があるんです」
●なるほど。
「武道館をやる、みたいな高みや理想を目指していくことができないマインドが、シーンが衰退してる理由のひとつだと思ってるんですよね。プロダクションに所属していると利益を出す必要があるから、それを目指すことが難しくなるんです。でも、いまはインディーズが当たり前になって、自分たちでやるしかないものが増えてるし、スタッフの数も減ってる。つまり、自分たちがやると言ったら武道館はやれるようになってるんですよ。武道館に限らず、アクセルは踏めるんだけど、これまでの活動でチキンレースを仕込まれたから、ブレーキを踏んでしまってるように見える。いや、お前がアクセルを踏んだら、ついて来てくれるスタッフも仲間もファンもいるのに、お前が前を走らないから、みんな手前でブレーキを踏むんだぞ、お前が一歩踏み込む勇気を持つしかないんだぞって言いたい。僕自身はそうやって崖から落ちるかもしれないけど、あいつ狂ってたな、落ちて死んでしまったけど、そこまで突き進んだのはちょっとカッコよかったんちゃうって思われたら、後続のアクセルを踏む力はぐっと増す。それでシーンが進むんちゃうかなと思ってるんですよ。それは、ファンにも影響するはず」
●それはどういうところで?
「ステージの上にいる人と下にいる人たちって別物じゃないですか。上にいる人たちはカッコよくないとダメだと思うんですよ。ルックスとかの話じゃなくて、少しリードした立場じゃないといけない。でも、それが逆転してしまってますよね。ステージの上にいる人はずっと音楽をやって大人になりきれていないから、人間力としてファンのほうが高い視点を持ってしまってる。“ついて来てくれ”と言葉にする人が、前を歩いていないのはおかしいと思うから。自分の人としての力を、ちゃんとリードできるところまで高めて、“私の惚れた人、カッコいいわ”って言わせることがすごく大事だと思うし、そうやることで、もう一度ライヴに足を運ぼうと思える人が増えるんじゃないかな。いまのシーンを見てると、楽曲はクオリティの高いものが増えたけど、それにグッと来ない。それは、その人たちの言葉とかメンタリティとか行動が、音楽に比例してないからだと思う。このシーンっていうか、おじさん音楽シーン(笑)みたいなものに、それが欠けてる気がしてる。この年齢まで続けてきたんだったら、クリエイターとしてモノを創るだけじゃなくて、人の生きていくさまみたいなものを見せる力があるべきでしょうと思う。だからこそ、“武道館をやる案に乗っかれる?”って、メンバーに話したし、僕が武道館をごり押しする理由のひとつはそれなんです」
●そこまで考えていたとは言っても、善徳さんってシーンの活性化にそんなに興味ありました?
「興味ない(笑)」
●ですよね(笑)。でも武道館を決めたのは、それができる自分でありたかったからなのか、ただ単にその行為そのものが面白そうだったからなのか、何なんでしょう?
「このタイミングで言ってしまっていいかわからないけど、話の流れとしてもう話しちゃいますね。僕の中では、ねらいがはっきりとあった。僕はシーンに対してガッカリしているから、音楽をやめたいと思ってる。でも、音楽をやめたいけどやめたくないんですよ。これは、ミュージシャンの多くが感じることだと思うけど。ただ、こいつヤバいなって思える奴がいればいるほど、もうちょっとここで戦おうかなって思う可能性も感じるんです。興味が持てるシーンになったら、俺はもっとカッコいいことできますよって言いたいのが僕の性格だから。ヤバイ奴に会いたいし、シーン全体からそういうものが漂ってほしい」
●結果的に自分が音楽をやりたいと思うために、シーンのことを考えていると。
「シーン自体は好きでもなければ興味もないけど、このシーンに自分というアーティストを作ってもらったことへの感謝はあるんです。好きじゃないだけで感謝はしてる。別に嫌いでもないですよ、要するに無関心。もうホントにシーンの中で誰が何してるか知らないし、知りたいとも思わない。でも、このシーンが輝いてくれたら興味を持てるのにって思うんです。シーンに対してもういいかな、みたいな感覚になってしまってるのが寂しいのは確実なんですよ。また戻りたいと思える空間であってほしいし、ここにいることが恥ずかしいなんて思いたくない。好きで入ってきた世界だし、確実に憧れてきたシーンだから。僕はそういう気持ちがすごく強くて、そうなってくれと思ってたけど、もう自分でやるしかないって気づいた。それで、自分にやれる最大限のことは何やろ? とか諸々考えていたときに、これしかないと思ったのがWaiveの武道館公演なんです」
●そこで武道館というアイデアが出てくるわけですね。
「そう。周りの奴は絶対驚くと思ったし、僕を知る誰もが“コイツは本当に狂ってる”と思うだろうと。普通は、そんなことを考えてバンドをしてないと思うから、これは僕だけが起こせるイノベーションなんじゃないのかな。だから、これはねらってやる価値があると思ったし、最初からそう思ってた。これに関しては、ねらってやってます」
Waiveの曲が書ける限られた時間に、できるだけ多くの曲を書きたい
●思いがけないことがおうかがいできたんですけど、「火花」のリリースについてもおうかがいさせてください。リリースしてみていかがでしたか。
「生の声が届いて、俺らの新曲を待ってくれてたんや、みたいな感情がすごくある。むちゃくちゃピュアに、反響をもらえることってこんなに嬉しいもんかぁみたいな驚きがある。そのおかげで、自分がもっと出来るみたいな気持ちになってます」
●それは反響が大きかったから?
「いや、わかんないです。正直全然わからん。もっと大きな反響を期待してたような気もするし。でも、USENのリクエストをやってくれてるファンの温度感みたいなものが伝わってくるじゃないですか。面倒くさいなって思いながらも、毎日ポチポチ、リクエストしてくれてる人たちの想いに、こっちも応えようとしないのはどうなの? みたいな気持ちになった。これに応えていくことの積み重ねが我々をここまで連れてきたし、これから武道館へ連れて行ってくれる可能性につながるのに、やってくれて当たり前と思った瞬間に全てがなくなるみたいな感覚がすごくあるんです。リリースをしたことでそれが可視化されて、目の前に現実として現れてグッと力になるものがあった」
●ただ反響があったからだけではなく、そこに気づきがあったんですね。
「僕は努力がすごく嫌いだし、努力できない人間なんですけど、努力しようかなと思ってるし、終わりが決まってるんやからしんどくても曲を書こうかなと思ってます。だってしんどいのはファンのみんなも一緒で、その中で我々を応援することに時間を使ったり、お金を使ったりしてくれてるんやから。一生懸命働いたお金で「火花」を買って、面倒くさいけどリクエストしてくれてるんやろうなって。そういう人たちに応えるからこそ向こうも応援するし、逆に言うと向こうが応援してくれるからこっちも応えるし。アーティストもファンも、どっちかが欠けてしまうと成り立たないんです。自分が何をすれば人を喜ばせることができるのか自問自答したら、曲を書くことしかないと思った。自分が曲を書いて喜ぶ人がいる。そのためなら、いまはしんどくても曲を書くんだと思ってます」
●善徳さんはファンのことをちゃんと考えているとは思ってますけど、ファンに応えたいという感情から曲を書こうとしているのは新鮮に感じます。
「それは本当に「火花」のリリースをして感じたこと。ソロのリリース、提供楽曲のリリース、バンドでのリリース、それぞれで違った種類の反響や得るものがあり、バンドでのリリースのときにしか得られない感情を思い出した。リリースをして、純粋な気持ちで、自分の耳にいい意見も悪い意見も噛み締めていこうみたいな気持ちになれたのは、本当に20年ぶりとかなんです。だから、かなり新鮮」
●それは、実際にリリースしてみないとわからなかったんですね。
「そうなんですよ。そのことに自分でも驚いてるぐらい。僕は、っていうか、アーティストは、ファンで絶対に変わる。絶対に変わる」
●大事なことなので二回言いましたね。ファンからの声がそれだけ大きな意味を持つということですか。
「そう思う。物作りをすることにでも、音楽を続けようでも、何もかもに影響する気がしてる。ソニーで坂西伊作さんと仕事をしてた頃に言われたことで、これはもう明確に一生忘れへんと思ってるのは、“やめるときはファンが教えてくれるから”っていう言葉なんです。君が決めるんじゃなくて、ファンがやめさせてくるって。それはもう本当にそうだと思う。ファンの数の話じゃないですよ。武道館にどれだけ集まるかじゃなくて、音楽を続ける価値があるアーティストだって自分に自信を持たせてくれるかどうか。いまは最後尾を走ってるけど、この追い風があったら前に出られるんじゃないのかって自分が信じられれば走り続けられるんです。ファンがそういう追い風になる。「火花」をリリースして、ファンの声が自分の原動力になることを改めて感じさせられてしまったんですよね。それは、数でも熱量でもない。決して今までに応援してくれていた人たちをないがしろにしてるわけでも当然ない。ただ、板の上に立つ側にしか感じられない応援の波のようなものがある。武道館までに出せて五曲、それも難しいかもと思うけど、“新曲は一曲あればよくない?”みたいなことを言ってた自分とは絶対に違うものになった。ただ単に数を書くという意味じゃなく、一曲だけに入魂するような力を注ぐ中で、できるだけ多く書く」
●100点がひとつだけあるより、100点が五つあるほうがいいっていうことですよね。
「そうそうそう。まさにそう思うようになった。Waiveの曲が書ける期間は限られているから、それまでに一曲でも多く与えてあげたい。たとえばファンのみんなが死んでいったときに、葬式で流す曲とか棺桶に入れたいCDとか、そういうものを一個でも増やしてあげたほうが、その人たちは楽しいんかな。それを喜んでくれるんだったら、それが僕にできる恩返しだと思う」
●善徳さんの場合、ファンに対してできることはいろいろあると思うんですけど、それが楽曲制作に集中してきているんでしょうか。
「クリエイティブをしたいという意識で言うと本当はいろんなことをやりたい。でも僕は、そこまで努力しなかったのに最初から音楽を生むことができて、これってギフテッドだから、絶対に。僕がWaiveとWaiveのファンに対して、最大限の自分のポテンシャルを見せつけることができるものは楽曲制作だと思う。そこな気がするんだよな。実際に新曲を出したら、グッズやらアートワークやらのほかのものとは桁違いのレスポンスが来たから。それに、僕は仮想敵がないと燃えることができない性格だから、古い自分の曲を仮想敵にして新しい曲を作ろうという考えにもなれた」
●過去の曲よりいい曲を書きたいと?
「以前、たとえばバラードを新しく書いたら、聴きたかったバラードが武道館で聴けなかった、みたいなことになるっていう話をしましたよね?」
●バラードを増やしたら、武道館で「spanner」ができなくなるかも、みたいな話ですよね。
「バラードは、いまのところ書く気はないんですけど、仮に書いたとして、その新しいバラードが武道館で聴けるんやったら、“もう「spanner」はなくてもええわ”って言わせられたら、それってすごいじゃないですか。一曲増えれば増えるごとに一曲セットリストから削られる可能性が増すわけだけど、古い曲のほうを削るでしょって言える曲を産んでいければ、作曲者冥利に尽きますよね。「火花」はもうそれができていると思ってるし、武道館で「火花」がセットリストから外れるイメージは湧かない。そういう曲が五曲できたらカッコいいんちゃうかな。自分がゾクゾクするような喜びは、アートワークとかほかのことより、音楽のほうが得られると思う」
●先ほどのシーンに対してみたいなお話もそうですけど、私が想像していたより、杉本善徳はミュージシャンだしバンドマンなんだという感じがします。
「そうなんだと思う。それが隠されてしまっていたのかもしれない、いつの間にか」
●しばらくライヴはないですが、新曲が聴けるのを楽しみにしています。
「再録アルバム制作もあるけど、早く新しい曲が生まれるようにしたいし、MUCCとのツーマンまでに新曲は作っておきたいですよね」