これから毎月29日(ニクの日)に、
杉本善徳/Waiveのパーソナルインタビューをお届けします。
記念すべき第一回は、昨年4月11日に再始動と解散を発表してから
活動を重ねたいま(取材は12月下旬)の心境をおうかがいしました。
日本武道館での解散ライヴに向けて、
その心にはひそやかに熱い思いがたぎっていました。
(PHOTO BY KEIKO TANABE)
再始動・日本武道館での解散を発表して、予想外だったこととは?
●再始動や日本武道館での解散を発表してから、ツアーも二本ありました。Waiveとしての活動がまた始まったぜ的な実感はありますか。
「あんまないのかな、なくもないけど。ん~、まだ、尺的にこれまでの再演とかとあんまり変わらないじゃないですか」
●活動している期間としてはそうですね。それを超えて、新たな領域に入らないと、今までとの違いはないということですかね。
「そうそう。細かいことだと、打ち合わせのときに先の話をするから、そういうちょっとした差はありますけど。これは今までと違うぞ〜、みたいなのはないかも」
●それは予想通りですか。発表して動き出したら、何か違いがあると思ってたとか。
「いろんな面で、そうなると思ってたところがありますね。一番わかりやすいところで言うと、もっとファンの方々の反応というか熱量は、違うものになるんじゃないのかなと思っていたんですよ」
●今までの再演とは違う受け止め方、反応が返ってくると思っていたということですか。
「そう。2010年に最初の再演をしたときが一番予想外だっただろうから、熱量が高いのはもちろんわかってはいるんです。沸点の高い人がそこには確実にいたけど、それ以降は落ちていくと思うんですよ。それは予想の範疇にあるし、期間限定復活みたいなものだと、行かないと決心してるような人も絶対にいるから。つまり、2005年の解散のときと同じような思いをしたくないとか、また見られなくなるとわかっているものは見たくないとか、そういう感覚で来ていなかった人たち。でも今回は、そういうプロジェクトじゃないんだとわかって、これならば見ていいぜっていう熱量が来るかなと思ってたんです。でも、正直そこがない。あまりないじゃなくて、ない」
●それは真意が伝わってないから?
「真意とかじゃなくて、リーチできてないと思う」
●ただ届いてないだけ?
「そうと思う。それは我々の努力不足だけじゃなくて、そもそも時間が経ちすぎて届く範囲内にファンがいないんじゃないのかな」
●こんなに情報網が発達してる21世紀に?
「うん。たとえばXでも、追い求めていない限りは引っかからないでしょ。各メンバーそれぞれの活動とかを追っかけてくれている人には届いたかもしれないですけど、時代の流れとともに、僕らもシーン自体も衰退してるから、より届かなくなってる。ファンの人も結婚して子育てしてとか他にも人生いろいろあるだろうから、違うレイヤーで生きているファンの中には、なんぼ大きい声を出したところで届かない人がいるというのが大前提としてあると思う。もちろんそれが原因の全てではないですけど。たぶん僕らに限らず、2000年から2010年頃にヴィジュアル系と呼ばれるシーンにいたアーティスト、紙のメディアをメインの情報発信手段にしてたアーティストは、情報を届けるのがめちゃくちゃキツイ印象がある。Xでフォローしてても、そのツールが流行って十数年経ってもうミュートしてたりするし、我々のフォロワーのうちの何人に届いてるか考えたら、実際の数はぐっと落ちると思うんです。だから、もう届け方がわかんないなっていうのは正直ありますね」
●その届いていない感じというのは、どういうところから感じているんですか。
「数字ですよね。チケットの販売枚数はこれぐらい、ファンクラブに入会する人はこれぐらいっていう見込み数に対して、実際の数字はだいたい60%ぐらいなんです。それは、僕らの読みが甘かったんだろうけど、すごく空振り感がある」
●現実は厳しかったと。
「戦略ミスも正直ある。武道館と解散を発表することは、我々としては絶対的に大事なコアだったし、何度もそこは話し合って決めたわけやけど、“じゃあ、最後の武道館だけ行きゃいいわ”って考える緩い層がいるのも絶対だし。ホットなファンがもっといると思ったのは僕らの甘えだと思う。全体的にちょっとずつ甘かった。さらに、Waiveはこれまでも運が悪いバンドだったんですけど今回も然りで、当初予定していたことが頓挫したり、ペンディングしたりすることがすでに続いているのもある。めちゃくちゃ難しい」
●善徳さんの感情も、そういう状況に引っ張られてしまっている?
「どっちかと言うと、引っ張られてる側かも。何だろうな、あんまりポジティブではない、とにかく」
●現状とは別に、たとえばライヴをやっていて再演のときとは違う感覚があるとか、自分自身の気持ちが違うぞみたいなこともない?
「今のところないかもな。あんまり変わんないっすね。もうちょっとあるのかなと思ってたんですよ。感慨深いものとか、カウントダウンが始まってるんだみたいな感覚があるかなと思ってたんですけど、良くも悪くも無というか、かなりフラットにやれてる気はしますね」
●意識しないようにしてるとか?
「全然。意図的でも何でもなく、本当に超フラット」
日本武道館に到達したときに味わう喜びと満足
●2024年一発目に出るインタビューとしては、かなりポジティブ感がないんですけど、半年ちょっとやってきて、ポジティブに感じているようなことはないんですか。
「ん~」
●このインタビューを読んだら、後悔してるような印象を与えそうな気がして。
「いや、違う違う。後悔は全くしてない。解散とか武道館公演とか、過去曲の録り直しをするとか、そういうのに対しては僕は何一つ間違ってないと思ってる。もし今から考え直すチャンスを与えられても同じ発表をすると思う。けど、そこを選んだ過程みたいなものがどうだったかと言われると、時代とかWaiveの現状を読み違えたかなという気はしてきてる。ライヴの本数とかタイトルの付け方みたいな細かいところに関して後悔はある。でもそれは、やらないとわからないことだから、あえてポジティブに言うならば、学びにはなってる」
●私がもうちょっとポジティブな発言が聞きたいと思ったのは、善徳さん自身がWaiveとしてまた活動してることを楽しんでいるのかが伝わったらと思ったからなんですよね。この年齢になってまたWaiveをやることを楽しめてるというか。
「いや、でもそこは、もう本当に赤裸々に言うなら、いまは楽しくないっすね」
●それはどうして?
「楽しむために始めた気がないからかな。いまの自分の精神状態が合ってるというか、正しいんですよ。間違ったという後悔があるから楽しくなくなったわけじゃない。武道館でのライヴって、楽にやる人もいれば、どうしてもできない人もいますよね。それを叶えた人たちは、めちゃくちゃ運がよくて突然1曲売れて武道館ができた人もいるだろうけど、その運を勝ち取った理由がきっとあると思うんです。ある程度の結果を出す人間は、その結果に対して何らかの理由を明確に作ってると思うんです。それは音楽に限らず全てのことに対してそうだと思う。その中には、苦労することが楽しいと言う人もいて、たとえば筋トレしてる人は筋肉の痛さが最高やねみたいな人もいると思うけど、それはその人がそう言ってるだけで、筋肉自体は悲鳴をあげてるんですよ(笑)」
●物理的にはそうでしょうね。
「そうです、そういうことです。だから、僕にとって楽しかろうが楽しくなかろうがどっちでもよくて、負荷に耐えた結果、たどり着ける場所というか、得られる何かがあるはずだと思ってる。いままで通り楽に生きてたんじゃ、その結果にたどり着くことはないんじゃない?って思う。だから、今までのWaiveに対して、楽しいなのか愛しいなのか、何らかのポジティブな感情があったけど、その感情の先ではないと考えてるんですよ」
●なるほど。
「だから、ファンにとって気に食わないことが仮に起きたらリーダーである僕のとこに矛先が向くと思うし、嫌な思いもするだろうし、そういうことも含めて、ストレスになってなんぼじゃないけど、そう思う。その覚悟のもとで始めたから。楽しくないことはネガティブなのかと言うと、そうではない」
●武道館に行くまでには何らかの犠牲が必要ということかと思うんですが、犠牲を払う喜びもありますよね。
「わかります」
●傍からは苦労してるように見えるかもしれないけれど、本人に納得感というか満足感というか、そういうのがあれば、それはポジティブな話じゃないかな、とか。
「ん~、何かね。いや、めちゃくちゃわかるんですけど。ちょっと身近な例になりますけど、たとえばDAISHIが」
●身近すぎです(笑)。
「彼がフィジークの大会に出るために、筋トレしたり、食事を節制したりするじゃないですか、よく知らないけど。その途中で、自分の体がどんどん引き締まっていって、鏡を見て脂肪がなくなってきたなとか思ってるんだとしましょう。それはしんどいけど、過程にも楽しいことがあり、喜びがあり、その結果、仮に3位になったとしたらそれに満足できることもまたあると思う。でも僕は、自分が満足するものは過程にはなくて、武道館の日にしか来ないと思ってやってる」
●武道館に向かう過程を楽しんだり、そこに喜びを見出すことはなさそうと。
「自分の中ではね。ただ、唯一それが変わる可能性があるとしたら、前回のツアーファイナルで神田スクエアホールをやったけど、それが売り切れて、次のライヴはキャパをあげてZepp Hanedaやりましょうってなって、それも売り切れました、次は国際フォーラムやりますか、みたいなふうになっていたら、それは自分の体が引き締まってるのを鏡で見てるみたいなことで、“武道館、成功するんちゃうん”って思えるから楽しめるのかもしれない。でも実際は、めちゃくちゃ頑張ってるつもりでいるのに脂肪が増えてるやんみたいな感覚やから。一生懸命やってもやってもチケットが売れなくなっていくな……みたいなメンタルにはなる。なので、最終日である武道館まで、俺には喜びが来ないんちゃうかなというモードになってる」
●自分たちがやりたいからやるというより、目標に向かってステップアップしていかないと喜べないということですか。
「その部分もあるし、逆もある。途中でめちゃくちゃ脂肪が増えていくみたいに、狭い会場さえも売り切れへんってなったとしても、武道館が満員やったらOK。目的は武道館やから、その過程で悩むのはよくないんちゃうかと思ってる。明確なゴールがあるから、過程にどれだけ苦戦しようが、最後で勝てばいいし、逆に道中がどれだけ楽しかろうが、ゴールで失敗したら自分の物語としては負けっていう感覚になってる。だから、最終的に勝つためなら、筋トレがしんどかろうがやるしかないのかな。正直、僕からすると、新曲なんて書きたくないですよ、産むのってしんどいもん。ずっと古い曲で喜んでくれて、古い曲をやってるだけでお客さんが増えていくほうが絶対楽じゃないですか(笑)」
●それはわかりますけど、つまりは新曲を書きたい純粋な意欲はもうないということ?
「そんなものは昔からなくて、作りたい瞬間がくるだけなんです。常に溢れでているわけじゃない。ただ、その意味で売り言葉に買い言葉みたいになってしまうけど、マネジメントとかプロモーターたちが新曲を書けというのには、応えないといけないと思ってるんです。レコード会社的立場の人からすれば盤(曲)を売らないと食っていけないけど、それはその人たちにとっての話ですよね。それでこっちは、曲を書くという大変なことをやるんだから、あなたも大変なことを背負いますよねっていうことです。“Waiveが武道館をするためには新曲だよ、今の時代に合ってる曲が必要なんだよ”と仮に言われたら、“じゃあ書くから応えろよ、これはお前が俺に売ってきた喧嘩やからな”って思ってる」
(後編に続く)
杉本善徳は、これからのWaiveや新曲にどんなヴィジョンを描いているのか。
さらに赤裸々に吐き出される言葉にご期待ください。
後編は、こちらです!